第二十六話「死なない男」
〜フランス戦線〜
秋山はゆっくりと目を覚ました。そしてすぐ隣で眠る茅野の方を向いた。
(慣れないよな。こういうのって)
そう思った秋山は身体を茅野の方に向けるとそっと頭を撫でた。すると茅野は気持ちよさそうな表情を浮かべたのちゆっくりと目を覚ました。
「....和樹」
「わりい。起こしちまったか?」
茅野は首を横に振ると秋山の胸にそっと手を置き、耳を押し当てた。
「服越しでも分かるね。貴方の鼓動。....ちょっと早いかな?」
「・・・」
秋山は口から息を吐きながらそっと茅野を抱きしめた。
「慣れないんだ。こういうのって....」
「私も、だよ。....聞いてみる?」
「・・・今日は、良い。今はこうして、抱き締めてたいんだ」
そう言うと秋山は僅かに強く茅野を抱きしめた。茅野はそっと深呼吸すると静かに両眼を閉じた。
「今最前線に居るって言うのを忘れちゃうくらい、落ち着く」
「・・・」
「ねぇ和樹」
「ん?」
茅野はそっと両眼を開くと秋山の服越しにそっと胸を撫でた。
「貴方のその強さ、支えてるモノは何?。隊長になりたいってだけじゃない、と思うんだけど」
「・・・置いていかれたくないのさ。渕上にも諏訪部にも、鳥海にも。アイツらは俺なんかより強い」
「そんな事、無いよ」
「そう思えないんだ。だから俺は、更なる高みを目指したい。彼奴も届かない様な、高みへな」
茅野は何処か心配そうな表情を浮かべた。すると茅野はそっと秋山の胸を押した。秋山は僅かに寂しげな表情を浮かべるとそっと茅野から手を離した。
茅野はそっと起き上がると秋山の横顔を心配そうな表情で見つめた。それを見た秋山はゆっくりと身体を起こすと再び茅野を抱き締めた。
「心配するな。茜を置いてどっかに行ったりしない。ずっと一緒だ」
「和樹....」
2人は目を合わせるとゆっくりと顔を近付けた。しかしキス2秒前。突然アラートが鳴り響いた。
「出動要請か....」
2人はベッドから起き上がり、立ち上がった。
「和樹」
「ん?」
「無理だけは、しないでね」
「ああ」
茅野は秋山にそっと笑うと秋山の部屋から出ていった。
「・・・」
(無理してるのは、皆んな同じだろ....)
※
〜ドイツ戦線〜
今野達グループAはアルフレート中尉の部隊と共に戦線を死守して居た。
今野機はレーザー砲がオーバーヒートしたが為にラーミナビームブレイドを二刀流で構え、アームラーミナビームサブマシンガンを撃ちながらラーミナビームブレイドでイータ人型機動兵器を斬り裂いた。
(レーザー砲の冷却が思ったより遅い。この状況で使えないのは致命的よ)
今野機はアームラーミナビームサブマシンガンでイータ人型機動兵器を蜂の巣にしたのち振り向き際にイータ人型機動兵器を斬り裂いた。
(支援機であれだけの近接能力。やっぱ隊長凄いな)
そう思いながら操縦桿を動かす芹沢。
芹沢機もまた、ラーミナビームブレイドを二刀流で構えながら只管イータ人型機動兵器を斬り裂いた。ラーミナバスターブレイドはラーミナ太刀とは違い、1対多の状況には向かない。だから自然とラーミナビームブレイドを使う機会が増えるのだった。
『友軍機接近。機数5』
『?。....⁉︎、中佐、お下がり下さい』
アルフレートはすぐさまクラウスに撤退する様に言った。
『休暇は終わりだ。俺も稼がせて貰うぞ』
『無茶です中佐』
「・・・」
(確かに友軍機は有難いけど、方面隊司令官が出てくるのはな....)
芹沢と今野は同時にそう思った。
『心配するな。死ぬ気は無い。だから僚機を4機も連れてきたんだ。・・・良いか、自分の命は落とすな。敵を落とせ』
『『『『ハッ!』』』』
「....」
不安を拭い切れない芹沢はモニター越しにクラウス機を確認するとなんとも言えない表情を浮かべながらクラウス機に接近するとクラウス機に接近するイータ人型機動兵器を斬り裂いた。
『芹沢』
「分かっちゃ居る。分かっちゃ居るがな〜....」
誰かを護る様に立ち回れば、それが指揮官機である事を相手に悟らせる事になる。だが芹沢は敢えてそういう立ち回り方をした。
様々な考えが今野や芹沢の頭を過ぎる中、今野はレーザー砲の冷却が完了したのを確認するとラーミナビームブレイドを納刀したのちアームラーミナビームサブマシンガンを撃ちながらイータ人型機動兵器と距離を空けたのち、戦術レーザー砲と伸縮式大型レールガンを展開するとレーザー砲でイータ人型機動兵器を薙ぎ払い、レーザー砲を避けたイータ人型機動兵器をレールガンで撃墜した。
(やっぱり、こういう戦い方の方が自分に合ってるわね。・・・もう強制冷却はごめんよ)
『(だったらもう少しレーザーの照射時間短くしなさいよ。あと照射と照射の間もしっかり開ける事!)』
「ッ!」
不意に機体に突っ込まれた今野はトリガーから指を離した。
※
(チッ!、流石に頭の中が白っぽくなって来やがったか)
不意に来た疲れ相手にイラッとする渕上。思わず操縦桿を強く握った渕上は表情を硬直させた。
「おいヴェヒター、良いから回せ。お前の心臓、まだ回るだろ。・・・使い熟してやるからもっと回せ。もっと寄越せ。....限界スレスレまでキッチリ回せ」
『(別に良いけど、後でどうなっても知らないよ)』
「今必要なんだよっ!」
長めに瞬きしたのち細く息を吸い、細く息を吐いた渕上は目を見開いた。
「まわぁせぇぇぇッッッ!」
渕上の呼び掛けに応える様に、ラーミナドライブは800回転程回転数を上げた。その瞬間、ヴェヒターのライフルから放たれるラーミナビームの色が変わった。変色したラーミナビームはイータ人型機動兵器のコクピットを貫くだけでなくその後ろにいたイータ人型機動兵器の右脚をも吹き飛ばした。
「もっとだ。もっと寄越せ。ヴェヒター!」
『ッ!』
『凄いな。ラーミナドライブってのは』
『・・・』
(渕上さん....大丈夫かな?)
通信機の向こう側で雨宮に心配されて居る事を知らない渕上は次々とイータ人型機動兵器に向かってトリガーを引いた。
渕上機から放たれたラーミナビームはイータ人型機動兵器のコクピットを貫くだけでは飽き足らず、後ろに居たイータ人型機動兵器のコクピットまで貫いた。通常の1.5〜1.8倍の濃度で放たれるラーミナビームは異常な貫通性能を持って居た。
『渕上さん....無茶ですよ....無理しすぎですよ』
雨宮の声は渕上には届かなかった。渕上は只管トリガーを引き、イータ人型機動兵器を仕留めた。
渕上機は拡張スラスター含めた全ての恩恵を活かして、異常な速さでイータ人型機動兵器を仕留めていった。だが此処で1つ、問題が起きた。
『(ライフル。限界かもな)』
「まだだ、まだ持たせろ」
量産モデルのラーミナビームスナイパーライフルで高濃度のラーミナビームを放ち続ければ、必ず、何処かがイカレる。既に渕上機のライフルの銃口からは焦げ臭い白煙が出て居た。
イータ人型機動兵器は渕上機の異常な戦闘力を警戒したのか、一斉に渕上機に群がった。それを渕上機は只管撃ち落とした。
(密集陣形で突っ込んでくれた方が有難い。貫通の餌食だ)
渕上の思惑通り、イータ人型機動兵器は次々とコクピットを貫かれた。
「来るなら来い。・・・血を見せてやる。....まっ、テメェらに血が流れてればの話だがな」
『援護する』
『戦友。防衛線引くぞ』
『了解した』
渕上機は僅かなスペースを飛び回りながら只管イータ人型機動兵器を仕留めた。しかしイータ人型機動兵器は死を恐れぬが如く渕上機に群がった。
そんな中、渕上がトリガーを引くと警告メッセージが表示された。
「ライフルが、クッソ」
『(言わんこっちゃない)』
渕上機はライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルをマウントラッチに携行するとホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜いた。
「回転数そのまま。行くぞヴェヒター!」
『(フンッ....分かったよ。付き合うよ)』
「おう!」
ラーミナビームピストルIIを二挺持ちで構え、ラーミナビームマグナムで次々とイータ人型機動兵器のコクピットを撃ち抜く渕上。
ラーミナドライブが限界ギリギリの高回転域に達した事でラーミナビームマグナムの出力は強化され、余裕でイータ人型機動兵器のコクピットに風穴を開ける事が出来た。
キルペースは先程よりも速く、渕上はヴェヒターを自分の手足の様に操った。二挺拳銃と銃型操縦桿の相性は最高で次々とイータ人型機動兵器を仕留めた。
だが今の渕上は800近くのイータ人型機動兵器を1人で相手して居る様なものだった。疲労もピークに達しかけた渕上と長期間の出撃で悲鳴を挙げ始めたヴェヒターでは、限界だった。
『もう辞めて下さい!渕上さん!』
「ッ⁉︎」
『無茶にも程があります。少しは観てる身の事も考えて下さい!』
「・・・」
『無茶して、渕上さんにもしもの事があったら、私....』
「・・・」
渕上は数秒表情を硬直させた。だが渕上は何処かキレのある表情を浮かべると操縦桿を強く握り、細い息を吐いた。
「俺は死なねぇ。ヴェヒターと一緒なら、俺は死なねぇ。・・・行こうぜヴェヒター。俺達に限界はねぇ!」
『(おう!)』
ヴェヒターは両眼カメラアイを発光させると只管イータ人型機動兵器のコクピットを撃ち抜いた。
(ぶっ潰す。撃ってくる奴全員ぶっ潰す!)
渕上機は只管イータ人型機動兵器を撃ち落とした。
そのうち、イータは悟った。
“此奴には勝てない”・“此奴は死なない人間だ”、と
(ヴェヒターと一緒なら俺は死なねぇ。俺は死なない男だ!)
「そうだろ!ヴェヒター」
『(君次第だが、間違っては居ないな)』
渕上に恐怖した一部イータ人型機動兵器は脱走にも近い撤退を始めた。それを見た1機のイータ人型機動兵器は逃げるイータ人型機動兵器を撃墜した。いわゆる同士討ちだった。
『ほーう』
『臭うな。俺が指揮官機か?』
量産機に紛れた指揮官機を見つけ出した加瀬と中井。加瀬はすぐに決断した。
『合わせろ戦友!2人係で一気に仕留めるぞ』
『おう!』
加瀬機はすぐさまスラスターを吹かすとイータ指揮官機に斬り掛かった。イータ指揮官機はラーミナビームブレイドを引き抜くと加瀬機のラーミナソードを受け止めた。
『今だ中井!俺ごと貫く気で突っ込め!』
イータ指揮官機の背後に回り込んだ中井機は指揮官機を護ろうとするイータ人型機動兵器を斬り裂くとイータ指揮官機のスラスターをコクピットごと貫いた。加瀬機は拡張スラスターを逆噴射させ、指揮官機から離れ、中井機も指揮官機を蹴り飛ばしてラーミナ太刀を引き抜くと爆散する指揮官機から距離を離した。
『どうなった?』
指揮官機を失ったイータは撤退を始めた。だがそれを認めない一部イータ人型機動兵器は撤退するイータ人型機動兵器を撃墜した。再び始まった同士討ちを前に一同は呆れた。
「ヴェヒター、もういい。あとは俺の仕事だ」
『(了解だ。気、抜くなよ)』
渕上はエンゲージタイムを解いた。それと同時に津波の様にドッと押し寄せた疲労を前に渕上は俯き、息を切らした。
(こんなにも体力が無いとは、情けないな)
渕上は身体を起こすと表情を一変させ、鋭くさせた。
「全機追撃は禁止。撃ってくる奴だけ仕留めろ」
そう言うと渕上は自分に銃口を向け、引き金を引くイータ人型機動兵器にラーミナビームマグナムを撃ち込んだ。
数分も経たぬうちに総崩れを起こしたイータは撤退。それを撃つ者は居なかった。
※
帰投した渕上は松田に機体整備とライフルの修理を頼むと高木と今野の元へ行った。
「申し訳ありません」
渕上は2人の前に立つや否や頭を下げて謝罪した。
「何の事だ」
「倉又少尉の撃墜及び負傷の責任は自分にあります」
「何故そう思う?」
渕上は頭を挙げると高木と顔を合わせた。
「倉又少尉の異変に気が付いて居ながら無謀な作戦を立案した事、倉又少尉を撤退させなかった事、バリアアサルトの展開を怠った事、全て自分の責任です」
「・・・そうか。まっ、分かってるなら良い。俺から言う事は何も無い。....パイロットが無事なら、それで良い」
「ですが、」
「悔やんでる暇も責任問題を追及する暇もない。しばらくは6機で回す。多忙になるぞ。・・・責任は、働いて償え。・・・行って良い」
「・・・」
何処か納得いかない表情を浮かべながら渕上は高木に敬礼するとその場を後にした。
「相変わらず、重圧に潰されかけてるな。良い加減慣れて欲しいモノだが」
「不安定なんですよ。19歳って。あれでも戦い、慣らそうとしてますよ」
「して居るだけでは足りん。厳しい様だが、奴にはこれから様々な重圧が襲い掛かるだろう。その時にすぐ適応出来ない様じゃ、リーダーは務まらない」
高木は厳しい表情で渕上の背中を観ながらそう言ったのち輸送機内に戻っていった。
今野は心配そうな表情で渕上の背中を観たのち自分の機体の方へ向かった。
そんな中渕上は輸送機内に入ると医務室を目指した。ノックしたのち医務室に入った渕上はベッドに横たわる倉又を見て、微かに哀しげな表情を浮かべた。
「今は眠ってるわ。そっとしてあげて」
渕上は頷いて返したのち足音を立てずにベッド側の椅子に座ると倉又の寝顔を眺めた。
「すまない。俺の判断ミスだ。・・・倉又の、戦いたいって気持ちも尊重出来ずに、俺は....」
渕上はその場に俯くともう一度倉又に謝罪した。
「今はとにかく休んでくれ。・・・本当に、すまなかった」
そう言うと渕上はゆっくりと椅子から立ち上がったのち京塚に後を頼むと医務室から出て行った。
「....渕上、さん....」
「?」
京塚はベッド側の椅子に座るとゆっくりと目を覚ました倉又と顔を合わせると起き上がろうとする倉又を止めた。
「....自分が情けないです」
「え?」
「好きな人の戦いを側で見て居たかった。ただ、それだけなのに....松田さんに思い打ち明けたせいか何処か舞い上がって....機体壊してこうやって怪我までして。・・・自分が情けないです」
「・・・」
京塚は笑みを浮かべると首を横に振った。
「ああいう絶対に死なない男に恋する気持ち、分からなくもないし、時には恋のせいでボォーっとしちゃう時だってあるわ」
「でも、私は....」
「命助かったんだから悔やまないの。怪我も大した事ないし。....今はとにかく休んで」
そう言うと京塚は椅子から立ち上がった。倉又は静かに涙を流した。
その一方で渕上は松田の元を訪れて居た。
「晴翔さん。機体状況は?」
「ライフルは修理不能です。あっちこち焦げ付いてて、今ある機材じゃ修理不能です」
「そう、ですか....」
「ですが、また1つ新たなデータが取れました。満さんも喜ぶでしょう」
渕上は頷きながら整備が進むヴェヒターを見上げた。
「それにしてもいつになったら帰れるんですかね〜。機体が悲鳴挙げ始めてますよ」
「暫くは6人で回すって言ってましたから、まだぽいですよ」
松田は大きなため息を吐いた。




