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第二十五話「叩き付けられた戦況」

 だがその攻撃は倉又機には届かなかった。何故なら“あるモノ”が倉又機を護ったからだ。


「・・・、?」


 倉又はゆっくりと目を開いた。するとそこにはバリアアサルトが展開されており、倉又機を只管に護って居た。


「・・・」


 倉又はノイズだらけの機内無線を切るとヘルメット通信に切り替えた。


『倉又!応答しろ倉又!』

『倉又さん!応答して下さい!』

『倉又!聞こえてたら返事しろ!』

「聞こえます。生きてます」

『よ、よかった〜』


 雨宮の安堵した声を聞いた倉又は機体ハッチを開けるとシートベルトを外したのち機外へと出た。


「痛ッ」


 激痛の走る左腕を見た倉又は大きめの破片が腕に刺さってる事に気が付いた。


「....」


 それ見た倉又は全身から力が抜けた様にその場に座り込んだ。

 すると自分の目の前にヴェヒターが土煙を挙げながら着陸した。


「コハク、引き続きバリアアサルト展開。パドは機体を頼む」

「「リョーカイ・リョーカイ」」


 渕上は救急キット片手に機体から降りると倉又の元に駆け寄った。


「大丈夫か?。今処置するからな」


 渕上は倉又のパイロットスーツの腕部を切り取ると止血帯を取り出し、倉又の二の腕をキツく縛るとピンセットを持った。


「腕掴んでろ」

「え?」

「早く」

「う、うん」


 倉又は右手で渕上の腕を掴んだ。すると渕上はピンセットで刺さった破片を掴むとそのまま引き抜いた。倉又は声にならない悲鳴を挙げながら渕上の腕をギュッと強く握った。

 破片を抜いた渕上はピンセットを置くと止血剤を口で引き千切って開けたのち倉又の傷口に振り撒くとガーゼと包帯で処置をしたのち三角巾で倉又の腕を吊るし、首に掛けた。


「これで一応は大丈夫だ。よく耐えたな」


 渕上はゆっくりと倉又を立たせると肩に担いだのち自分の機体へ戻った。機体に乗り込んだ倉又は座席を右手で掴むとコクピット内を見渡した。


(これが、ヴェヒターのコクピット....)


 コクピットハッチを閉め、シートベルトをした渕上は倉又の事を気遣いながら機体を離陸させた。

 だが既に、渕上機は包囲されて居た。


「コハク!」

「バリアアサルトテンカイ・バリアアサルトテンカイ」

「一旦退く。加瀬、援護出来るか?」

「任せろ」


 加瀬機はすれ違い際にイータ人型機動兵器をラーミナソードで斬り裂きながら渕上機の側まで行くとラーミナツインレールガンのレールガンで渕上機の周りに居るイータ人型機動兵器を仕留めた。

 だが渕上機は思い通りに立ち回る事が出来ず、イータの包囲網から抜け出せずに居た。


(クソッ。手負いの倉又を乗せてとなると、真面に操縦出来ねぇ。倉又が両手掴まれる状態なら、もう少しはな....って、嘆いても始まらねぇ。まずは出来る範囲で包囲網を打開しねぇとな)


 渕上はバリアアサルトに護られながら丁寧に操縦した。だがそんなので逃して貰えるほどイータは甘くない。


「ッ、....」


 更に追い討ちをかける様に自体は悪化していく。


『レールガンが、....ジャムか!。クッソ』

「このままじゃあ....」


 加瀬機のレールガンが弾詰まりを起こし使用不能となった。渕上は表情を険しくした。

 その瞬間、渕上らの後方から実弾の嵐と多数のミサイルが弾着した。


「ッ⁉︎」

『なんだ?』


 4機のドイツ製リベラシオンがマシンガンを撃ちながら戦線へ突入した。


『援護する。補給に戻れ』

「ユーリウス大尉。助かります」


 4機のドイツ軍機が突入した事で戦線が乱れたのを良い事に渕上機と加瀬機はスラスター吹かし、戦線より離脱。そのまま撤退した。


「助かった」

『ああ。グットタイミングだ』





 前線拠点に戻った渕上は機内から倉又を降ろすと倉又の事を京塚に任せた。

 丁度グループAも戻ってきたところで、グループAの岬 里美が今野達に握り飯と飲料水を手渡して居た。


「大変ね。貴方も」

「前線で戦う貴方に比べたら、どうって事ないわ」

「戦ってるのは皆同じ、でしょ?」

「確かにそうかもしれませんね」


 風間にそう答えた岬は微かに笑みを返した。

 それを見て居た渕上は後ろを振り返ると整備・補給の進むヴェヒターを見上げた。


「レールガンがジャム起こした。頼むぜ整備士」

「申し訳ありません。すぐに直します」


 加瀬は僅かに苛立ち表情で自機の矢矧改を見上げたのち渕上の元に歩み寄った。


「倉又の穴、どうする?。2機で回すには難しいぞ」


 渕上は口元に手を添えて考えた。するとそこへ今野が歩み寄って来た。


「グループAから中井を合流させるわ。3機で回して」

「わかりました」

「了解した」


 今野は飲料水を飲みながら渕上らの元から離れた。それと入れ替わる様に今度は岬が渕上らの元を訪れた。


「今のうちに食べて下さい」

「助かる」

「助かります」


 京塚の代わりに渕上らに戦闘糧食の握り飯と飲料水を渡す岬。渕上は岬に礼を言ってから握り飯に齧り付いた。


「塩が良い感じ効いて美味いな」

「それはよかったです。まだまだありますから、どんどん食べて下さい」


 渕上は少し早いペースで握り飯を食べた。一方の加瀬は2つ目に手を伸ばした。


「にしても、」

「はい?」

「倉又、大丈夫かな?」

「傷は広いですが浅いですし、止血もちゃんとしました。それに京塚さんなら大丈夫ですよ」

「だと良いんだがな」


 そう言う加瀬は2つ目の握り飯に齧り付いた。渕上は口ではそう言ったもののやはり心配で輸送機の方を向いた。それを見て居た加瀬は微かに難しい表情を浮かべた。


「私も京塚さんも、こう言う時の為に居るんです。信じてください」


 岬は何処か自信ありげにそう言った。それを聞いた渕上は微かに笑みを浮かべると飲料水を吸い上げた。


「ウデソウコウ、カクニンカンリョウ・カクニンカンリョウ」

「キャクブソウコウ、カクニンカンリョウ・カクニンカンリョウ」


 整備ドローンを操るパドが松田に報告する中、松田はデータ端末とヴェヒターを交互に見た。


(よし、推進剤の減りは思ったより少ない。でも拡張スラスター部分が悲鳴を挙げてるな。ただでさえ長期任務で機体が、って時にこう言う持久戦だもんな....)


 松田は険しく難しい表情を浮かべた。そんな松田の肩に桑原は優しく手を添えた。


「ッ⁉︎」

「機体、悲鳴挙げてますね」

「....これは少しキツイですよ」

「でも、私達に出来る最善を尽くしましょう。私達には、パイロットを生かして返す責任があるんですから」

「そうですね」


 松田は桑原は視線を外すとヴェヒターを見上げた。


「加瀬さん。整備、終わりましたよ」

「ヨシ」


 加瀬は残った握り飯を口に放り込むとグローブをハメ直し、袖口ねファスナーを閉め、ベルトを閉めると岬に飲料水のボトルを返したのち矢矧改の方へ走った。


「松田さん」

「ブースターポットの整備がまだだ。もう少し待ってくれ」

「先に行ってるぞ」


 そう言うと加瀬は機体に乗り込み、ハッチを閉めるとシートベルトをしたのち機体を起動させた。そしてポンプはケーブルが外れてるのを確認し、桑原からのゴーサインを確認するとペダルを踏み込み、機体をジャンプさせると中井機と合流し、戦線へ飛んだ。


「久々の共闘だ。助け合いの精神で行くとしよう。戦友」

『そのつもりだ』





「中尉、そっちの状況は?」

『なんとか、って感じです。キツいですね』

『各隊へ。敵第二波接近。交戦に備えろ』

『この状態で第二波かよ』

「日本で言う、津波、だな」


 津波の様に襲い掛かる攻撃と大群を前にユーリウスは表情を険しくした。


(頼みの日本軍も1機損出。こっちの防衛線はかなり薄い。さて、どうしたものかな)


 僅かに操縦桿を強く握り、叩き付けられた戦況を受け入れるユーリウス。そんな中、ユーリウスの後方に居た3機のイータ人型機動兵器が撃墜された。


「なんだ」

『遅くなったな大尉。加勢する』

「日本語訛りのドイツ語。第五独立遊撃部隊か!」


 加瀬機は大型ラーミナツインレールガンのレールガンを撃ちながらスラスター最大出力で戦線に突っ込んだ。

 それに続く様に中井機もラーミナ太刀を構えながら戦線に突っ込むとイータ人型機動兵器のコクピットを突き、斬り裂くと振り向き際にイータ人型機動兵器のコクピットを斬り裂いた。


(機体よ、動きたい様に動け。後を任せる)


 己を無にし、機体に体を預ける中井。

 その一方で加瀬はラーミナソードで次々とイータ人型機動兵器を上下真っ二つ或いは左右真っ二つに斬り裂いた。


『もう1機はどうした?』

「少し整備に手間取ってる。が、すぐに来る」


 ユーリウスにそう返した加瀬はペダルを踏み込んでブースターポットとスラスターポットを逆噴射させ、制動を取ると振り向き際にイータ人型機動兵器を斬り裂いた。


『敵の第二波が既に戦線に合流した。かなり厳しいぞ』

「知った事か。戦況は厳しくて当たり前だ。例えそれが、叩き付けられたモノでもな」


 加瀬機はラーミナソードで只管イータ人型機動兵器を斬り裂いた。第二波が合流した分、イータは密集陣形になっており、加瀬や中井にとっては好都合だった。


(突破する気は無しか。やはり俺達が目当てか)


 そう思った加瀬は表情を鋭くした。

 加瀬機が振り向き際にイータ人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂くと同時に一筋の閃光がイータ人型機動兵器を貫いた。


『ッ』

「来たか」


 加瀬はモニター越しに閃光の源の方を向いた。

 次々と閃光に貫かれるイータ人型機動兵器。その閃光を放って居たのはヴェヒターだった。

 渕上はライフル型コントローラーを両手で構えるとトリガーを引き、次々とイータ人型機動兵器を撃墜していった。


「お待たせしました。戦線に復帰します」

『思ったより早かったな。有難い』


 渕上は戦線にある程度近付くと機体の前進を止め、狙撃に徹した。

 だがイータ人型機動兵器群の一部が防衛線を突破しようとしてるのを見た渕上はライフル型コントローラーを格納すると操縦桿を握った。


「狙撃手が居れば、その分戦線が下がるって事か」

『厄介だな。援護射撃があった方が楽なんだがな』


 渕上機は戦線に突っ込むとすれ違い際にイータ人型機動兵器をライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIで撃ち抜いた。


「いつもながら、数が多いな」

『こんな大規模攻勢は、過去には無い。本気で潰しに来てるな。支援要請してよかった』


 ユーリウスはそう言いながら150ミリマシンガンを連射し、次々とイータ人型機動兵器を蜂の巣にした。


(倉又の抜けた穴はデカいな。俺のミスだ。畜生ッ)


 微かに操縦桿を強く握ると同時に微かに表情を険しくする渕上。だがそこへ悪い知らせが入った。


『敵、第三波接近!。合流まで3分』

「冗談だろ⁉︎」

『第二波すらほぼ手付かずの状態で第三波が来るか。持久戦よりも厄介な状況だな』

『第三波が来たら、7対1000って感じか。本気で潰しに来てるな』


 渕上は目付きを鋭くしながら考えた。


(どうする?。戦線を下げて、拠点直掩隊と共に迎え撃つか?。いやそれだと前線拠点を狙われる可能性がある。今は拠点と距離があるから俺達に食い付いて居るが....拠点に近付ければ....)


 様々な考えが渕上の頭の中で交差した。そんな中、渕上機のレーダーに4機の友軍機が新たに映った。


「ッ」

『ユーリウス大尉、遅くなりました。加勢します』

『マテウス?。第六方面隊の応援に向かったんじゃ?』

『色々あって引き返して来ました。第六方面隊は大丈夫です。なんせ第六方面隊を狙ってた戦力が、此処を狙い始めたもので』

『成る程。此処が集中的に狙われてる訳か。救援感謝する』

「・・・」


(相手は1000機近く居る。4機加わったところであまり変わらないが....1桁が2桁になるだけでも気持ちが違う。・・・よし、)


「加瀬、中井。此処を死守するぞ。1匹たりとも後ろに通すな」

『はなっからそのつもりだ』

『やってやる』


 渕上は考えを改めると操縦桿を握り直した。


『渕上、遠慮は要らん。....殺れ』

『こっちは気にすんな。本気を見せつけてやれ』

「んなら遠慮なく」


「(エンゲージ)」


「行くぞヴェヒター!」


 ヴェヒターは一瞬だけ両眼カメラアイを発光させた。


『(数に惑わされるな。撃ってくる奴を正確に狙い撃て)』

「はいよ」


 渕上機は撃ち返す形で次々とイータ人型機動兵器を撃ち落としていった。それを見て居た中井は僅かに口角を上げた。


(渕上のエンゲージタイムか。芹沢より気迫があって濃いな。今野に近いが、今野とも違うな。・・・見せて貰うぜ)


 中井にそんな事を思われてる事も知らず、渕上は次々とイータ人型機動兵器を撃墜していった。

 撃ってくる奴、撃ち始めた奴を正確に狙い撃つ渕上機。その無駄も隙も無いながら何処か人を魅了する戦いをモニター越しに見て居た中井は思わず口角を挙げた。


(あんな戦いを見せられては....心が踊り、奮起されるという事は、俺もまだまだ自分を無に出来てない訳か....)


「・・・」


 渕上機は淡々とイータ人型機動兵器を撃墜していった。そのペースはさっきよりも速く、正確だった。


「なぁ、なんか悲鳴あげてないか?」

『(こっちの悲鳴は気にするな。ラーミナドライブもスラスターも正常だ。今は目の前の敵に集中しろ?)』


(・・・ブースターポットか)


 悲鳴の正体をわかって居ながらも、渕上はペースを落とさなかった。何故なら松田の整備を信じて居るのと数が数。落とすに落とせなかった。


「....」


 今まで大群という大群を捌いて来た渕上だったが叩き付けられた戦況を前に渕上は険しい表情を隠し切れなかった。それは加瀬や中井も同じだった。

 加瀬機は肩部マイクロミサイルランチャーを掃射するとイータ人型機動兵器と一気に距離を詰め、ラーミナソードでイータ人型機動兵器を斬り裂くとブースターポットとスラスターポットを逆噴射させ、急制動を掛けるとその勢いで機体をバックさせ、振り向き際にイータ人型機動兵器を斬り裂いた。

 中井機は変わらずラーミナ太刀で次々とイータ人型機動兵器を斬り裂いていった。だがいつもより腕部170ミリ単発砲を使って居た。腕部170ミリ単発砲でコクピットを撃ち抜き、振り向き際にラーミナ太刀でコクピットを斬り裂いた。しかしラーミナ太刀では限界があった。イータ人型機動兵器を捌き切れて居なかったのだ。


(どうする?、ラーミナビームブレイドに切り替えるか?)


 使い慣れてない・あまり使いたくない武器でキルペースを作れるか。そんな考えが中井の挙動を僅かに乱した。


(こんな大群。・・・どう捌けと?)


 中井の挙動が乱れる中、加瀬自身も精神的に限界スレスレだった。


 誰もこれも精神的に・肉体的に疲れ始める中、イータ人型機動兵器は900機近く居た。

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