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第二十四話「空っぽの倉又」

【7月13日 月曜日】


 渕上らRAINBOW.Fは再びクラウスらドイツ戦線第五方面隊の元を訪れた。


「お久しぶりです。クラウス中佐」

「2週間ぶりぐらいか?。活躍してるらしいな」


 そう言うとクラウスは今野と高木を作戦司令室へ招き入れた。

 一方で松田は補給の進むヴェヒターを見上げた。


「所々傷み始めてるな。本国に戻らないと不味いかもな」


 そう呟いた松田はヴェヒターとデータ端末を交互に見た。

 そんな松田の元に歩み寄って来る女性が居た。倉又だ。


「こりゃまた珍しい。俺に何の様です」

「実は、渕上さんの事で....」

「?」


 松田はデータ端末を降ろすと身体ごと倉又の方を向いた。


「渕上さん、私の事何か言ってますか?」

「いえ、特には」

「そう、ですか....」

「?、???」


 ハテナを浮かべる松田。だが松田は倉又の表情を見るとなんとなくの事を察した。


「自分の気持ちに正直になり、自分の気持ちを整理されてみてはどうです?」

「・・・」

「敢えては言いません。ただ、」

「好きです」

「....」

「渕上さんの事が、好きです」

「・・・前からそうなんじゃ無いかとは思ってましたよ」

「最初は憧れでした。・・・それが、幸せに変わり、そして、」

「恋になったと」

「はい」


 松田は鼻を鳴らすと微かに笑みを浮かべた。


「本人に、言うべきでは?」

「わかっては居ます。ただ、怖いんです」

「怖い?」

「今の関係が、壊れそうで」

「・・・人を好きになるってのは、そういう事だと思いますがね〜」


 そう言うと松田は再びヴェヒターの方を見るとデータ端末を見ながら補給を進めた。

 倉又はそっと松田の元を離れると雨宮と談笑する渕上を見るや否や難しい表情を浮かべた。


「よかったんですか?」

「ん?、ああ桑原さん」


 松田は桑原の方を向くと軽く笑って見せた。


「恐らくですけど、渕上さんの事が好きだと思ってるの、倉又さんだけじゃないと思いますよ」

「ですね〜。修羅場ですね〜」

「・・・」


(なんか、凄く他人事みたいに言ってない?)


 桑原は軽く微笑むと倉又機・加瀬機の補給状況確認に向かった。


「傷んでるわね....」


 そう呟く桑原を他所に今野から召集が掛かった。

 いつものメンバーが揃ったのを確認した今野は全員のタブレット端末にデータを送ると作戦を説明し始めた。


「イータの大規模侵攻が確認されたわ。作戦の内容は、イータの前線突破阻止及び前線拠点接近阻止よ」


 今野は淡々と作戦を説明して居た。だが倉又は何処か上の空だった。


「・・・、?」


 渕上もそれに気が付いたが敢えて特に何も言わず、今野の作戦説明に耳を傾けた。


「その後、....倉又少尉」

「・・・?」

「倉又少尉!」

「っ!、は、はい!」

「ちゃんと聞いてる?」

「はい!、聞いてます....」

「そう。なら良いわ。・・・この作戦は敵の戦力を削ぐと同時に持久戦になるわ。補給線を上手く活用して。その後、余裕があれば敵拠点の偵察も行うわ。かなりの長期戦になるわ。準備を怠らないで」


 全員が一斉に返事を返す中、渕上は倉又の方を向いた。


「倉又少尉」

「はい?」

「大丈夫ですか?何処か具合でも」

「い、いえ。大丈夫です」

「そうですか。・・・今野隊長。1つ提案があります」

「聞くわ。言って」

「固まって守備するより、広範囲に展開した方が良いのでは?」


 グループAのメンバーは難しい表情を浮かべた。だが那須だけは違った。


「隊長。此処はいつも通り隊を分けましょう」

「那須さん....」

「だが補給の時どうする?。持久戦になる以上、穴が開くぞ」

「そこは、現地軍に埋めて貰ってはどうでしょうか?。俺達だけで防衛をする必要はないかと」

「それもそうね。よし、渕上リーダーの作戦通り行くわよ。出撃は20分後、準備整えて待機して」





 出撃を見送った桑原は輸送機内に入ると食堂に入った。


「あら、彼らはもう出発したの?」

「はい。見送って来ました」

「でも上手く休めないでしょ?。補給体勢整えておかなきゃいけないし」


 桑原は京塚に笑って返すと京塚から戦闘糧食のパック飯を受け取った。


「あの、」

「ん?」


 桑原は京塚を呼び止めた。桑原は少しモジモジした様子で京塚にある相談をした。


「私、私最近松田さんを見る目が変わって来てるんです」

「へ?」

「ずっと前から、“松田さんと居ると幸せ”って感覚があって。だからその帰国して休みが重なれば、一緒におでかけとかしてたんですが....」

「ァッ....ァッ....」


 京塚は声にならない声を出して固まった。それを知らずに桑原は話を続けた。


「最近は、松田さんに、特別な感情を抱く事が多くて、多分、私は、松田さんの事好きになったんだと思います。・・・どうすれば良いんでしょうか」

「・・・まず多分じゃ駄目ね」

「え?」

「その辺明確にしないと。まずは自分の気持ちを明確にしなきゃダメよ」


 頭が真っ白になりかけながら思った事を話す京塚。すると桑原は数秒考えると京塚に礼を言った。


「ありがとうございます。まずは整理してみます」

「うん。それが良いわ」


 桑原はパック飯を手に持つとその場から立ち去り席に座った。


(恋敵、って訳ね。まっ、こっちも一眼も惚れに気がつくには時間掛かったけど)


 そう思うと京塚は大きく背伸びをした。





『まもなく交戦地点です』

『見えた。相変わらず凄い大群だな』


 渕上は目付きを鋭くし、瞬時に頭の中を回した。どう攻めるべきか。どう護るべきか。だが渕上には1つ引っ掛かる事があった。


(倉又の様子がどうも可笑しい。心此処に有らずって言うか、なんて言うか....)


 そう考えているとモニター画面に倉又のパネルが表示された。


『渕上さん、どう攻めます』

「・・・」


 表示されたモニター越しに倉又の表情を見た渕上は微かに表情を険しくすると操縦桿を握り直した。


「加瀬、俺が狙撃で援護するから先に突っ込め。一定距離に達したところで俺も突っ込む。倉又は後方で待機。俺と加瀬が撃ち漏らした敵機を仕留めろ」

『了解した』

『え?、私も前に出た方が?』

「いや、バックアップを頼む。・・・各自散開。パド、機体制御任せるぞ」

「マカサレテ・マカサレテ」


 渕上は天井から降りて来たライフル型コントローラーを両手で構えると加瀬機が先行したのを確認したのちトリガーを引いた。


(なんか嫌な予感するな。気のせいなら良いが....)


 表情を鋭くした渕上は只管トリガーを引いた。密集陣形で突っ込んでくるイータ人型機動兵器は狙撃の格好の的だった。

 そこへレールガンを撃ちながら加瀬機が突っ込んだ事でイータ人型機動兵器は漸く散開するがラーミナソードの刃を展開した加瀬機の斬撃を前にイータ人型機動兵器は次々と上下真っ二つに斬り裂かれていった。

 加瀬機は大型ツインレールガン下部のスパイクブレイドでイータ人型機動兵器を叩き落とすとラーミナビームマシンガンで2機のイータ人型機動兵器を蜂の巣にした。


(加瀬のキルペースが少し早いな。これは、俺無闇に突っ込まない方が良いかな?)


 そう思いながらトリガーを引き、イータ人型機動兵器を撃墜する渕上。

 だがそれをよく思わない者が居た。


「・・・」


 渕上機の後方で待機して居た倉又は引き摺った様な表情を浮かべると操縦桿を強く握った。


「私だって....私だって!」


 我慢の限界に達した倉又はスラスターを吹かすと渕上機を追い越し、イータ人型機動兵器群の中に突っ込んだ。


『おい倉又!』

「私だって前に出てやれます!」


(嫌な予感の1つが的中したから)


 そう思った渕上は舌打ちをするとライフル型コントローラーを収納したのち操縦桿を握るとイータ人型機動兵器群の中に突っ込んだ。


(これで加瀬のペースと俺のレンジが崩れた。さて、此処からどう立ち回るかな)


 戦略プランが崩れた事により渕上の頭の中は軽くこんがらがって居た。

 それは加瀬も同じだった。


(正直1人の方が立ち回り易かったんだがな。まっ、こうなった以上仕方ない。渕上のお手並み拝見だな)


 渕上は加瀬にそう思われている事も知らず頭を回すと細い息を吐いた。


「加瀬はそのまま左舷を。倉又は右舷。俺が中央を抑える」

『了解した』

『了解です』


 渕上機はイータ人型機動兵器群の中に突っ込むとライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルからラーミナビームを撃ち出し、イータ人型機動兵器を仕留めていった。


(相変わらず大群だな)


 イータ人型機動兵器に包囲され5分も経たずに、渕上は既に気が滅入っていた。

 トリガーを引き続ける渕上。だがそれは倉又や加瀬も同じだった。


(倉又と渕上が突っ込んだ事でばらけ始めたな。少し立ち回り辛くなって来たな)


 そう思いながら操縦桿を操る加瀬。

 加瀬機は飛び上がると同時にラーミナソードでイータ人型機動兵器を左右真っ二つに斬り裂くと後ろに居たイータ人型機動兵器を振り向き際に上下真っ二つに斬り裂いた。

 渕上機も負けては居ない。

 渕上機はライフルをマウントラッチに携行させるとホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜き、ラーミナビームマグナムを放つとそれなりに速いキルペースでイータ人型機動兵器を撃ち抜いていった。そしてある程度包囲網が近くなるとラーミナビームピストルIIからラーミナビームブレイドを展開し、サムライスライドで次々イータ人型機動兵器を斬り裂いた。


『隊長機確認。倉又さんの近くです』

「倉又、任せるぞ」

『はい....』


(データ欲しさにラーミナビームピストル使ったけど、念の為ライフルに切り替えるか)


 何かを悟った渕上はホルスターにラーミナビームピストルIIを収め、ライフルを構えると表情を鋭くした。

 渕上機はライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルで次々とイータ人型機動兵器を撃ち抜くとチラッとモニター越しに倉又機の方を向いた。


「近接型か。ワイヤークローに注意しろ。頭部のコクピットを狙え」

『・・・』


 渕上機は拡張スラスターのブースターポット・スラスターポットの恩恵を生かしながら次々とイータ人型機動兵器のコクピットを撃ち抜いた。

 一方で倉又機はラーミナツインビームサブマシンガンを撃ちながら左手にラーミナビームブレイドを抜刀し構えるとイータの隊長機との距離を詰めた。するとイータ隊長機はワイヤークローを射出した。


「え?。この距離で?」


 想定より早く射出され、想定より速く接近するワイヤークローを倉又機は避ける事が出来なかった。射出されたワイヤークローは倉又機の左腕に命中すると高圧電流を流した。

 当然、その電流はコクピットをも襲い倉又の身体を蝕む。倉又は悲鳴を挙げながら硬直した。


『倉又!腕外せ!』


 加瀬の言葉も届かぬ程、倉又は踠き苦しんだ。


『野郎!』


 渕上機はライフルを構えると1発のラーミナビームを撃ち出した。放たれたラーミナビームはイータ人型機動兵器の間を潜り抜けるとワイヤークローのワイヤーを撃ち抜いて切断した。

 倉又は酷く息を切らすとその場に俯いた。


『倉又!左腕を外せ!』

『クローが自爆する。左腕を外せ!』


 倉又は息を整えながらハッとするとパネルを操作して左腕を外した。だが時既に遅く刺さったクローが自爆。その爆風は倉又機も襲った。

 軽く悲鳴を挙げたのち倉又は目を見開いた。


「左パネルが....頭部ユニットにダメージが?」


 倉又はすぐさまパネルを操作してメインモニターをサブに切り替えた。だがそんな事してる最中にもイータ隊長機は倉又機との距離を詰め、巨大なブレイドを振り上げて居た。


「ッ」


 倉又機はラーミナツインビームサブマシンガンを投げ捨てるとすぐさまラーミナビームブレイドを抜刀し、イータ隊長機の斬撃を受け止めた。


(いつもの倉又らしくない。どうしたんだ?)


 渕上がそう思っているのを他所に倉又機はイータ隊長機の斬撃を受け止めた。

 連続で振り下ろされる斬撃。さっきの電流のダメージが残っているのか、倉又は身体を思い通りに動かせなかった。


『渕上』

『ああ』


 渕上機はスラスターを吹かすとすれ違い際にイータ人型機動兵器を撃ち落としていった。

 倉又は息を切らしながらイータ隊長機の斬撃に対応して居た。


(なんか、今日の私、空っぽかも。・・・松田さんに打ち明けてからなんか可笑しい。なんで、なんで私は....)


 自分の内情に呆れ、今の自分が空っぽになったかの様である事に気が付く倉又。だがそんな中でも、イータ隊長機の斬撃は容赦なく倉又機を襲った。


(空っぽな自分を隠す為に焦って、その結果がこれ。情けないよ。悔しいよ)


 操縦桿を強く握る倉又。いつもなら倒せる筈のイータ隊長機を前に、倉又は防戦一方だった。

 次の瞬間、鍔迫り合いに負けた倉又機は右手に構えるラーミナビームブレイドを失った。


(もう駄目。なんて情けないの、私)


 操縦桿を強く握り、両眼を瞑る倉又。だがその瞬間、渕上機のシールドバッシュによってイータ隊長機は突き飛ばされた。

 渕上機はライフルをマウントラッチに携行するとホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜くとイータ隊長機に襲い掛かった。

 イータ隊長機の斬撃をひらりと交わし、ラーミナビームマグナムのゼロ距離射撃でイータ隊長機の右腕を吹き飛ばすと腕部170ミリ単発砲をコクピットにゼロ距離射撃し、イータ隊長機を仕留めた。


『倉又、退路を開く。撤退しろ』

「でも、でも私は」

『武装の無い状態でどう戦う気だ。撤退しろ』


 渕上機はホルスターにラーミナビームピストルIIを収めるとライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIを構え、倉又機の周りのイータ人型機動兵器を仕留めた。


「私はまだやれます!」


(取り返さなきゃ。失敗した分、取り返さなきゃ!)


『倉又。命令だ。撤退しろ』

「ッ」


 倉又機はラーミナビームブレイドを逆手に抜刀したのちそれを持ち直すと腕部170ミリ単発砲を撃ちながらイータ人型機動兵器に接近すると上下真っ二つに斬り裂いた。


「私はまだ戦えます。ッ!」


 そんな事言ってる最中にもイータの攻撃が倉又機の左脚下部を直撃した。


(なんでよ。なんでこうなるの!)


 正常な判断力を失う倉又。それを見た渕上は軽い舌打ちをした。


(私はただ、渕上の側で戦いたいだけなのに。渕上の側に居たいだけなのに)


 正常さを無くす一方で自分の本性に気が付く倉又。倉又は必死に操縦桿を動かした。


『・・・』


 それ見て居た渕上はチラッとコハクを見た。その上で渕上はある決断を下した。


『倉又。命令に従え。・・・撤退しろ』

「....」


 倉又は操縦桿を握ったまま俯いた。その瞬間、1発の攻撃が倉又機のコクピットを擦り、もう1発がメインスラスターを破壊した。


『倉又!』

『ッ!』


 悲鳴を挙げながら墜落する倉又の秋月。

 地面に墜落すると同時に、倉又は数秒気を失った。


『くzzzた!。おうzzzしろ。zzzzzz』


 倉又はゆっくりと目を開くと操縦桿から手を離し、ペダルから脚を離した。


「・・・」


 自分の行いを後悔する倉又。そんな中、墜落した倉又機にトドメを刺そうと2機のイータ人型機動兵器が倉又機に銃口を向けた。


(ああ。空っぽで戦った罰か....)


 そう思った倉又はゆっくりと目を閉じた。

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