第十四話「黒き要塞を攻略せよ」
イータ人型機動兵器の第二波を殲滅した渕上ら攻撃班はドーバー海峡まであと少しのところまでやってきて居た。
(ドジったな。いつもの癖で腕部170ミリ単発砲を使っちまった。・・・残弾的には余裕だが、あの要塞を相手するとなると....心配だな)
芹沢はそう思うと軽く舌打ちをした。
一方で渕上は普段と違うライフルに僅かだが戸惑いを感じて居た。
(上下二連だけあって速射性は良いが....けん制射撃出来ないのは思いの外キツいな。やっぱりデルタモデルのままの方がよかったか?)
『敵、第三波接近。数....200』
『冗談だろ』
『勘弁願いたい』
雨宮の報告を前に愚痴を漏らす秋山と森川。だがそれは冗談ではなくマジだった。
「実弾兵器は温存したい。なるべく俺が落とす」
『頼む。そうしてくれ』
渕上は機体を加速させると前に出た。
(まっ、こう言う時の為に速射性を追求してガンマモデルにしたんだ。稼がせて貰うぜ)
そう思った渕上は操縦桿をほんの僅かに強く握るとイータ人型機動兵器群の中に突っ込んだ。
いつもより僅かに速いキルペースでイータ人型機動兵器を撃墜する渕上。そんな渕上機に迫るイータ人型機動兵器にワイヤークローが直撃した。
『近接なら実弾兵器は使わん。俺ももう少し稼がせて貰うぜ』
そう言いながら芹沢は渕上機の真上を飛んだ。
右脚の爪先からラーミナビームブレイドを展開するとイータ人型機動兵器を斬り裂いたのち直上から急降下してくる別のイータ人型機動兵器をラーミナバスターブレイドで叩き斬った。そして自分に迫る2機のイータ人型機動兵器を捉えると1機を右腕のアームラーミナビームサブマシンガンで蜂の巣にするともう1機をワイヤークローで仕留めた。
(意外と難しいモノだな。腕部170ミリ単発砲が使えないのは)
そう思いながら内心舌打ちをする芹沢。すると芹沢機はラーミナバスターブレイドをウェポンラックに収納するとラーミナビームブレイドを二刀流で構えた。
「ペース上げてくぜ」
「(エンゲージ)」
そう呟いた芹沢はエンゲージタイムを発動させた。渕上程“濃く”はないが芹沢も使える人間、10000人の1人だった。
ラーミナビームブレイドを二刀流で構えながらイータ人型機動兵器に斬り掛かる芹沢機。そのキルスピードは近接武器オンリーでありながら渕上に匹敵して居た。
(行ける。手応えはある。俺の翔鶴が、行けると教えてくれている)
機体を信じ、只管にイータ人型機動兵器を斬り続ける芹沢機。それを見て居た渕上は微かに口角を上げた。
(やっぱ芹沢少尉も使えるんだ。けど、俺のとは何か違うな)
そう思いながらイータ人型機動兵器を撃墜する渕上機。
渕上機と芹沢機の奮戦で、200居たイータ人型機動兵器を短時間で殲滅する事が出来た。
『流石は和泉守兼定と孫六兼元ね。異名持ちは伊達じゃないって事ね』
酒井の言葉を前に軽く苦笑いを浮かべる渕上。
秋山機の周りに集結した攻撃班は前進を開始した。
2分ほど進むと全員のモニターにそれは映った。
「この距離から既に見えるって....」
『デカすぎるだろ....』
オンブル・ア・ベットは既に空中に浮遊しており、渕上らを待ち構えて居た。
『デカい方が潰しがいがある。そう思わなきゃやってやれねぇだろ』
「確かに」
芹沢の前向きな意見に賛同する渕上。
しばらく進むとオンブル・ア・ベットは一斉に攻撃を開始した。
「コハク!」
「バリアアサルトテンカイ・バリアアサルトテンカイ」
『全機散開!』
渕上機の展開したバリアアサルトに護られながら散開する攻撃班。渕上は芹沢機・風間機と共にシールド発生源のドームへ向かった。
「こちら攻撃班、目標と接敵。狙撃班の状況知らせ」
『こちら狙撃班加瀬。あと3分くれ。狙撃ポイントを確保する』
「了解」
『多分1発じゃ破壊出来ないでしょうね』
『壊れるまでぶち込むだけだ』
風間にそう答える加瀬。その会話を聞いて居た渕上は微かに口角を上げた。
「全機攻撃開始!」
渕上機と芹沢機は腕部170ミリ単発砲の折り畳まれていた砲身を展開・合体させるとドームを覆うシールドに向かって攻撃を開始した。
当然、ノーダメージだが、渕上らにとっては大した事ではなかった。
風間機は100ミリロングレンジマシンガンを単発撃ちで1発1発丁寧に当てながら人型形態で飛び回る中、オンブル・ア・ベットの弾幕を掻い潜って迫るイータ人型機動兵器に目を向けた。
『ミサイルは使うなよ』
「わかってる。今はまだ使い時じゃないわ」
渕上の無線にそう返した風間は機体を回頭させると迫ってくるイータ人型機動兵器のコクピットに1発1発丁寧に攻撃を撃ち込んだ。
一方で渕上もライフルをマウントラッチに携行させると腕部170ミリ単発砲をドームに向かって撃ち続けたながら左腕に内蔵されたアームラーミナビームサブマシンガンでイータ人型機動兵器を迎え撃った。
『狙撃体勢に入った。ラーミナチャージ開始』
(当たれよ。頼むぞ)
『60....75....86....97、100。撃ち抜く』
エネルギーカウントののちに放たれた弾頭は一直線に飛翔し、ドームシールドを貫通。ドームに直撃した。
「命中確認」
『どうなった?』
攻撃班一同が表情を固める中、ドームを覆って居たシールドが消滅すると同時に突起物先端からのビーム攻撃が止まった。
『シールドの弱体化を確認。艦各種のエネルギーダウンも確認』
『よし!俺の隊で武装を叩く。渕上達は引き続きドームを!』
「了解だ」
渕上機は腕部170ミリ単発砲の砲身を折り畳むとマウントラッチからライフルを構えるとドームに向かって只管ラーミナビームを撃ち込んだ。
『マシンガンは後回しだ。突起物を叩け!』
『酒井援護しろ!発進デッキを叩く!』
秋山班が散開する中、渕上機はバリアアサルトを回収するとチャージを急がせた。
『渕上さん。ドームにダメージと同時に吸収反応を検知。ビームでの攻撃は危険です』
「やっぱりそう言う仕掛けか」
内心舌打ちをする渕上。すると渕上機はライフルをマウントラッチに携行させると腕部170ミリ単発砲の砲身を展開・合体させ、ドームに撃ち込んだ。
『お前、わかってたろ』
「半分正解です。吸収よりダメージが上回れば良いと思ったんですが、そう単純な話ではなさそうです」
芹沢にそう返した渕上は只管腕部170ミリ単発砲のトリガーを押した。
そうこうしている内に再びドームを覆う様にシールドが展開、突起物からビームが放たれ始めた。
『クッソ。実弾兵装にもう少し慣れてれば....』
「嘆くのはあとだ。加瀬」
『了解した』
渕上は只管腕部170ミリ単発砲のトリガーを押した。だが渕上機は砲身を折り畳み、ライフルを構えると自分や芹沢機・風間機に迫るイータ人型機動兵器を撃墜し始めた。
「コハク」
「バリアアサルトテンカイ・バリアアサルトテンカイ」
渕上機の両肩・脚部上部から展開されたバリアアサルトが味方を護る中、加瀬は再びカウントを始めた。
『86....97、100。当ててみせる』
加瀬機から放たれる弾頭。しかしそれがドームに命中する事はなかった。
「ナッ⁉︎」
『盾か。舐めた真似を!』
ドームのバリアに当たる直前、2機のイータ人型機動兵器が並んで盾になった事で加瀬機から放たれた弾頭はドームには命中しなかった。
『敵、第三波接近。五方向から来ます!』
那須のオペレートを前に表情を険しくする狙撃班。加瀬を護る機体は3機。5つの方向からの攻撃には対処が出来ない。
渕上は決断した。
「加瀬!射線は確保する!。次で決めろ!」
しかし渕上がそう言った瞬間、オンブル・ア・ベットは上昇を開始した。それでも渕上は揺るがない。
「アンタなら当てられる。頼む!」
『....了解した』
渕上は只管トリガーを引くと、ドーム周辺のイータ人型機動兵器を撃墜した。
『86....95....100....オーバー120、オーバー135、オーバー150』
(頼む。当たれよ)
『外しはしない!』
オーバーパワーで放たれた弾頭は一直線に飛翔した。
「同じ手は見切った!」
そう言うと渕上は射線を塞ごうとする2機イータ人型機動兵器を撃墜した。
加瀬機から放たれた弾頭は、バリアを貫通。ドーム本体に命中した。するとドームを囲って居たシールドが消えると同時にドームは爆散し始めた。
『レールガンオーバーヒート。使えないな....どうなった?』
加瀬の疑問に答える前に結果が出た。
ドームは爆散して崩壊。オンブル・ア・ベットから完全にシールドが消えた。
『シールドの完全消失を確認!。仕上げを!』
「了解だ。秋山!」
『全機、オンブル・ア・ベットの艦橋目掛けて全ミサイル発射!』
秋山の号令に合わせる様に風間機も秋山機の元へ向かった。渕上機はドームを失い爆散を続ける船体下部、ドーム跡地に向かって腕部ロケット砲を撃ち込んだ。ドーム消失により生じた穴から強力なロケット砲を喰らったオンブル・ア・ベットは更に爆散し始めると崩落を始めた。
『艦橋を狙え!一斉射!テェェッッ!』
五機のリベラシオンから放たれた無数のマイクロミサイルが弾幕を掻い潜りながらオンブル・ア・ベットの艦橋に命中すると爆散しながら崩落を始めた。
そんな中、敢えて2発のミサイルを残しておいた森川機と酒井機は船体下部に回り込むとイータ人型機動兵器発進デッキに残りの2発を撃ち込んだ。
マイクロとは言えど強力な4発を喰らった発進デッキは爆散しながら崩落を始めた。
至る所で爆散しながら崩落するオンブル・ア・ベットは船体を真っ二つにすると爆散しながらドーバー海峡に墜落し、沈没した。
※
美濃関訓練学院校長兼中部方面隊司令官の西島は美濃関訓練学院の教官である北条と城島を校長室に呼んでいた。
「経過はどうだ?」
「極端ですね。実技が出来て座学が出来ない者。その逆も居ます」
「ふ〜ん....」
北条からの報告を聞いた西島は何処か余裕ありげな笑みを浮かべながら腕を組んだ。
「渕上らが異常だっただけだ。最初はそんなモノだ」
「それは、そうですが....」
「誰にでも得意不得意はある。そこを如何に調整し、伸ばすかが教官としての腕の見せ所だ。違うか?」
そう言うと西島は椅子から立ち上がったのち窓の方へ歩くと窓から外を見た。
「俺は特に口出しはしない。それが俺の流儀みたいなモノだからな」
「西島さん....」
西島は長い瞬きをしたのち2人の方を向いた。
「今、孫六兼元と村正が新しい時代を切り拓こうとしてる。それに続く者達が、必要だ。・・・期待している」
「「ハッ」」
「俺から何かをするつもりはないが要請があれば此方も動けるところは動く。現状報告はこまめに頼む」
「わかりました」
「忙しい時に呼び出してすまなかったな。行って良い」
「「失礼します」」
城島と北条は西島に敬礼をしたのち校長室から退室した。西島は椅子に座り込むと背もたれに寄り掛かった。
「孫六兼元と村正が切り拓く未来。一体どんなモノになるのかな?」
そう呟いた西島はホログラムを起動させ、データを閲覧し始めた。
※
ドーバー海峡に墜落し、沈没していくオンブル・ア・ベット。それを見て居た攻撃班のメンバーは無言だった。が、そのムードを秋山が切り裂いた。
『あれだけデカいとチリザマも派手だな』
「このモニターだとよく見えるぜ」
渕上はモニター越しに沈没していくオンブル・ア・ベットを見ていると操縦桿を握り直し、「さてと」と呟いた。
「退かない敵を仕留めますか」
渕上機はライフルを構えながら降下するとイータ人型機動兵器群に突っ込んだ。
『俺達も行くぞ』
『了解ッ』
渕上機に続く様に芹沢機・風間機もイータ人型機動兵器群に突っ込んだ。だがその瞬間、海中から多数のイータ人型機動兵器が現れた。
『何⁉︎』
『なんで海中から?』
「とりあえず、仕留めるぞ」
渕上機はブースターポットとスラスターポットの恩恵をフルに生かしながらイータ人型機動兵器を次々と撃墜していった。いつものライフルよりも速射性に優れているのもあり、一撃で仕留めるというより当てれる時に当てるというスタイルで戦っているせいか普段より無駄撃ちが多い様に見えたがキルペースはさ程変わっては居なかった。
(その機体、武装にあった戦い方をすれば良いだけだ)
そう思いながらイータ人型機動兵器の脚部を撃ち抜いたのちコクピットを撃ち抜いた渕上は次なる目標に目を向けた。
だが一本の緊急通信が、渕上の集中力を挫いた。
『海中より、複数の高エネルギー反応検知!。この反応、オンブル・ア・ベットです!』
「・・・ハァ?」
思わずトリガーから指を離した渕上はモニター越しにドーバー海峡を見た。
「ッ!。コハク!バリアアサルト、フレンドリースタンバイ!」
何かを察した渕上はすぐさまコハクに指示を出し、バリアアサルトを展開した。数秒後、海中から無数のビームが彼らを襲った。
『退避!。陸に上がれ!』
ドーバー海峡を離れ、陸へと飛ぶ攻撃班。
陸上に着地した7機はモニター越しに4隻のオンブル・ア・ベットを確認した。
「嘘だろ....」
『撤退!撤退!。前線拠点まで撤退しろ!』
前回とは違いすぐさま撤退指示を出す秋山。そんな秋山機を先頭に攻撃班は空にとびあがる飛び上がるとスラスターを吹かし、空を飛んだ。
勿論、イータはタダでは逃してはくれない。
攻撃班の背後を無数のイータ人型機動兵器が追い掛けた。
「ッ!。俺が行く」
『無理はするなよ』
渕上は機体を反転させるとスラスター調整レバーを操作するとスラスター出力を落としたのちイータ人型機動兵器群に突っ込んだ。4割は渕上機に喰らい付いたが残りの6割は秋山ら攻撃班を追った。
『風間!』
『了解。徹底的にやります!』
芹沢機と風間機は編隊から離れると残りの6割を迎え撃った。
渕上機は只管ライフルの引き金を引き、イータ人型機動兵器を被弾・撃墜していった。
芹沢機はワイヤークローとラーミナバスターブレイドを駆使しながら只管撃墜していった。
風間機は芹沢機が仕留め損ねた機体のコクピットに100ミリロングレンジマシンガンを単発で撃ち込み、撃墜。イータ人型機動兵器が後方に行くのを阻止した。
『クッソ!。バスターブレイドじゃ埒があかねぇ。となれば、』
「(エンゲージ)」
ラーミナバスターブレイドをウェポンラックに収納するとラーミナビームブレイドを二刀流で構え、キルペースを上げたい。
「ペースを上げるか」
「(エンゲージ)」
ヴェヒターの両眼が一瞬発光する中、渕上機はキルペースを上げた。
戦友を逃す為、友軍を逃す為、彼らは3桁のイータ人型機動兵器を相手にしながら撤退の機会を伺った。




