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第二十二話「輸送部隊を叩け」

「お疲れ様」

「晴翔さん。左スラスターポットの調子が可笑しい。点検頼みます」

「わかりました」


 松田に機体整備を任せた渕上は今野を探した。

 すると今野と高木は、丁度クラウスとユーリウスと話して居た。


「正直、見損なったぞ。友軍機がピンチなのに増援も出さないなんて」

「それは、」

「確かにいつもの彼なら出来たかもしれない。だが今日の彼は万全ではなかった。パイロットのフィジカルやメンタル状況を把握してなきゃ意味ないだろう」

「・・・」


 説教に近い事をされている今野を見た渕上はすぐさま割って入ろうとしたが高木にジェスチャーで止められた。


「パイロットとしての戦績は認める。だがまだ19の不安定な若造だ。いつでも最高の状態で戦える訳じゃない。本人の知らない不調を抱えてる事だってある。それをちゃんと見てやるのも隊長の仕事の筈だ」


 クラウスの発言を前に言葉を失う今野。そんな今野の代わりに高木が口を開いた。


「言いたい事は分かるが隊長ばかり責めないで頂きたい。作戦を通したのは俺だし、不調を見切れなかったのは俺にも責任がある」

「・・・日本には、“人馬一体”と言う言葉があったろ。それを常に出来ないパイロットは、早死にする筈だ」


 そう言ったユーリウスはクラウスの方をチラッと見たのちその場から立ち去った。


「まっ、一応作戦は成功した。だが今は戦力を温存しておきたい時なんだ。....言い方悪いが、こちらの手を煩わせないで貰いたいな。以後、頼んだよ」


 そう言うとクラウスは作戦司令室に戻って行った。

 今野は何処かやりきれない、悔しそうな表情をして居た。


「まぁなんだ。以後気を付けろって言うのと、相手が人間じゃない以上、自分の読みは外れる前程で動け」


 そう言うと高木は今野の元から立ち去った。そんな今野に、渕上は何も言葉を掛けられなかった。


(俺のせいだ。俺が初めから....クッソ!)


 拳を強く握り締める渕上。すると渕上は誰かに背中を叩かれた。


「⁉︎」


 そこに居たのは芹沢だった。芹沢は溜息を吐くと微かに表情を緩めた。


「お前、酷い顔色だぞ」

「え?」

「今のうちに休んどけ」


 そう言うと芹沢は今野のもとに歩み寄った。

 渕上は芹沢が今野に話し掛けたのを見ると細い息を吐いたのちその場を芹沢に任せると輸送機の方へ歩いて行った。





6時間後....


 悪夢に近い夢から目覚めた渕上は勢いよく目を開けて息を吸い込むと身体を起こした。


(なんだ?今の夢は⁉︎。予知夢か?)


 目元に手を添えて汗を拭う渕上。酷く息を切らしながらベッドから立ち上がり、蛇口のバルブを捻って水を出した渕上は暫くすると顔を洗い始めた。

 バルブを捻って水を止めると渕上はまだ自分が息を切らしている事に気が付いた。タオルで顔を拭き、下着を取り替えた渕上はパイロットスーツを身に纏うとベッドに座り込み、大きく息を吐いた。


(そう言えば、今日は母さんの誕生日だったな)


 何気なくそんな事を思い出した渕上は心の中で満の誕生日を祝った。

 すると自室の扉がノックされた事に気が付いた渕上はゆっくりとベッドから立ち上がると扉のロックを外し、扉を開けた。

 扉を開けると、そこには倉又が立って居た。


「倉又少尉?」


 倉又は楽器ケースの様なものを両手で持っており、渕上に一礼した。何かを悟った渕上は倉又を自室に招き入れた。


「渕上さんに、聞いて貰いたくて」

「俺に?」


 倉又は楽器ケースからバイオリンを取り出すと渕上に一礼したのち演奏し始めた。

 初めは戸惑いもあった渕上だったが、渕上は徐々に心地良い音色に身を任せ始めた。


(心地良い音色だ。さっきまでの夢が浄化されていく様な....)


 両眼を瞑り、耳に全神経を集中させる渕上。その心地の良い音色は渕上の疲れを癒し、溜まってたものを浄化していった。

 暫くして演奏を終えた倉又は渕上に一礼した。渕上は拍手するとゆっくり立ち上がった。


「素晴らしい演奏だった。凄く心地良かったよ」

「ありがとうございます」


 倉又は満面の笑みを浮かべながらバイオリンをケースにしまった。


「最近演奏してなかったので、腕が錆びてたらどうしようかと思いましたよ」

「凄くよかったよ。でも、なんで俺に?」

「渕上さんに、聴いて欲しかったんです。少しでも渕上さんの癒しになればなー、と」


(ん?なら尚更何故俺だけに、加瀬少尉や雨宮さん達にも聴かせてあげれば良いのに)


 そう言いたい気持ちを敢えて抑えると渕上は再度倉又に御礼を言った。

 そして倉又が退出しようとした瞬間、集合のアナウンスが掛かった。





「作戦の目的は、輸送部隊の強襲及び殲滅よ」


 全員のタブレット端末にデータを送った今野はそう言い放った。


「イータの大規模輸送部隊が、先程潰した前線拠点跡地近くを通るところを強襲するわ。グループAが護衛部隊を、グループBが輸送部隊本隊を叩く、と言った感じよ。質問は?」


 今野はパイロット全員の表情を見渡したのち数回頷くとタブレット端末の電源を落とし、脇に抱えた。


「出発は40分後よ。各自準備して待機。解散」


 渕上はタブレット端末の電源を切ると松田のもとに駆け寄った。


「松田さん」

「機体のメンテは万全です。何か、弄りますか?」

「ライフルをガンマモデルに換装して下さい」

「わかりました」


 渕上は松田に一礼するとその場から立ち去った。


(あっ、飯まだだったな。今のうちに食べるか)


 そう思った渕上は輸送機内に入っていった。

 食堂に入り、京塚からパック飯の戦闘糧食を受け取った渕上は若干早いペースでそれを食べ進めた。


(山賊焼きか〜、中々美味いな)


「渕上さん。前、良いですか?」

「あっ、雨宮さん。どうぞ」


 雨宮は渕上の前に座るとパック飯の戦闘糧食を食べ始めた。


「ところで、」

「はい?」

「なんでいつも俺の前に?」


 口の中身を飲み込み、箸を置いた渕上は雨宮にそう尋ねた。


「ダメ、でした?」

「いや駄目って訳じゃない。ただ理由が知りたいんだ?」

「....渕上さんと、お話ししたいからです」

「自分と?」


 フーンと表情で言った渕上は再び箸を手に取るとパック飯を食べ始めた。


「前回の任務前より、顔色良いですね。なんだか安心しました」


(夢見は最悪だったけどな。多分倉又少尉のバイオリンのお陰だろうな)


 そう思いながら何も言葉を返す事なく食べ進める渕上。それを見た雨宮は優しげな笑みを浮かべた。


「雨宮さんは、」

「?」

「悪夢に近い正夢を見たら、どうします?」


 雨宮は箸を置くと数秒考えた。


「それが現実にならない事を祈る。しかないですね」

「そう、ですか」

「そんな夢を見たんですか?」

「ま、まぁ。・・・飯食いながら話す話じゃないんで、話しませんけどね」


(なんか、凄く気になる)


 渕上が見た夢に興味を抱く雨宮。だが渕上の言動と表情からしてあまり良い夢でない事を悟った雨宮は聞くのを辞めた。





 出撃10分前。渕上は松田のもとを訪れて居た。


「松田さん。スラスターに不調は?」

「ありませんでした。ただ、」

「?」


 松田はデータ端末の電源を切ったのちヴェヒターを見上げると小難しい表情を浮かべた。


「強化パーツを組んで、セッティングやバランサーが変わってるので、そっち方面で何か異常があるかもしれません」

「そこは、どうにもなりませんね」

「ええ。予め設定しておいたセッティングに変える事は出来るんですが、セッティング自体を見直したり、バランサーを調整するには、本国の設備が必要になりますからね」


 渕上もまた難しげな表情を浮かべるとヴェヒターを見上げた。


「まぁ不調や故障が無いなら、俺のテクの問題です。乗り熟してみせますよ」

「すみません。力になれず」

「晴翔さんが謝る事じゃないですよ」


 そう言うと渕上はヘルメットを被ったのちコクピットハッチを開けると降りて来たロープの手摺りに捕まり、足掛けに足を掛けると機体に乗り込んだ。


「渕上和公。階級少尉。認識番号13954」


 網膜認証と音声認証で機体を起動させた渕上はモニター越しに給油パイプやケーブルが外れたのを確認するとシートベルトを閉めたのちゆっくりと操縦桿を握った。

 一方その頃、


「今野秋日。階級中尉。認識番号13137」


「芹沢亮。階級少尉。認識番号63887」


「中井竜次。階級少尉。認識番号69556」


 今野と芹沢、中井も、機体を起動させて居た。


『全員搭乗したわね。行くわよ』


 7機のリベラシオンが一斉にジャンプすると北へ向かって飛んでいった。


(今のところ違和感はナシか。戦闘時にどうなるかだな)


 操縦桿を握りながら微かに表情を鋭くした渕上は悪夢に近い正夢を見たせいか心に多少のざわつきはあったが倉又の演奏のお陰が思ったよりも穏やかに落ち着いては居た。


『接敵予測ポイントまで残り5分。各自交戦に備えて』


 ざわつきを抱えながら暫く飛んでいると今野から通信が入った。渕上は目付きを鋭くすると細長い息を吐いた。


『作戦では、俺達が輸送部隊を叩けば良いんだよな』

「はい。ただ、護衛の数はかなり居ます。輸送部隊だけ叩く、と言うわけにはいかないでしょう」


 加瀬にそう返した渕上は数秒考えるとある考えを固めた。


「優先度を決めよう。俺が突っ込みます。加瀬少尉は隙あらば輸送部隊を攻撃してください。倉又少尉は直掩隊を優先して叩いて下さい」

『了解した』

『了解です』

『輸送部隊の中には燃料タンカーも居ます。接近には注意して下さい』

「了解」


(空飛ぶ燃料タンカーか....まっ、見ればわかるだろ)


 雨宮からの警告を前にそんな考えを持った渕上は接敵を待った。


『レーダーに感あり。来ます!』

『各員散開。作戦通りに』


 今野の合図で散開するRAINBOW.F。グループAは予定通り、護衛に着いているイータ人型機動兵器に攻撃を仕掛けた。


「タンカー、タンカー。....あれか」


 渕上機は加速するとイータ輸送船団に取り付き、燃料タンカーに向けてラーミナビームを撃ち込んだ。

 速射性の高いラーミナビームを装甲の薄い部分にくらった燃料タンカーは炎に包まれながら墜落したのち大爆発を起こした。


(燃料満載か。ちりざまも派手だな)


「雨宮、タンカーは残り何機だ」

『残り2機です』

「アレだな。了解した」


 渕上機はスラスターを吹かして降下するとラーミナビームを撃ち込んだ。炎に包まれたタンカーは墜落と同時に大爆発を起こした。


『北西より、敵増援確認。機数90』

『思ったよりも早いわね』


 那須の方向を聞いた今野はそう呟いた。

 渕上機は機体を上昇させ、タンカーの真上に出ると装甲の薄い箇所にラーミナビームを撃ち込んだ。その1発がタンクに命中し、燃料タンカーはイータ人型機動兵器を道連れに大爆発を起こした。


「よし、タンカーはこれで全部だな。あとは物資輸送機だけだ」


 渕上機はすれ違い際にイータ人型機動兵器を撃ち抜いて撃墜すると輸送機に取り憑こうとした。だがタンカーをやられてキレたのか、イータ人型機動兵器の反撃は強烈だった。だがそんな攻撃も掻い潜りながら渕上機はライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIから放たれるラーミナビームをイータ人型機動兵器に撃ち込んだ。


(取った)


 イータの物資輸送機の真上を捉えた渕上は弾幕を掻い潜りながら物資輸送機にラーミナビームを撃ち込んだ。


「流石に護りも固ければ弾幕も凄まじいな。まっ、ちまちまやるか」

『援護する』


 イータの物資輸送機を撃墜した渕上は次の機を狙おうとしたが護りは固かった。

 物資輸送機自体が強力な弾幕を展開しており、イータ人型機動兵器も、それを護ろうと必死だった。

 渕上機はライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIを構えると弾幕を掻い潜りながらイータ人型機動兵器を撃ち抜いて撃墜していった。


(今だ)


 加瀬機の援護でイータ人型機動兵器の陣形が崩れた隙を突いて渕上機はイータの物資輸送機に取り付くと速射性の高いラーミナビームを連続で撃ち出し、イータの物資輸送機を撃墜した。


「よし、次!」

『護るべき対象が少なくなればなるほど護りは硬くなっていくぞ。適度に戦力削がないと駄目だな』


 渕上にそう言った加瀬は倉又機の方を向くと再び渕上の援護に回った。

 倉又機はラーミナツインビームサブマシンガンを連射しながらラーミナビームシールド発生装置からラーミナビームシールドを展開し、身を護りながら戦って居た。

 渕上機は加瀬の助言通りにイータ人型機動兵器を撃墜していった。グループAの働きもあり、数は確実に減って居た。そんな中、今野機から放たれたレーザーがイータ人型機動兵器を貫き、イータの物資輸送機のエンジンに命中。墜落させた。


(やってくれるぜ)


 渕上は内心そう思いながら苦笑いを浮かべるとイータの物資輸送機に取り付き、エンジン部分にラーミナビームを撃ち込むと墜落させ、撃墜した。


『護衛の数は確実に減ってます。増援も確認出来ません。畳み掛けるなら今です』


 那須のオペレートは的確だった。北西より来たのを最後に増援が確認出来ない今、畳み掛けるには今が最適だった。

 渕上機はすれ違い際にイータ人型機動兵器を撃墜するとイータの物資輸送機の弾幕を掻い潜りながらイータの物資輸送機に取り付くとラーミナビームを連続で撃ち込み、撃墜した。


『残り2機』


(ケリを付けてやる)


 渕上機はすれ違い際にイータ人型機動兵器を撃ち抜くとイータの物資輸送機に取り付いた。そしてエンジン部分にラーミナビームを撃ち込むと墜落させ撃墜した。

 残り1機。イータ人型機動兵器は集結するとその1機を必死に護ろうとした。だが密集すれば今野機の戦術レーザー砲の餌食となった。すると一部イータ人型機動兵器は今野機の死角に回り込むと今野機の攻撃を阻止しようと動いた。


『バレバレなんだよ』


 芹沢機と中井機は攻撃阻止に動いたイータ人型機動兵器群の前に立ちはだかると次々とイータ人型機動兵器を斬り裂いた。

 それでも抜けようとするイータ人型機動兵器に芹沢機が射出したワイヤークローが直撃した。


(流石だな)


 そう思った渕上は操縦桿を動かしながら只管イータ人型機動兵器を狙い撃った。

 だが、それで終わる程イータは甘くなかった。


『北東より増援接近。数120』

「この1機は、意地でも護りたいみたいだな」

『グループAで増援を迎え撃つわ。続いて』


 今野機に続く芹沢機・中井機を追い抜く様に風間機が先行した。


(流石ね。して欲しい事を読んでるわね)


 先行する風間機を見ながらそう思った今野は僅かに口角を上げた。

 そんな中、RAINBOW.F各員に緊急通信が入った。

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