第十三話「異名持ちの覚悟」
「「アッ」」
第一ブリーフィングルーム前で、渕上と秋山はバッタリと会った。
「・・・さっきは悪かったな」
「....殴る方が殴られるより痛いって事を学ばせて貰ったよ。こっちこそごめん」
そう言うと渕上は静かに拳を突き出した。秋山は微かに笑みを浮かべると拳を突き出し、グータッチをした。
「さて、利子を付けて借りを返しに行こうか」
「だな」
秋山はブリーフィングルームの扉を開けた。秋山に続いて渕上も入室するとそこにはRAINBOW.F・PROJECT.Fのパイロットが集められて居た。当然だが、畔木は居なかった。
「揃ったな」
黒田はそう呟くと椅子から立ち上がりホログラムを起動させると例の黒い巨体を出現させた。
「コードネーム“オンブル・ア・ベット” 。これを潰す」
黒田の発言を前に一同はざわついたが黒田の空咳を前に一同は静まり返った。すると今度は今野が話し始めた。
「解析の結果、この要塞には弱点がある事が判明したわ。シールド発生源とされるこのドームは、一定距離以上離れた場所からの実弾狙撃に弱いわ。それが可能なのは、加瀬少尉の大型ツインレールガンよ」
「確かにあれにはバイポットも付いて居て狙撃は可能だが....」
加瀬はそう言うと口元に手を添えた。それを見た今野は話を続けた。
「長距離からの実弾狙撃でドームにダメージを与え、バリアを無力化する。これがこの要塞の攻略法よ」
「よし、作戦内容を伝える。よく聞け」
黒田の発した言葉を前に一同は一気に姿勢を正した。
「俺達の任務はオンブル・ア・ベットの撃沈だ。隊は3つに分かれる。まずは狙撃班、加瀬少尉・中井少尉・倉又少尉・今野中尉だ。続いて攻撃班、渕上少尉・風間少尉・芹沢少尉・秋山少尉・茅野少尉・森川少尉・酒井少尉。陽動班はPROJECT.FのグループAとCだ」
「要塞本体には実弾兵器が有効。上手く立ち回って」
「狙撃班の中井・倉又・今野の3名は加瀬が狙撃に専念出来る様に直掩に着いて貰う。攻撃班は要塞本体を攻撃、発進してくる機動兵器にはなるべく構うな」
「要塞からのビーム兵器には渕上少尉のバリアアサルトで対応するわ。但し起動時間は無限じゃない。その辺を気を付けて」
秋山は表情を険しく鋭いものにしたのち膝に肘を付けると手で口元を覆った。
(攻撃班は渕上含めて7人。アサルトの枚数は8枚。厳しいな)
そう思う秋山を他所に黒田はフゥーッと長めに息を吐いた。
「よし、作戦決行は明日の早朝だ。各員、作戦を確認し、明日に備えろ。以上。質問はあるか?。・・・解散」
ブリーフィングに参加して居た者達の9割が退室する中、渕上はブリーフィングルームに残って居た。
(渕上班はドーム周辺のシールドを攻撃。ドームを覆うシールドを弱体化させろ。か....)
タブレット端末に送られたデータを確認した渕上は“この部分も説明して欲しかった”と内心思いながらデータに目を通した。
「シールド弱体化には実弾兵器が有効。こっちも兵装を実弾兵器に換装予定だ」
「マシンガンで出るって事か?」
「そうだ」
秋山の横槍を聞いた渕上は鋭い表情を浮かべながら口元を手で覆った。
「何そんな難しい顔してるの」
そう言いながら渕上の右肩を軽く叩いたのは風間だった。渕上は苦笑いを浮かべた。
「そんな顔してました?」
「ええ」
渕上は溜息に近い息を吐きながら背凭れに寄り掛かると座りながら背伸びをした。
「思い詰めたって仕方ないでしょ。なせばなる、よ」
「なせばなる、か....」
そう呟いた渕上は椅子から立ち上がった。
「確かに今から悩んでてもしかないな。なる様にしかならないんだからな」
渕上はそう言いながらブリーフィングルームから出て行った。
「相変わらず、硬いわね〜」
「いや〜、あれでも昔よりは丸くなりましたよ」
風間にそう言った秋山は風間に一礼するとブリーフィングルームから出て行った。
廊下を歩いて居た渕上は徐々に表情を鋭くしていった。
(機体の武装、変えるか)
そう思った渕上は松田の元へ向かった。丁度その頃、渕上は後ろから声を掛けられた。
「渕上さん」
「?」
渕上が振り返った先には雨宮が居た。
「雨宮さん。どうかしましたか?」
「・・・危険な作戦、ですね」
「あのデカブツを沈めるんです。危ない橋は渡りますよ」
「....」
雨宮は胸元で拳を握ると今にも泣き出しそうな顔をした。
「?」
「見てるだけの自分が情けないです」
「何言ってるんですか。雨宮さんのデータ収集があったから、アレを倒す算段が見つかったんですよ。そんな事言わないで下さい」
「けど、....けどいつも、いつも危ない橋を渡るのは渕上さんで、私は安全なところから見ているだけ....なんだか、情けなくて」
「・・・」
渕上は溜息に近い息を吐くと雨宮に歩み寄ったのち軽く肩に手を置いた。
「ァッ」
「危ない橋渡ってるのは皆んな一緒です。雨宮さんが居る場所だって安全じゃない。・・・危ない橋でも、向こう岸が見えてるなら渡るしかないんです」
「けど、」
「大丈夫ですよ。皆んなで渡れば、怖くはないですから」
そう言うと渕上は雨宮の肩を軽く叩いたのちその場から立ち去ろうとしたが雨宮の話はまだ終わってなかった。だが自分の気持ちを言葉に出来ない雨宮は、ただ渕上の背中を見つめるしかなかった。
「・・・」
「....」
そんな2人の様子を遠くから見て居た風間はゆっくりと雨宮のもとに歩み寄ると優しく肩に手を置いた。
「ッ?」
「見守る事しか出来ないと思うなら、見守っててあげなさい。無事を祈る事しか出来ないと思うなら、無事を祈っててあげなさい」
「風間さん」
風間は雨宮に優しく微笑むと雨宮の肩を軽く叩いたのちその場から立ち去った。
「・・・」
(渕上さん。私、....私は)
※
渕上らが作戦説明を受けてる頃、対馬では、
「海上夜戦は、好きになれないわね」
木藤はそう言いながらヘルメットを外した。それを聞いて居た加隈は格納庫内を歩きながら軽く笑みを浮かべた。
「対馬は大抵昼だもんね。それに、夜の海は怖く感じるわ」
「イータより恐ろしいかもしれませんね」
木藤は苦笑いを浮かべながらそう返した。すると加隈は話題を変えようと早見の方を向いた。
「そう言えば早見、“あの子”とはどうなの?」
「えっ?」
「ほらほら、赤羽君よ〜。私達の搭乗機の整備補佐の」
「あ、ああ〜。・・・どうって、....う〜ん、」
「あんなに良い子簡単には見つからないわよ。アタックかけないと〜。ほら、前は通話だけだったんでしょ?。今は同じ配属先なんだからさ〜」
早見はもじもじとしながら顔を僅かに赤くした。それを見た加隈は「このこの〜」と言いながら肘で早見を突っついた。
「出会いあるだけ羨ましいですよ。私なんて....」
何処かいじけた声でそう言う木藤。すると早見は内心困った様な顔をした。
(こういうのは、苦手なんだよね〜。赤羽の方からアタックして欲しいけど、だいぶ忙しそうだし....)
早見は頭を抱えながら溜息を付いた。
そんな3人を遠くから見て居た赤羽は軽く笑みを浮かべた。
(元気だな〜。・・・早見さん....良い加減行動起こさないとな〜。・・・けどな〜)
そう思いながら赤羽はフォースリベイクの方を向いた。
「此奴複雑なんだよな〜....漸くマニュアルを理解したけど....1ヶ月も掛かったよ....」
静かにそう呟いた赤羽は自分の未熟さを思い知った。
(けどまぁ、あの3人を生きて返す為にも、自分の腕を磨かないとな)
赤羽は気合いを入れ直すとフォースリベイクの整備に戻った。
※
「間に合いますか?」
「間に合わせます。安心して下さい」
松田は渕上にそうはっきりと言うと渕上の要望通りに機体を仕上げる為格納庫へ向かった。
「・・・」
(無い物ねだりしてもしたがないが、鳥海の協力が欲しいな。彼奴の戦闘スタイルと武装は、こういう時にピッタリだからな)
そう思いながら渕上は松田とは逆方向に歩いた。すると渕上は前から自分の元へ歩いてくる倉又に声を掛けられた。
(今日はやけに色んな人から声を掛けられるな)
「どうか、しましたか?」
「別にどうもしないわ。ただ、何処か誰かと話たさそうな顔をしてからつい声を掛けちゃっただけ」
「そんな顔してました?」
倉又は黙って静かに頷いた。すると通路の壁に寄り掛かり渕上を見つめた。渕上は何かを悟ると倉又の隣の壁に寄り掛かった。
「こういう時、彼奴が居ればな。って考えてしまっただけです」
倉又は静かに頷いたのち口を鳴らすと照れくさそうに頬を指でなぞった。
「初めて貴方の戦いを見た時、“美しい”と思った」
「え?」
「無駄も躊躇いもなく、人を魅了するあの戦い方に、私は、....いえ私達は感激したわ」
「・・・」
渕上は言葉を失った。どう返すべきかわからなくなる中、倉又は話を続けた。
「今の機体に乗り換えてからはもっとよ。戦闘中でも、横目で見てしまうくらい、手本にするにはレベルが高過ぎるぐらい、美しかった」
「....」
「だから貴方が撃墜された時、私は真っ先に貴方を助けた。絶対に死なせたくない、もっとあの戦いを見て居たい。そう思った」
「・・・その節は、お世話になりました」
倉又は首を横に振った。
「絶対に貴方を死なせたくない。だから貴方と同じ隊になって、貴方と同じグループになれて、私は嬉しかった。“貴方を護れる”・“貴方の戦いをみれる”と」
「倉又少尉....」
「でも実際は、護るどころか護られてばっかり。そんな気がしてるわ」
「そんな事はないと思いますが....」
倉又は軽く笑うと渕上の方を向いた。渕上はそれに気がつく事なく俯くと自分の右手の平を見つめた。
「俺は、....俺はただ、父さんを、“岐阜の孫六兼元”と呼ばれた父さんを追いかけ続けてるだけです」
「そんなお父さんの子だから、かもしれないわね」
「え?」
「・・・ねぇ、教えて」
「....?」
「貴方のあの戦い方を支えるものって、何?」
渕上はほんの一瞬目を見開くと倉又の方を向いた。倉又は真剣な眼差しで渕上を見て居た。
(俺の戦いを、支えるもの....)
「・・・“リベラシオン・ブレイド”」
そう思った渕上は静かにそう答えたのちパイロットスーツに付いてる異名持ちの証である腕章を強く握りしめた。
「俺はただ、孫六兼元に恥じぬパイロットで居たい。・・・数々の名将が手にし、実用性に長けた刀の名に恥じぬ戦いをしたいだけです」
(これが、異名持ちの覚悟....私に欠けてるモノの一つ....)
渕上の話を聞いて居た倉又は静かにそう思った。
※
「松田さーん、お疲れ様」
「京塚さん。お疲れ様です」
「はい。差し入れ」
「いつもいつもありがとうございます」
ヴェヒターの整備やセッティング、データ整理で忙しい松田に糧食の差し入れをするのは京塚の日課の一つだった。
松田はデータ端末を置くと京塚から差し入れを受けったのち中を開けた。
「おっ、手作りですか?」
「フランス軍だけあって、良いモノ揃ってたからね」
松田は再度京塚に礼を言うと中に入って居たサンドイッチを手に取るとそれを食べ始めた。
「美味しいです。いつもありがとうございます」
京塚は笑った。松田はサンドイッチを持ちながら装備換装の進むヴェヒターの方を向いた。
「凄いパイロットですよ」
「え?」
「異名の重さを背負い、異名持ちの覚悟と向き合ってる。あの若さでそれが出来るのは凄い」
松田は渕上を褒めるとサンドイッチに齧り付いた。すると京塚は松田と同じ様にヴェヒターの方を向いた。
「松田さんも、凄いと思いますよ」
「え?」
「そんな重圧と戦う渕上さんを、影から見守り、時に助言する。渕上さんが重圧と向き合えてるのは、松田さんのサポートあっての事だと思いますよ」
「ちゃんと出来てるかは怪しいですが、色んな人から渕上さんを託された以上、努力はしますよ」
京塚は笑みを浮かべながら松田の方を向いた。松田は真剣な表情でサンドイッチを噛み締めながら整備ドローンが正常に動いてるかを目視で確認した。
「俺だって、色んな人に支えて貰ってます。勿論京塚さんにも」
「そう?。なら良いんだけど」
「支えて貰ってる分、誰かを支えたい。ただそれだけです」
そう言ったのち松田は2つ目のサンドイッチを手に取るとそれに齧り付いた。
「あの、よかったらどうです?」
「え?いいんですか?」
「1人で食べるより、2人で食べた方が美味しいですから」
「あっ、じゃあ御言葉に甘えて」
京塚はサンドイッチを手に取ると静かに食べ始めた。
(なんだろう?。桑原さんとは違うこの落ち着く感じは。歳上だからか?)
軽く首を傾げた松田はサンドイッチに齧り付くとじっくりと噛み締めた。
(前から思ってたけど、松田さんと居ると落ち着くな〜。正直、歳下とは思えないな)
※
【5月12日 火曜日】
早めの朝食を終えた渕上は格納庫を訪れるとヴェヒターを見渡したのち頷いた。
「いい仕上がり。流石は晴翔さん」
そう呟いた渕上はヘルメットとアーマードベストを外し、通路脇に置くとパイロットスーツのポケットから手記とペンを取り出した。
【〇五〇〇
作戦開始30分前。格納庫は思いの外静かだった。
ヴェヒター左腕に装着されている腕部140ミリ連射砲を腕部ロケット砲に変えて貰った。ライフルもデルタモデルから上下二連ライフルモードのガンマモデル換装して貰った。
今回の戦いは、腕部170ミリ単発砲の弾薬管理が鍵となってくる筈。ライフルにマシンガンがない分、アームラーミナビームサブマシンガンで上手く対応しないとな。
それにしても、まさか芹沢少尉と風間少尉と組む事になるとはな。あの2人、正直苦手なんだよな〜。
まっ、嘆いても始まらない。オンブル・ア・ベットを沈める為にも、奮起せねば】
手記を書き終えた渕上はそれらをパイロットスーツのポケットに仕舞うとアーマードベストを着用し直したのちヘルメットを左手に持ち手摺りに寄り掛かった。
「渕上。もう来てたのか」
「芹沢少尉。おはようございます」
「おはよう」
芹沢はヴェヒターをチラッと見ると数回頷いた。
「ロケット砲?。使うか?」
「念の為って奴です」
「ふーん....」
「・・・」
「まっ、なる様にしかならねぇ。気楽に行こうぜ」
(全然気楽に行ける作戦じゃねぇよ。まぁ確かに、なる様にしかならないけどさ〜)
内心不安を拭えない渕上。だが芹沢は何処か余裕ありげな笑みを浮かべて居た。
「慢心してるつもりはない。ただ俺達に出来るのは、加瀬の狙撃を信じる事だけだ」
「そう、ですね」
「もうちょっとシャキッとしろぉ。今日はお前が俺達のリーダーなんだからよ」
「あ、はい....」
そう言うと芹沢は渕上の肩を一回叩いたのち自分の機体の方へ向かった。
「・・・」
(確かに。出来る対策はした。あとはなる様になれだな)
そう思った渕上は静かにヘルメットを被った。
すると渕上は雨宮から声を掛けられた。
「雨宮さん。どうかしました?」
「あの、絶対死なないで下さい。何処も怪我せず帰って来て下さい」
「了解」
渕上はそう返すとコクピットハッチを開けたのち機体に乗り込んだ。




