第二十一話「今野の誤算」
【6月26日 金曜日】
「成る程。確かにバンカーバスターが必要だな」
日付けが変わり、前線拠点に戻った今野と高木はクラウスにイータ前線拠点の攻略の報告を行って居た。
クラウスは表情を険しくすると口元に手を添えた。
「表を更地にしても地中に眠ってる可能性がある。厄介な話ですな」
ユーリウスはクラウスの横でそう言うと険しい表情を浮かべた。
「後衛の爆撃機部隊に要請しよう。前線での護衛、任せても良いか?」
「問題ありません」
「よし、爆撃機隊の出撃にも時間が掛かる筈だ。少し休んでいてくれ」
「わかりました」
今野と高木はクラウスに敬礼すると作戦司令室から出て行った。
「ユーリウス。後衛部隊に通信回線を繋げ」
「ハッ!」
クラウスは表情を険しいから鋭いに変えると通信準備が整うのを待った。
一方で今野は全パイロットに休息を命じるとフゥーッと息を吐いた。
「どうした今野隊長」
「いえ、....ただこのまま前線を押し上げて、補給や兵站は大丈夫なのかな、と」
「それを考えるのは俺達の仕事じゃない。今は休もう」
そう言うと高木は今野と別れ、輸送機へ戻って行った。
今野は整備が進む大淀改を見上げると溜息を吐いた。
「どうしました今野さん」
「ああ朝倉さん。・・・いえ、なんでもないわ」
「?」
今野は歩きながらヘルメットを外すと輸送機内に入って行った。
(どうしたんだろ?今野さん)
首を傾げた朝倉は機体整備に戻った。
その頃、ヴェヒターを整備して居た松田は渕上と話して居た。
「お陰で良いデータが取れましたよ。この調子で頼みます」
「了解です。・・・それにしても、ピストルの出力、と言うより威力。前より上がってません?」
「ラーミナドライブの回転数を上げましたからね。その影響かもしれませんね」
(松田さんもわかってないのか....)
軽い溜息を吐きながら機体を見上げた渕上は整備を松田に頼むと輸送機に向かって歩いて行った。
「・・・」
(遼太郎さん。貴方この機体になにした?)
※
4時間後....
渕上達は今野の元に集まって居た。
「後方から、バンカーバスターを搭載した爆撃機が向かってるわ。私達の任務は、爆撃機の護衛と残ったイータ戦力の排除よ」
渕上と加瀬は腕を組むと一瞬だけ目を合わせた。
「私の機でバンカーバスターの誘導を行うわ。護衛は芹沢と風間でお願い」
「了解」
「わかりました」
「次に第一狙撃班。加瀬・倉又・中井よ。爆撃機に迫るイータを撃ち落とした」
「了解」
「了解した」
渕上は表情を鋭くした。すると今野は一瞬だけ渕上を見たのちタブレット端末に目を落とした。
「第二狙撃班は、渕上のみよ」
「今野隊長。渕上さん単独って言うのは....」
すぐさま雨宮が反論した。だが今野にとっては想定のうちだった。
「渕上リーダーには基地東部の高台から狙撃して貰うわ。基地に残った残党は私か爆撃機を狙う筈。基地から最も離れた渕上リーダーが狙われる事は無いわ」
(その読み、本当に合ってるのか?)
「わかりました」
珍しく今野の読みを疑う渕上は渋々とした様子で了承した。
「敵は恐らく爆撃機を狙ってくる筈。第一狙撃班も必要なら狙撃ではなく直接攻撃に移って」
「了解した」
返事を返した加瀬はチラッと渕上の方を向いた。渕上は何処か不安を拭いきれない表情をして居た。
「出発は今から1時間後よ。まずは爆撃機隊との合流地点に向かうわよ。各自準備して、搭乗して」
※
『こちら日本国防軍遠征隊所属第五独立遊撃部隊。護衛に着きます』
『助かるよ。安全地帯とはいえ、護衛が居ないのは心細かったんでね』
「バンカーバスター搭載機2機に通常の爆撃機が4か....」
渕上はモニターとレーダーで爆撃機の数を確認するとある疑問を思い付いた。
(任務は精密爆撃だ。通常の爆撃機は要らない筈。....どうして?)
『渕上リーダー。先行して狙撃ポイントにて待機して』
「?、了解」
(もう編隊から離れろってか?。まぁ別に構わないが....)
渕上機は僅かに旋回するとスラスターを吹かし、編隊から離れて行った。
『渕上さん、大丈夫ですか?』
「ん?、何がだ?」
『いえ、出撃前に食事してる時から、声が暗いので』
「?、そうか?」
雨宮からの通信にそう返した渕上は何処か迷いがある様な表情を浮かべると操縦桿を握る手が震えている事に気が付いた。
「?、・・・」
心配げな表情を浮かべる渕上。自分でも何がどうなってるか分からなかった。
『孤独が辛いか?』
「ッ、中井少尉?」
『そりゃそうだよな。でも、狙撃手なんて本来は孤独なものだろ?』
「・・・」
『大丈夫だ。すぐに終わる。気楽に行こうぜ』
「....はい、」
歯切れの悪い返事を返す渕上。
渕上の中である考えがあった。
“スナイパーが孤独なのは映画だけ。現実では必ずスポッターと2人1組で行動するしリベラシオンだって護衛が付く。スナイパーが孤独なのはあり得ない”。
そんな考えがよぎって居た。
(加瀬の狙撃には護衛ありで俺の狙撃には護衛なしってのが、どうも引っ掛かる。確かに加瀬の方が爆撃機隊に近いし、いざって時の数が必要だってのはわかるが....)
どうにもこうにも得体の知れない不安を拭えない渕上は今回ばかりは今野の作戦を疑った。
『爆撃ポイントに接近』
『総員先行。配置に付いて』
『まっ、デカいクレーター開けるだけだ。大した抵抗はないだろうよ。目標指示頼んだぜ』
慢心気味の声でそう言う爆撃機のパイロット。渕上はポイントに辿り着くべく機体を急がせた。
狙撃ポイントに辿り着いた渕上は高台の八号目に機体を着地させるとラーミナビームスナイパーライフルIIを構え、機体をしゃがませた。
天井から降りて来たライフル型コントローラーを両手で構えた渕上は静かにその時を待った。
数秒後、爆撃機4機が先行するとイータ前線拠点跡地を爆撃し始めた。
『全て焼き払え、全弾投下しろ!』
「⁉︎」
渕上は思わずスコープから目を離し、モニターを見た。
『任務は精密爆撃じゃなかったのか?』
『どう見てもばら撒いてるだけだな』
中井と加瀬がそう話す中、後方に控えて居たバンカーバスター搭載機が戦線へと突入した。
今野機はレーザー誘導をオンにすると爆撃ポイントをスポットした。
『目標確認。バンカーバスター投下』
シェルターに向かって投下されるバンカーバスター。その威力は7人が知ってるバンカーバスターよりも遥かに強力だった。
『今ので大きなクレーターが出来たわね』
『これなら出てくる間も無く木っ端微塵ね』
前線拠点の3割をデカい穴に変えたバンカーバスター。すると生き残ったシェルターからイータ人型機動兵器が出撃した。
『加瀬・渕上。狙撃開始。爆撃機を護って』
『了解した』
「了解」
出撃した直後に爆撃機の爆弾によって撃墜されるイータ人型機動兵器。その爆撃を掻い潜って高度を上げたイータ人型機動兵器は加瀬機の大型ツインレールガンによる狙撃、渕上機のラーミナビームスナイパーライフルIIによる狙撃により次々と撃墜された。
「爆撃機をやらせはしないぞ」
そう呟く渕上。
だがイータ人型機動兵器は爆撃機の爆撃を掻い潜ると爆撃機を狙わず東へ移動し始めた。
『え?』
『予想以上に立て籠ってたな。次の爆撃ポイントを指示してくれ』
『え、ええ....』
今野はイータ人型機動兵器が出撃するシェルターを爆撃ポイントにスポットした。今野は爆撃機は自分を狙わず、東へ移動するイータ人型機動兵器に違和感を覚えた。
『ポイント確認。バンカーバスター投下』
出撃するイータ人型機動兵器を貫きながら地中に潜るバンカーバスター。そして大爆発を起こしたバンカーバスターは再び大きなクレーターを作り上げた。
「おいおい。敵機がこっちに迫って来てるぞ」
『爆撃機を狙わない?どう言う事だ?』
ラーミナビームスナイパーライフルIIによる狙撃でイータ人型機動兵器の数を減らす渕上。だが渕上機に迫って来ているのは、前線拠点の残党だけではなかった。
『渕上さん。北と北東のフタ方向から敵部隊接近!』
「は?。....数は?」
『合わせて150近いです』
(チッ!三方向からの攻撃だと⁉︎。どうなってやがる?)
「パド!」
「リョーカイ・リョーカイ」
渕上機は立ち上がるとスラスターを吹かして上昇した。
只管狙撃で数を減らそうとする渕上。前線拠点の残党は排除出来たが、新手の部隊には狙撃出来なかった。
「クソが!」
渕上機はラーミナビームスナイパーライフルIIをライフルモードにすると銃身下部のラーミナビームマシンガンを撃ちながらイータ人型機動兵器との距離を詰めた。
『完全に読み誤ったわね。まさか爆撃機じゃなくて狙撃隊を狙ってくるなんて』
今野にとっては誤算でしかなかった。イータ人型機動兵器の狙いは孤立した支援機。或いは初めから渕上機が狙いだったのか。それは分からないにしろ確かなのは今野の読みが外れたという事だった。
『まるで渕上さんを狙ってるみたいな布陣ですね』
『確かにな。孤立した部隊を狙うなら、俺達も狙われる筈だ』
倉又と加瀬が分析を進める中、渕上機は只管イータ人型機動兵器を撃ち落とした。だが150近くのイータ人型機動兵器を一度に相手するのは流石の渕上でも簡単な事ではなかった。
「クソ!」
只管トリガーを引く渕上。いつもの事ながら、落としても落としてもキリがなかった。
渕上機は機体を回頭させながら、時に振り向く事なくライフルの銃口だけ後ろに向けてイータ人型機動兵器を撃ち抜くと言う芸当もやりながら只管撃ち落とした。
『数は確実に減ってます。頑張って下さい』
「本当に減ってるのか?」
吐き捨てる様にそう返す渕上。だがイータ人型機動兵器の数が100を切った頃、その数は増える事となる。
『渕上さん。北東より第二波接近。数、90いえ100近いです』
「冗談だろ?」
不意を突く様な大群に襲われ続ける渕上。
渕上は悟った。“捌き切れない”と、
(普段ならこんな数、造作もないが....今日は調子悪いのか?。捌き切れる気がしねぇ)
いつになくネガティブな感情になる渕上。
それを見て居た今野は迷って居た。
(渕上が捌き切れてない。....どうする?、増援を出すべき?。でも増援に来たところを、爆撃機が狙われたら?)
そんな事を悩んでる事を知らず、渕上は只管イータ人型機動兵器を撃ち落とした。数が70を切った瞬間、第二波は到着した。
「クソッ、振り出しかよ」
渕上は操縦桿を動かしながら四方八方を見渡した。
その瞬間、聞き慣れない銃声と共にイータ人型機動兵器が撃墜された。
「ッ!なんだ?」
『友軍機接近、機数3』
渕上はモニター越しにマシンガンを連射しながら自分らに迫る友軍機に目を向けた。
(150ミリ?ドイツ軍か)
『ユーリウス大尉だ。援護する』
「は、はい!」
3機のドイツ軍機は150ミリマシンガンを正確に連射しながら次々とイータ人型機動兵器を撃墜していった。
(ッ、遅れねぇぞ)
渕上は半ば強引にペースを上げた。拡張スラスターのブースターポットやスラスターポットの恩恵と銃型の操縦桿の恩恵を巧みに生かし、次々とイータ人型機動兵器を撃墜していった。
(半ば強引にペースを上げた。この数を前にしては、自殺行為だな)
渕上機の動きを冷静に分析するユーリウス。そんな事を知らない渕上は只管イータ人型機動兵器を撃ち落とした。
『北より第三波接近。数80』
『我々が迎撃に向かう。渕上少尉、此処を任せるぞ』
「はい、了解です」
『自分のペースを保てよ』
「は、はい」
邪魔なイータ人型機動兵器だけを撃ち落としながら戦線を突破したユーリウス達は北へ向かった。
(残りは100機ちょっとか?、上等だ)
ユーリウスの加勢で息を吹き返した渕上は元のペースに戻しながらも徐々にペースを上げた。
『助かりました、ユーリウス大尉』
『言いたい事は山ほどあるが、今は作戦だ。潰せ』
今野に対して冷たく返すユーリウス。
渕上は表情を微かに鋭くすると様々な恩恵を巧みに生かしながら只管イータ人型機動兵器を撃ち落とした。だがそんな渕上を妙な違和感が襲った。
(左回頭する時のバランスが僅かに悪い。....スラスターポットか?。左スラスターポットの出力が悪いのか?)
瞬時に違和感の正体を見抜く渕上。だがそれでも渕上がやる事は変わらない。只管イータ人型機動兵器を撃ち落とすだけだった。
振り向くと同時に射撃し、イータ人型機動兵器を撃ち落としたり、後ろを振り向く事なく銃口だけ後ろを向けて射撃して撃墜するなど並のパイロットでは早々出来ない事をやってのける渕上。
そんな芸当を平気でやってのけるパイロットに勝てるイータなど居なかった。
※
『作戦目標達成。これより帰還する』
イータの前線拠点を火の海とクレーターに変えたドイツ軍爆撃機は反転すると基地の方へ戻っていった。
「グループAはこのまま爆撃機隊と共に離脱。グループBは渕上の援護に向かって」
『了解です』
『了解した』
今野は中井機が合流したのをモニター越しに確認すると操縦桿を握る手から力を抜き、背凭れに寄り掛かった。
(誤算、だったわね....ユーリウス大尉が来なかったら、危なかったわ)
イータ人型機動兵器群が爆撃機を狙わなかった事、渕上の不調、イータの思わぬ増援。今野にとっては誤算な事ばかりだった。
(イータの動きを完全には読めてない以上、なんて言い訳よね....ハァ、)
今野はモニター越しに自分に続く仲間達を見ると前を向いたのちもう一度溜息を吐いた。
一方その頃、加瀬と倉又は渕上機と合流した。
『敵機残党はナシ、か....』
「なんとか全部片付けた。ユーリウス大尉、そっちはどうです?」
『撃退に成功した。これより帰投する』
「了解。じゃあ俺達も帰ろう」
『・・・帰りたいな』
「え?」
加瀬の呟きを聞いた渕上は声を上げながらモニター越しに加瀬機の方を向いた。
『・・・いや、なんでもない。....誰も欠ける事なく任務を終えたな』
『加瀬さん....』
『すまない。少し疲れてる様だ。気にしないでくれ』
「・・・帰れますよ」
『?』
「誰も欠ける事なく。全員で」
『そう、だな』
加瀬の歯切れの悪さに微かな不信感を覚える渕上。だが渕上は気にする事なく帰路に着いた。
“誰も欠ける事なく帰る”
それがこの部隊の、一番の成功とも言えた。
誰も死なずに帰ることこそが、何よりも重要なことだった。
そう思って居た渕上機をユーリウスら3機のドイツ軍機が抜き去って行った。
(筋は悪くない。が、まだ青臭いな)
ユーリウスが渕上に対してそう思った事を、渕上は知らなかった。




