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第十八話「アップデート」

【6月3日 水曜日】


「よっ、渕上。久々だな」

「遼太郎さん。お久しぶりです」


 日本に帰国し、機体を格納庫に納めた渕上は機体から降りるや否や松田遼太郎と再開した。


「お久しぶりです。遼太郎叔父さん」

「晴翔。お前も元気してたか?」


 松田晴翔と松田遼太郎は握手を交わすと再開を喜んだ。数秒後、松田遼太郎は渕上の方を向いた。


「渕上。試作データ獲得及び試作システム導入の為に、ヴェヒター、弄っても良いか?」

「?。あっ、はい。どうぞ?」

「ありがとう。晴翔、場所を変えよう」

「?、あっ、はい」


 松田晴翔と松田遼太郎の2人は待機室隣の談話室に入って行った。


「中部方面隊の技術士がわざわざ何の様だ?」

「さ、さぁ〜....」

「・・・」


 加瀬の問い掛けに答える事の出来ない倉又。渕上はチラッとヴェヒターを見たのち頭からヘルメットを外すと更衣室に向かって歩き始めた。

 すると目の前から高木が歩いてきた。高木は何処か思い詰めた様子だったが出て来た言葉は全くの真逆だった。


「今日から10日間の特別長期休暇だ。しっかりを身体を休めろ」


 高木は渕上・加瀬・倉又の3人にそれを伝えると通路を歩き、格納庫から出て行った。


「なんか、表情変じゃありませんでした?」


 倉又の問い掛けに渕上は頷いて返した。

 一方の高木は出水に呼び出されていた。帰還途中に貰った電文で内容は知っては居るが、いざそれを直接言われると思うと、心が重苦しかった。


(予備パイロットの手配か....隊の方針に合わない上に今野が絶対認めないだろうな〜....)


 そんな事を考えながら総隊長室を訪れた高木はノックしたのち入室した。


「フランスでの長期任務、御苦労だった」

「・・・」

「そう身構えるな。何も説教をする為に呼んだんじゃないんだからな」


 そう言うと出水は前屈みになったのち手を組むと微かに表情を緩めた。


「報告書は貰ったよ。だが、いつも通り口頭でも貰おうかな?」

「はい」


 高木はタブレット端末を起動させると提出した報告書に沿って今回のフランス戦線での出来事を報告し始めた。出水はホログラムデータを起動させると提出された報告書を見ながら高木の話を聞いた。

 一通りの報告を終えたのち出水は「成る程」と呟くとホログラムデータを閉じたのち再び手を組んだ。


「“作戦は成功”。されど“方針展開は失敗”、と言ったところかな?」

「実際、“派遣された意味があったのかなかったのか?”と言うのが現状です」


 出水は頷いて返すと眼鏡をクイっと押し上げた。


「まぁ君達が派遣されたお陰で助かった部分、解明出来た部分もある。そこを見て今回の戦績を判断すると良い」


 そう言うと出水はゆっくりと背凭れに寄り掛かると微かに表情を鋭くした。


「帰投途中の通信文にも書いた通りだ。無理にとは言わないが、予備パイロットの選抜を行ってくれ」

「・・・御言葉ですが、RAINBOW.Fのレインボーなは“7人がそれぞれの色を出しながら夢を追い掛ける”と言う意味が込められてます。予備パイロットの追加は、それを潰すのと同じです」

「わかっている。だから無理にとは言わない。が、今回の特別休暇、意味はわかっているか?」


 高木は表情を鋭くした。


「パイロット達の為、と言うわけではないでしょう」

「その通りだ」


 そう言うと出水はホログラムデータを表示させたのちあるデータをスライドさせると高木のタブレット端末に送った。

 高木はタブレット端末を起動させ、送られて来たデータを確認すると「これは」と微かに驚いた表情で呟いた。


「ヴェヒターの臨時改修に5日から7日掛かる。その為の休暇だ。・・・パイロットがもう1人居れば、ヴェヒターの改修に合わせて特別休暇を出す必要もないという事だ。・・・ヴェヒターは試作機だ。こう言う事はちょくちょくあるだろう。その度に特別休暇を出してたら、他の隊に顔向け出来ん」

「・・・」


 難しい表情を浮かべながらタブレット端末を閉じた高木はほんの一瞬、唸った。


「何度も言うが無理にとは言わない。だが考えてみてくれ。以上だ」

「・・・失礼します」





 高木と出水が話してる頃、談話室では松田晴翔と松田遼太郎がヴェヒターのアップグレードについて話していた。


「一度ラーミナドライブとスラスターを降ろして組み直す。強化パーツを組み込み、耐久性とブーストを挙げる」

「耐久性....」

「今のラーミナドライブは、7200回転まで回る。それを7600にブーストアップさせる。それと同時にある試作システムをぶち込む」

「試作システム?」


 松田遼太郎はデータ端末を操作すると表示させてる画面を松田晴翔に見せた。そのデータを見た松田晴翔は目を見開いた。


「これは....」

「ラーミナドライブをブーストアップさせる理由は2つ。その試作システム導入の為と、」


 松田遼太郎は松田晴翔からデータ端末を返して貰うと表情を僅かに鋭くさせた。


「彼奴の本気を引き出す。ガルディアン乗ってた時よりもデータにキレがない。恐らく機体に遠慮してるんだろう」

「試作システム導入の為と渕上の本気を引き出す為に、ラーミナドライブを?」


 松田遼太郎は頷いて返した。


「本当はラーミナドライブだけ弄るつもりだったが、後者の理由の為に、スラスター周りも弄る事になった。彼奴がどれだけ本気で機体を操作しようとも、絶対に壊れないタフな機体を作りたい」

「その為の耐久性アップとブーストアップ。これは、腕が鳴りますね」

「だろ?」


 松田遼太郎はデータ端末の電源を切るとそれを机の上に置いた。


「さっきの試作システム、あれまだ秘密事項だから誰にも言うなよ」

「はい」

「よし、時間がない。早速取り掛かろう。ラーミナドライブは俺がやるから、スラスター周りは頼むぞ」

「わかりました」


 2人は椅子から立ち上がるとデータ端末を持って談話室から出ようとした。が、それを松田晴翔が止めた。


「どうした?」


 松田晴翔は表情を急変させると何処か思い詰めた様な、見えない何かを見ようとする、そんな表情を浮かべて居た。


「遼太郎叔父さんは、あの機体をどうするつもりです?」

「・・・第七世代機には、ラーミナドライブが標準搭載されるって話だ。その為のデータ収集の為にと思ってるが?」

「なんだか、それだけじゃない気がするんです。もっと、本質的な部分と言いますか....」

「・・・」


 ドアノブから手を離した松田遼太郎は松田晴翔の側に歩み寄ると僅かに表情を和らげた。


「ラーミナ、と言うモノを知りたいのさ。あと、限界無きパイロットの本質を見てみたい。だから今回の改装は第一段階だ。・・・渕上満が計画してる第二段階は凄まじいぞ」

「渕上を、あの男、一体どうするつもりです。・・・単なるデータの為とも思えませんが、」

「・・・」


 松田遼太郎は出そうと思った言葉を飲み込み、濁すと出すべき言葉を一瞬迷うと再び松田晴翔と目を合わせた。


「彼奴のエンゲージタイムは、今野中尉の様にやがては未知の領域へと突入する。それに対応出来る機体を仕上げ、そのデータを取りたい。・・・ラーミナとエンゲージタイム、両者の謎を解明したいのさ」


 そう言うと松田遼太郎は微かに口角を挙げると数歩歩いてドアノブに手を掛けた。


「これはあくまで俺の考えと想像だ。満がどう考えてるかは、俺にも分からんよ」


 そう言うと松田遼太郎はドアノブを捻って扉を開けると談話室から出て行った。


「・・・」


(“機体との対話”。データで解明出来るものなのか?)


 険しげな表情を浮かべた松田晴翔は拳を強く握ると松田遼太郎に続いて談話室から出て行った。

 談話室から出た2人は早速ヴェヒターの前に立つとデータ端末とドローンをリンクさせたのち作業を開始した。

 データ端末経由でドローンに指示を送り、その通りに動く整備ドローン達。メインスラスター・ブースターポット・スラスターポットの順番で外されていき、ゆっくりと床に置かれていく中、松田晴翔は松田遼太郎が持って来た強化パーツに目を向けた。


(あれが、ブーストアップと耐久性アップの為の強化パーツ....)


 ドローンの手によって慎重且つ丁寧に解体されていくスラスター達。此処までは、普段の整備と同じだった。ドローンは普段の整備の時よりも細かくスラスターを分解し始めた。


(今日は此処までだな)


 既に3時間が経過して居た。

 松田晴翔は作業を止め、ドローンが停止したのを確認すると松田遼太郎の元へ歩み寄った。


「強化パーツの組み込みは明日行います」

「それが良い。お前も休め」


 松田遼太郎は笑いながらそう言うと自分の方も作業を止めた。


「スラスター周りは3日もあれば終わるだろ。あとは、俺の仕事だ」


 そう言うと松田遼太郎は松田晴翔の肩を一回軽く叩くとその場から立ち去った。


「・・・」


(イマイチ何を企んでるか分からない人達だな)





「・・・」


 ノートホログラムPCを机の上に置いて、それを起動させた渕上満は松田遼太郎から届いたデータを確認して居た。


(ラーミナドライブ。やはり7000回転行ってる時があるのね。・・・7600じゃあ、あまりブーストアップにはならないかもね)


 そう思った渕上満は画面をスライドさせると別のデータを表示させた。


(この改修を実装する為には、ラーミナドライブのデータがまだ足りないのよね....)


 渕上満は机に置いたティーカップを手に取ると中に入った紅茶を飲んだ。丁度その頃、渕上満の携帯電話が着信を鳴らした。


「はい?」

『おう満。データ、確認したか?』

「えぇ、見たわ。最大回転記録は7090。7200には届いてなくても、ギリギリの数値ね」

『全くだ。それにしても、流石は晴翔だ。ちゃんと整備・メンテしてある。流石だ』

「前線と言う過酷な状況下であるにも関わらず、それが出来るのは凄い事ね」


 渕上満はそう言うとノートホログラムPCの画面をスライドさせると松田遼太郎から転送されたデータを再度見た。


『晴翔の奴、色々戸惑ってるみたいだぜ』

「え?」

『あの機体を、ヴェヒターをどうするつもりなのか、何故渕上和公のデータが欲しいのか?』

「貴方はなんて?」

『“ラーミナの謎を解く為の鍵”・“エンゲージタイム解明の為の鍵”ってな』


 渕上満は鼻を鳴らすと椅子の背凭れに寄り掛かると天井を見上げた。


「私はただ、見守りたいだけなのよ。出来る事なら護りたい。あの子が、和公が全力で戦える様にサポートしつつ、手の届かない場所に行ってしまったあの子を、見守りたいのよ」

『成る程。単なる“家族愛”か』

「貴方が思ってるほど、何か企んでる訳ではないのよ。寧ろ、....貴方の方が企んでるんじゃない?」

『バレたか。まぁ俺は色々解明していきたいだけさ』


 渕上満は笑みを浮かべると背凭れから身体を起こし、再びデータを閲覧した。


「第七世代機が必要になるとすれば、ラーミナドライブは必須よ。・・・しっかりね」

『ああ。アンタの家族愛の為、俺の野望のため、きっちりブーストアップさせて貰うよ』

「二次改修、いえ今後行われる大規模改修の為にも、宜しくね」


 そう言った渕上満は通話を切ると携帯電話をゆっくりと机に置いた。その後、ノートホログラムPCに表示された時刻を見ると溜息を吐きながらノートホログラムPCを閉じた。





【6月4日 木曜日】


 松田晴翔はデータ端末を起動させると通路を降り、格納庫の下まで行き、分解されたスラスター達の側で足を止めると作業用ドローンに指示を与え、スラスター周りの改修を始めた。

 動くドローンを間近で見ながらスラスターを見て回る松田晴翔。データ端末と肉眼点検を交互に行い、時にスポットコントローラーと呼ばれる自分の指でドローンを操作する事も行いながらスラスターの改修を進めた。


「流石に疲れるな」


 遠征疲れや時差ボケも残ってる中、いつも以上にドローンの動きに気を配り、スポットコントローラーや時に工具を使ってドローンではなく、自分の手作業で行うチューニングは流石の松田晴翔でもキツかった。

 メインスラスターへの強化パーツ組み込み作業は思いの外早く終わったが問題は拡張スラスター。いつも以上にスポットコントローラーが必要になる上、工具を使っての手作業は、松田晴翔にとっては初めての経験だった。


「ふぅ、」


 気が付けば時刻は12時を回って居た。松田晴翔は腕で汗を拭うと息を吐いた。

 そんな松田晴翔に声を掛ける女性が居た。


「おーい」

「あっ、京塚さん」

「差し入れ持って来たよ。休憩にしませんか?」


 松田晴翔は笑みを浮かべながら頷いて返すとデータ端末を操作してドローンを止めると上に上がった。


「今日はおにぎり。私が握ったの」

「へぇ〜」


 松田晴翔は京塚に礼を言うとおにぎりを1つ手に取ると齧り付いた。


「あっ、鮭ですか。塩気が効いてて美味いです」

「そう。ならよかった」

「全然、休んでてよかったのに」

「松田が働いてるって知ったら、何かしてあげたくて」


 松田晴翔は頷きながら前を向くとおにぎりに齧り付いた。


「作業の方は順調?」

「・・・初めてですよ。手作業でパーツ組み込んだのは....建造の時は全てドローンがやるか、遼太郎叔父さんがやってましたから」

「今時手作業、か....珍しいわね」

「自分でもそう思います。ただ、やっぱり時代はまだドローンだけに任せては居られないな。と、ハッキリ思いました。何十年何百年経とうと、人の手は必要なんだと思います」


 そう言った松田晴翔はお茶を数口飲むと一呼吸置いてから再びおにぎりに齧り付いた。


「このアップデートは、渕上の限界を引き延ばす為でもあります。遼太郎叔父さん達がどう考えてるかはどうであれ、俺は俺の全力を出します」


 松田晴翔はおにぎりを飲み込むとフゥーッと長めに息を吐いた。そんな松田晴翔を京塚は優しげな笑みで見つめた。


「京塚さん」

「はい?」

「差し入れ。いつもいつもありがとうございます」

「半分は私の好きでやってるから、気にしないで」


 松田晴翔は笑みを浮かべるとおにぎりに齧り付いた。


(松田さんと居ると落ち着くな〜。歳下なのに、歳上特有の人を落ち着かせる何かを持ってるよね)


「?」


 京塚からの視線が気になり、チラッと京塚の方を見た松田晴翔は内心首を傾げた。


(やっぱり桑原さん同様に何かを感じるな〜。京塚さん、今何考えてるんだろ?)


 そんな事を考えながら口の中身を飲み込んだ松田晴翔は2個目のおにぎりを掴むと齧り付いた。


「あっ、今度は昆布ですか。わかってますね〜」

「てしょ〜?」


 2人は互いに笑い合った。

 一方で松田遼太郎は、


「1年に一回の定期メンテナンスで充分なのに、毎回メンテしてあるんだな。流石と言うかなんと言うか....」


 軽い笑みを浮かべながら松田遼太郎は松田晴翔の方を向いた。

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