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第二十三話「現実となった正夢」

『第五独立遊撃部隊へ。北西にある都市に多数のイータ人型機動兵器が降下した。迎撃に向かってくれ』

『クラウス中佐。そこは無人の筈では?』

『無人、なら良いんだがな。念の為だ。頼む』

『?、了解。渕上リーダー』

「了解です。加瀬・倉又、此処を任せる」

『了解した』


 渕上は軽く首を傾げると操縦桿を動かし、機体を回頭させるとペダルをベタ踏みにしてスラスターを吹かしたのち調整ダイヤルを操作するとスラスターのリミッターを外した。


(ん?、この展開って....いやまさかな)


 すれ違い際にイータ人型機動兵器を撃ち落としながら北西に向かう渕上機。

 渕上はその機内で軽く首を振ると嫌な予感を振り落とした。


『クラウス中佐。何故無人の都市に救援を?』

『詳しい事は後で話すが、無人ではないかもしれない』

『何故?。民間人は皆んな前線後ろのキャンプに避難した筈だろ?』

『の、筈なんだがな....』


 会話に割り込んで来た芹沢にそう返したクラウスは何かを隠してる様にも見えた。

 渕上は表情を鋭く、険しくしながら眉間に皺を寄せると操縦桿を強く握った。

 そんな中、加瀬機はラーミナソードの刃を展開し、ソードモードにするとイータ人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂いた。グループAの抜けた穴は意外にも大きく加瀬機と倉又機は中々物資輸送機に取り付けなかった。


(この状況で渕上が抜けたのは少し痛いな。さて、どう仕留めるかな)


 加瀬機は大型ラーミナツインレールガンを構えるとイータの物資輸送機に向けて弾頭を撃ち出した。だがイータ人型機動兵器が盾となり、イータの物資輸送機には命中しなかった。


(近付くしかない)


 そう思った加瀬は操縦桿を動かし、ペダルを踏み込むとイータの物資輸送機に向けて機体を降下させた。


『思ったよりも長期戦ですね』

「タンカーは意外とあっさりやらせてはくれたが、この輸送機だけは意地でも護りたいみたいだな」


 倉又にそう返した加瀬は僅かに目付きを鋭くするとイータの物資輸送機をモニター越しに見下ろした。


「さて、どう攻めるかな」


 加瀬機は大型ラーミナツインレールガンを前に構えると銃身下部のラーミナビームマシンガンを撃ちながら降下した。


(そう簡単に退いてはくれないか)





【6月27日 土曜日】


 日付けが変わった頃、渕上は襲撃を受けた都市が見える位置まで来て居た。


「・・・、ん?」


 都市の彼方此方から黒煙が上がっており、建物も倒壊して居た。

 それを見た渕上は目を見開くと出撃前に見た悪夢とその光景を無意識に照らし合わせた。


「....同じだ」


 渕上は都市上空で機体を止めるとライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIをマウントラッチにマウントし、モニター越しに都市を見下ろした。

 18いや16にも行かないであろう子供がイータ人型機動兵器に向けてアサルトライフルを撃ちまくって居た。そんな子供の1人が放ったRPGがイータ人型機動兵器のコクピットに直撃。撃墜した。

 だが渕上にとってそんな事はどうでもよかった。


「・・・」


 目を見開きながらその光景をモニター越しに目に焼き付けた。

 片腕を無くして倒れてる死体は明らかに未成年。頭部をなくした死体は明らかに妊婦。原型を留めてない死体はイータ人型機動兵器に踏み潰されたもの。集団で倒れる死体はイータ人型機動兵器の攻撃によるもの。上半身・下半身が無い死体は何かの爆風で吹っ飛んだもの。

 あまりにも悲惨な光景。更に悲惨なのは、武器を持っているのは大人ではないという事だ。


(大人の代わりに、子供が....)


 出撃前に見た悪夢と全く同じ光景が目の前に広がる中、渕上は悟った。

 “正夢が現実になった”、と

 渕上は奥歯を噛み締めると操縦桿を強く握った。


「ヴェヒター!」


 渕上機はホルスターからラーミナビームピストルIIを引き抜くとイータ人型機動兵器に向けて急降下しながらラーミナビームマグナムを上空から降らせる様に正確に撃ち込むと4機のイータ人型機動兵器を破壊した。

 そのまま急降下しながらラーミナビームピストルIIからラーミナビームブレイドを展開するとすれ違い際に3機のイータ人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂くと左腕のアームラーミナビームサブマシンガンと腕部140ミリ連射砲と右腕のアームラーミナビームサブマシンガンと腕部170ミリ単発砲を同時発射し、4機のイータ人型機動兵器を蜂の巣にすると急加速してイータ人型機動兵器に斬り掛かり、2機のイータ人型機動兵器を上から下へ斬り裂いた。


「これで13。....ッ、」


 上空よりも間近でその光景を見た渕上は言葉を失った。

 右脚、右腕を失った子供を必死に譲る子供。血の海に沈む子供。千切れた右腕を持ちながら息絶える子供。

 上空で見るよりもハッキリとそれは目に焼き付いた。


「・・・」


 ラーミナビームブレイドを静かに消滅させ、その場に硬直するヴェヒター。そんなヴェヒターにイータ人型機動兵器は銃口を向けた。


「バリアアサルトテンカイ・バリアアサルトテンカイ」


 バリアアサルトを緊急展開するコハク。渕上は全身を強張らせ、震えさせると徐々に操縦桿を強く握りながら湧き上がる何かを抑えきれずに居た。


「うおおおぉぉぉッッッ!」


 渕上機はラーミナビームマグナムと両腕のアームラーミナビームサブマシンガン、右腕の腕部170ミリ単発砲、左腕の腕部140ミリ連射砲を同時発射しながらイータ人型機動兵器群に突っ込んだ。

 渕上は只管声を挙げながらイータ人型機動兵器を蜂の巣にしていった。


『渕上さん!渕上さん落ち着いて!』


 雨宮の静止も届かぬまま、渕上は戦った。

 ガルディアンを墜落させた時以来だった。渕上が感情的に戦ったのは、





『北東より増援第二波。機数70』

『埒があかねぇな』


 那須のオペレートに吐き捨てる様にそう返す芹沢。

 一方で加瀬機はラーミナソードの刃を格納し、ビームマシンガンモードにするとラーミナビームマシンガンの連射で1機仕留めるとそのまま降下し、イータの物資輸送機の後方に回り込んだ。


「これで決める」


 そう言うと加瀬はトリガーを引き、イータの物資輸送機のエンジンにレールガンを撃ち込んだ。

 エンジンをやられたイータの物資輸送機はそのまま高度を落とし墜落した。


「ふぅ。これで全部だな」

『こっちも片付きましたよ』


 何処か納得いかない様な表情を浮かべながら荒い息を吐く加瀬。そんな加瀬と倉又の元に緊急通信が入った。


『倉又さん、加瀬さん!。渕上さんが!』

『え?』

「まさか、撃墜されたのか?」

『いえ、その....』


 加瀬は苛立ちを隠す様に舌打ちをした。


「正確に報告しろ。何があった?」

『それが、....パニックに近い状態になってて、その、』

『え?、どういう事?』

「・・・」


 加瀬は溜息を吐くと機体を回頭させ、ペダルをベタ踏みにするとスラスターを吹かした。


「行ってみるしかなさそうだな」

『そうですね。今野隊長』

『構わないわ。行って』

『了解』

「了解した」


 加瀬はモニター越しに倉又が付いてきてる事を確認するとパネルを操作して通信回線を調整したのちチャンネルを開いた。する渕上の叫び声が無線越しに加瀬の耳に入った。


「・・・」


(感情的になってるな。何があった?)


 加瀬は眉間に皺を寄せると僅かに操縦桿を強く握った。


『何があったんでしょうか?』

「かなり感情的になってるな。何かあったのは確かだな」


 加瀬の通信を聞いた倉又は険しい表情を浮かべた。それをモニターに表示された通信モニター越しに見た加瀬は何かを捨てる様に息を吐いた。


「まっ、行ってみない事には始まらん。先を急ごう」

『了解』


 モニターが閉じると加瀬は軽く背凭れに寄り掛かった。

 15分程飛ぶと、その光景が加瀬や倉又の目にも入ってきた。


「ん?」

『一体何が?』


 加瀬は表情を鋭くすると操縦桿のトリガーに指を掛けた。そんな中、都市上空に入った加瀬機と倉又機。加瀬は言葉を失いかけた。


「こりゃ酷いな」

『・・・、』


 倉又は思わず口元に手を添えると湧き上がってくるモノを抑えながら、言葉を失った。

 加瀬は操縦桿のトリガーから指を離すとヴェヒターを探した。


「・・・居た」





「痛い、痛いよーッ」

「痛み感じるうちは大丈夫だ。しっかりしろよ」


 渕上は機体から降りると負傷した子供を処置して居た。処置し終えた子供をヴェヒターの手の平に載せると次の子供の処置に向かった。

 それを上空から見て居た加瀬と倉又は言葉を失った。


『渕上さん....』


(搬送出来るのは、6人が限界か)


 止血帯で傷口をキツく縛った渕上は5人目の子供をヴェヒターの左手の平に載せると医療キットの残量を確認した。


「これだけか。クッソ....」


 パイロット1人分×3日分の医療キットでは、幾ら子供とはいえ、処置を施すには限界があった。

 それでも渕上は出来る限りの処置を行った。そして6人目の子供を載せると機内に戻り、コクピットハッチを閉じるとシートベルトをしたのちゆっくり機体を操作するとペダルを踏み込み、機体をジャンプさせた。


「加瀬、倉又。直掩頼む」

『了解した』


 渕上機はスラスターを吹かして機体を前に進ませると前線拠点へ戻った。


『渕上さん....』

「言うな。何も、言わないでくれ」


 そう言うと渕上は操縦桿を強く握った。

 自分のグローブが、血塗れになってる事も知らず。

 手の平に載せた子供が落ちない様に機体を操縦する渕上の心は、フツフツと何かが煮え滾って居た。

 それは自分に対する怒りだった。ガルディアンを撃墜された時、感情的に戦わないと誓ったのに、渕上は1年も経たずにその誓いを破り、感情的に戦ったのだ。


「・・・、ッ、」





 前線拠点に戻った渕上は搬送した子供を載せた救護車両を見送ると渕上は血塗れのグローブをその場に捨てるとヘルメットを外したのち整備が始まったヴェヒターに手を添えるとそのまま頭をくっ付けた。


「すまねぇ。ヴェヒター....」


 静かに涙を流す渕上は感情的に戦った事を悔やんだ。

 そんな渕上の元に高木が歩み寄って来た。高木はゆっくりと力強く渕上の肩に手を置くと細い息を吐いた。


「人間は感情を表に出して成長する。悔やむ暇があったら、経験を糧にしろ」


 そう言うと高木はもう一度渕上の肩を叩くとその場から立ち去った。渕上はその場に崩れると声を出して泣いた。

 それを見た松田は渕上の元に歩み寄るとゆっくりと渕上を立たせたのち一緒に歩くとヴェヒターから離れた。


「渕上さん....」


 ヘルメットを外しながら渕上の元に歩み寄った倉又は松田から渕上を託して貰うと渕上をそっと宥めた。


(あんな光景を見たんだ。無理もない)


 渕上と一緒にゆっくりとその場にしゃがみ込んだ倉又はそっと渕上の頭を撫でた。

 数分後、


「なんか、すみません」


 そう言うと渕上は涙を拭い、ゆっくりと立ち上がった。


「気にしないで下さい。誰だって、崩れる時はありますよ」


 倉又は立ち上がると渕上の肩にそっと手を添えると軽く微笑んだのち渕上の肩を1回叩くとその場から立ち去った。


「....」


(やっぱり私、渕上さんの事....うん、きっと、そうなんだ)


「・・・」


(俺はまだまだ弱い。....ッ、こんなじゃ、グループリーダー失格だ)


 拳を強く握りしめ、ヘルメットを強く握った渕上は輸送機内へ戻って行った。


「渕上さん」

「?、雨宮さん。どうかしましたか?」

「・・・大丈夫、ですか?」

「なんとか....」

「....」


 雨宮はその場に軽く俯くと今にも泣き出しそうな表情を浮かべた。


「辛かった、ですよね」

「・・・辛いのは皆同じでしょう....」

「そうじゃなくて、その....渕上さん、出撃前に聞いてましたよね?、夢見の事。同じ光景だったんじゃないですか?」

「ッ」


 渕上は拳を強く握った。

 相手が女じゃなきゃ、昔の渕上なら殴って居たところだった。


「・・・正直に言う。その通りだよ。....けどな、俺はそれに怒ってるんじゃない。自分自身への誓いを破った事に怒ってるんだ」


 震える声でそう言った渕上はゆっくりとその場を立ち去った。

 聞いてはいけない事を聞いた事を悟った雨宮はそんな渕上の背中をじっと見つめた。





3時間後....


(いっけねぇ。グローブ、何処に落としたっけ?)


「渕上」

「?」


 自分が落としたグローブを探す渕上を呼び止めた高木は真新しいグローブを渕上に投げ渡した。


「他人の血がベットリ付いたグローブ使う訳にはいかないだろう。それ使え」

「ありがとうございます」


 渕上はグローブを嵌めると袖口のファスナーを閉めたのち、ベルトを閉めた。


「渕上少尉」


 渕上は声のする方を向くとすぐさま敬礼した。ユーリウスは渕上に敬礼を返したのち敬礼を解くと渕上に礼を言った。


「子供の保護、感謝する。・・・3人は助かった」

「⁉︎。他は?」

「2人死亡。1人は、....傷は大した事ないんだが重度の感染症を引き起こしてる。余談を許さない状態だ」


 渕上は険しく引き摺った様な表情を浮かべると全員を助けれなかった事を悔やんだ。


「・・・なんであんなところに民間人が?」


 高木はユーリウスに尋ねた。ユーリウスは難しげな表情を浮かべると僅かに表情を引き摺らせた。


「退去無視者及びゲリラ兵だ」

「ゲリラ兵....」

「厳密には、退去命令を無視して反イータ活動を行ってるゲリラ兵だ」

「・・・」


 渕上は言葉を失った。そんな渕上の代わりに高木が声を挙げた。


「祖国や故郷を捨てれぬ者達、か....」

「そうだ。・・・だから俺達は前線を押し上げなくてはならない。彼らを保護する為にも、彼らの故郷を取り戻す為にも」


 ユーリウスは重たい声でそう話した。


「イータの前線拠点は潰れた。今が好機だ。前線を押し上げ、彼らの故郷を解放する」

「・・・そのゲリラ兵が居る場所はわかるか?」

「全てではないが、ある程度は」


 その返答を聞いた高木は自分のタブレット端末をユーリウスに渡した。


「スポットしてくれ」

「・・・わかった」


 僅かに躊躇ったユーリウスだが高木の考えを悟ったユーリウスは高木からタブレット端末を借りると地図に印を付け始めた。


「大隊長....」

「彼らの気持ちは分かる。大尉達の気持ちもな。だから俺達は、俺達のやるべき事をやるのさ」


 そう言うと高木はユーリウスからタブレット端末を返して貰うとデータを確認した。


「全力で援護する。前線を押し上げよう」

「期待している」


 そう言うとユーリウスはその場から立ち去った。





 一方その頃、

 配達から戻った渕上昭弘は車庫の壁に寄り掛かると胸ポケットから煙草を取り出し、一本摘み出すとそれを口に咥えたのち胸ポケットに煙草を戻すとズボンのポケットからライターを取り出し、咥えた煙草に火を付けた。


(感情的に戦うってのは大小ある。大はダメだが、小は誰にでも起こり得る。特に和公みたいな若くて未成熟なパイロットにはな)


 そう思ったのち煙草を指で挟むと口から離したのち煙を吐いた。


(失敗を繰り返し、未成熟な自分と向き合いながら、パイロットは成長していく。大切なのは、自分に反しない事だ。自分を信じれるのは自分だけだ。そんな自分に反する事はするな)


 煙草を吸い、煙を吐いた渕上昭弘は車庫の天井越しに空を見上げると微かに笑みを浮かべた。


「まっ、色々向き合ってみろ。そしてお前だけの道を、見つけてみろ」


 そう呟いた渕上昭弘は再び煙草を咥えた。

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