第十五話「追撃を振り切れ」
渕上らよりも先に前線拠点に戻った秋山は整備士に武装換装と補給を頼んだ。
「補給が済み次第もう一度出るぞ。渕上らを孤立させる訳にはいかん」
「「「ハッ」」」
秋山は整備の始まる自分の機体を見上げた。すると陽動班だった。PROJECT.FのグループAとCも丁度帰還した。
「補給だけで良い。狙撃班の救出に向かう」
整備士にそう言った黒田は秋山と目を合わせると秋山の元へ駆け寄った。
「4隻のオンブル・ア・ベットに遭遇したらしいな」
「はい。即撤退したんですが、渕上らがしんがえりで置き去りに....」
「そうか....補給が終わり次第すぐに救援に迎え。俺達もすぐに出る」
「ハッ!」
黒田は秋山の肩を軽く叩くと野外整備の進む自分の機体を見たのち基地の中へ入って行った。
「和樹....」
「?、茜....」
「渕上さんなら、大丈夫だよね?」
「勿論だ。そもそも俺達が戻って来る事すら、考えてないだろうよ」
そう言った秋山は茅野から視線を逸らすと、格納庫内から運び出される武装を見つめた。
(急げよ。急いでくれよ)
表情を鋭くする秋山。するとそこへ、森川と酒井が現れた。森川は秋山に、酒井は茅野にそれぞれパック飲料とロールパンを渡した。
「今のうちに食べておいた方が良い」
「ありがとう」
秋山はパック飲料の中身をがぶ飲みすると包みを開けてロールパンに齧り付いた。
「良いパン使ってんな〜。流石はフランス」
「戦時中なのに、孤立してのに、このクオリティは凄いよ」
森川はそう言うと整備が進む機体の方を向いた。
「急ピッチで進んでるな」
「すぐ出撃したいって言ったからな。ただ、マシンガンの換装があるから少し遅くなるとは思うが....」
秋山はそう言いながらロールパンに齧り付いた。
専属整備士とドローンによって補給と装備換装の進む機体を、4人はただただ見てるしかなかった。
※
一方その頃、日本では、
「我々の担当はアメリカ大陸です。ヨーロッパに派遣する余力なありません」
大岩の提案に対して佐久間信茂は反対意見を述べた。
「うむ。しかしアメリカ戦線は現在落ち着いており、第二・第三独立遊撃部隊は暇を持て余してる筈だ。それをヨーロッパ戦線に貸し出す事は、不可能ではない筈だ」
(そんな事したら俺の仕事が増えるじゃないか。そんな面倒はごめんだ)
そう思う佐久間は必死に頭の中を回した。
「私からもお願いします」
そう言った出水は佐久間に頭を下げた。すると佐久間は呆れた表情を浮かべながら2人に背を向けた。
「そもそも第五独立遊撃部隊が、7人しか居ないからこう言うことになるんでしょ。それの尻拭いなんてごめんですよ」
そう言いながら佐久間は司令室から退室した。それを見送った大岩は机に両肘をついて手を組むと静かに唸った。
「大岩司令....」
「すまない。私の力不足だ」
「そんな事はありません。・・・佐久間総隊長、流石に腰が重いですね」
「うむ」
大岩は静かに椅子から立ち上がると出水の方を向いた。
「第五独立遊撃部隊のあり方は、間違ってはない。が、ヴェヒターと言う試作機がある以上、控えメンバーは必要だ。無理にとは言わないが、君の方からも言ってみてくれ」
「ハッ!」
「それにしても、」
「?」
再び静かに椅子に座った大岩はサイドパネルを操作してホログラムデータを出現させるとヨーロッパ戦線の状況を確認した。
「人員が足りんな。特にドイツ戦線とフランス戦線は」
「第四がフランス、第五がドイツを支えてますが、今回は両部隊共にフランス戦線。ドイツ戦線が悲鳴をあげてます」
大岩は頷きながらホログラムデータをスライドさせると表示させたデータを出水のタブレット端末に転送した。
「これは?」
出水はすぐに受け取ったデータを確認すると大岩に尋ねた。
「実は今度第五独立遊撃部隊が帰投したら1週間の長期休暇を与えるつもりだ。渕上技術設計主任からの要請でヴェヒターで運用されている試作データ収集の為に改修を加えたいと言う話が出て居てな」
「ほう?」
「それをヴェヒターに搭載するのに、5日前後掛かるらしい」
「成る程。それで長期休暇を?」
「・・・俺が何故予備人員の話をしたかわかったな」
出水はハッとした表情を浮かべると息を飲んだ。大岩はホログラムデータを閉じると再び静かに立ち上がった。
「強制はしない。だが話はしてみてくれ」
「ハッ」
「行って良い」
「ハッ、失礼します」
出水は大岩に敬礼したのち司令室から退室した。大岩は数歩歩き窓から外を見るとなんとも言えない複雑な表情を浮かべた。
※
「毎度毎度思うが、落としても落としても出て来るな」
そう静かに呟いた渕上はトリガーを連続で引き続けた。ライフルの速射性を生かしていつもとは違う戦い方をする渕上。
脚部・腕部を撃ち抜いたのちコクピットを撃ち抜く渕上機。いつもなら狙うはコクピット一択。しかしデルタモデルよりも速射性に優れるガンマモデルを使う渕上機の戦い方はいつもと違うながらもロスはなかった。
『(渕上、後ろだ)』
「ッ」
渕上機は振り返ると同時に引き金を引き、イータ人型機動兵器を撃墜した。
『埒があかねぇな』
芹沢は無線の向こう側でそう呟いた。
(敵の数は確実に減って来てる筈。なのに手応えがないのは何故だ?。元の数が多いからか)
『(考えてる暇はないぞ。撃て、撃ち続けろ)』
「了解だ」
只管トリガーを引く渕上。
後ろに取り付いたイータ人型機動兵器を振り返る事なく砲口だけ向けて引き金を引く渕上機は後ろにも目があると言わなければ、説明が付かなかった。
(あれでよく当たるわね。まぁ、この数に囲まれてたら、何処に銃口向けても当たりそうだけど)
渕上の戦いを見て居た風間は静かにそう思うとマイクロミサイルが弾切れを起こしてる事に内心苛立ちを覚えた。
「こう言う時こそ、軽口を叩ける様じゃないと。私もまだまだね」
そう言いながら風間はコクピットに1発1発丁寧に攻撃を当てた。そして自機に急接近するイータ人型機動兵器にレールガンを当てて中破させるとアームラーミナビームサブマシンガンで蜂の巣にした。
『雨宮。隊長機は?』
『今は確認出来てません』
「となると、全機落とすしかなさそうですね」
無線の向こう側で渕上は舌打ちをした。
そんな中、風間機は100ミリロングレンジマシンガンをマウントラッチに携行するとラーミナビームブレイドを二刀流で構えるとアームラーミナビームサブマシンガンを撃ちながらイータ人型機動兵器と距離を詰めるとそのまま斬り裂いた。
「こっから容赦しません。徹底的にやります!」
風間機はイータ人型機動兵器を斬り裂くと別方向から迫るイータ人型機動兵器をアームラーミナビームサブマシンガンを蜂の巣にした。
『寧ろ今まで手抜いてたのか?』
「後ろに抜かれる訳にはいかなかったので芹沢さんの援護に回ってました」
『そうか。じゃあ遠慮なく暴れてくれ』
「了解です!」
風間機は水を得た魚の様にキレのある動きで次々とイータ人型機動兵器を斬り裂いた。
一方で芹沢機は爪先から展開したラーミナビームブレイドでイータ人型機動兵器を蹴り上げる様に斬り裂くとすぐさま急加速したのちすれ違い際に2機のイータ人型機動兵器を上下真っ二つに斬り裂いた。その後ワイヤークローを射出して1機仕留めると射出したワイヤークローを回収しながらアームラーミナビームサブマシンガンで1機仕留めた。ワイヤークローを回収し、腕部170ミリ単発砲を撃ちながらイータ人型機動兵器と距離を詰め、左手に構えるラーミナビームブレイドでイータ人型機動兵器を斬り裂いた。
「キリがないな。なんか撃退に持ち込む方法はねぇのか?」
『隊長機が居ない以上....でも、敵戦力は3割減ってます。この調子でいけば』
「これだけ暴れて3割か」
『ッ!。敵第二波接近!』
「寝言は寝て言え!」
『本当です!』
『確認した。200は居るぞ』
「落とした分送り込んで来たってか?。冗談きついぜ」
芹沢は舌打ちするも現実は変わらない。200以上のイータ人型機動兵器は群に合流すると渕上ら3機に襲い掛かった。
(此処に来てロケット砲で来た事が裏目に出てるな。・・・どうすっかな〜。ライフルぐらいなら対応出来るが....)
拡張スラスターのブースターポットとスラスターポットの恩恵を巧みに生かしながら次々とイータ人型機動兵器を被弾・撃墜していく渕上。だが、“ライフルぐらいなら”と言う考えも裏目に出ている事に、渕上はまだ気が付いて居なかった。
いつもと違う戦闘スタイルを1対3桁でやる事がどれだけ機体に、身体に負荷が掛かるかを渕上はまだちゃんとは気が付いてなかった。
※
戦術レーザー砲でイータ人型機動兵器を薙ぎ払う今野機。しかし戦術レーザーを撃ちぱなしにしているせいか砲身とジェネレーターは悲鳴を挙げ掛けて居た。
『敵、第四波接近』
「レーザー砲をクールダウンさせてる暇がないわね」
『レールガンが使えないのは、案外キツイな』
悲鳴を挙げて居るのはパイロットも同じだった。オンブル・ア・ベットを攻略するのが此処まで長期戦になる事は今野すら予測しては居なかったからだ。
『まさか要塞攻略したからこんな猛反撃を喰らうなんて』
「仕方ない。あまり使いたくない戦法だが、やるしかないな」
中井機はラーミナ太刀をウェポンラックに収納するとラーミナビームブレイドを二刀流で構えたのちイータ人型機動兵器に斬り掛かった。
『お前らしくないな』
「偶には流儀から外れた事をしなきゃ、仲間が死ぬ」
そう言うと中井は腕部170ミリ単発砲のトリガーを押しながらイータ人型機動兵器と距離を詰めた。
中井機は次々とイータ人型機動兵器を斬り裂くとアームラーミナビームサブマシンガンと腕部170ミリ単発砲のダブルパンチでイータ人型機動兵器を蜂の巣にした。
「私だって!」
倉又機はホルスターから100ミリサブマシンガンを引き抜くとラーミナツインビームサブマシンガンと二挺持ちで構えるとキルペースを上げた。
(帰国したら桑原さんに色々チューニングしてもらおう〜)
そう思いながら倉又は只管トリガーを引いた。
時に腕部140ミリ連射砲を使い、トリプルパンチでイータ人型機動兵器を蜂の巣にした。
「砲身が強制冷却モード。ッ、こんな時に」
今野機は伸縮式大型レールガンと戦術レーザー砲をウェポンラックに収納するとラーミナビームブレイドを二刀流で構え、イータ人型機動兵器に斬り掛かった。
「近接戦闘は、好きじゃないけど....」
今野が乗るのは支援機。そう言う目で見ても今野の機体は近接戦闘には向かない。だがその場に居るメンバーはわかって居た。今野がなんでも出来る何でも屋である事を。
アームラーミナビームサブマシンガンを撃ちながらイータ人型機動兵器と距離を詰め、ラーミナビームブレイドで斬り掛かる今野機。
追撃を振り切るか撃退したい彼らは必死だった。
そんな中、彼らの周辺を複数の閃光が通過するとその閃光は次々とイータ人型機動兵器を撃墜していった。
「ッ!」
『援軍か?』
『第四独立遊撃部隊隊長の黒田だ。あとは引き受けた。今のうちに撤退を』
「救援、感謝します」
黒田のPROJECT.FグループA・Cと入れ替わる様に撤退を開始する今野ら狙撃班。
加瀬機は大型ツインレールガン下部のスパイクブレイドでイータ人型機動兵器を殴り叩くとスラスターを吹かし、中井機を追った。
倉又機を先頭に狙撃班が戦線から離脱したのを確認した黒田は僅かに口角を挙げた。
「RAINBOW.Fばかりに良い所持ってかれるな。稼ぎ時だ、全機落とすぞ!」
『『『ハッ!』』』
※
「今野隊長達は無事に撤退。・・・残るは、」
那須は隣に座る雨宮の方を向いた。
雨宮は心配そうな表情でモニターをじっと見て居た。
「大丈夫よ。渕上さん達なら」
「え?」
「それは貴方が1番よく分かってるでしょ?」
「・・・」
雨宮は難しい表情を浮かべながら俯いた。
「今日の渕上さんの機体。武装もセッティングも普段と違いますし....普段とは違うメンバーと組んでるのも、正直....」
そう言うと雨宮は険しい表情を浮かべた。すると那須は椅子に座りながら手を伸ばすと雨宮の肩にそっと手を置いた。
「え?」
「貴方が信じてあげられないで、どうするの?。オペレーターの1番の仕事は、信じる事。前線に居る仲間を信じる事よ」
「....あっ、」
(そう言えば、前にも似た様な事言われたな)
そう思った雨宮は表情を一変させると拳を強く握った。それを見た那須はそっと雨宮の肩から手を離した。
(大丈夫そうね。よし、私もやるべき事をやろう)
那須はそう思うとヘッドセットをしなおしたのち、気合を入れ直した。
「芹沢さん。推進剤使い過ぎです。気をつけて下さい」
『了解だ』
「もう間もなく増援が到着します。もう少しです」
『了解』
※
『もう間もなく増幅が到着します。もう少しです』
「了解」
(秋山達が戻って来るのか?)
そう思いながら返答した渕上は表情を鋭くした。
渕上機は戦い方を普段と同じくコクピット一点狙いに戻した。
(やはり武装にあった戦い方はこの状況には向かないな。よし、なんとかやってみるか)
1対3桁の状況で普段と違う戦い方をすると言う事が機体に負荷が掛かると言う事に漸く気が付いた渕上。だがそれでも戦況は変わらなかった。
それでも渕上機は只管引き金を引いた。放たれる閃光はイータ人型機動兵器のコクピットを貫き、次々と火だるまに変えていった。
『風間さん。推進剤の残量に注意して下さい』
『キツくなって来たわね』
渕上は目付きを鋭くすると推進剤の残量を確認した。芹沢も風間も普段とは違う戦い方をして居るせいで、推進剤の消耗は凄まじかった。
(こっちの推進剤にはまだ余力がある。どうにかして風間と芹沢を逃せないものか?)
ラーミナドライブの恩恵で他の機体より推進剤タンクの容量が多い渕上の機体はジェネレーター出力も推進剤もまだ余裕があった。
そんな事を考えて居ると渕上らの無線に一本の通信が入った。
『渕上、遅くなったな。助けに来たぞ』
「秋山!」
秋山隊は飛行形態のまま戦線に突っ込むとラーミナビームを撃ちまくった。
『狙撃班は無事に撤退した。あとはお前らだけだ』
「芹沢と風間を逃がしたい。なんとか出来るか?」
『了解だ。任せろ。・・・茜は俺に付け。芹沢機を逃す。森川と酒井はエレメントを組んで風間機を逃せ。各機散開』
エレメントを組んで芹沢機と風間機の退路を作ろうとする秋山隊。
だがイータ人型機動兵器の数が多く、そう簡単にはいかなかった。




