第十二話「衝突」
『なんだ⁉︎』
「海の中からだ!」
足元から集中砲火を喰らう8機。渕上機のバリアアサルトによってそれは防がれるものの、ビームによる弾幕は凄まじかった。
『超巨大なエネルギー反応!。海中から何かが浮上してきます!』
「散開!散開!」
海中から襲い掛かるビームの弾幕を避けながら散開する渕上班と秋山班。するとビームが撃ち終わると同時に海面に黒い影が現れた。
『何?、一体何が?』
「・・・」
巨大な泡を出しながら浮上したそれは日本の護衛艦の数倍はある黒い巨体だった。船体の至る所に鋭い突起物があり、船体上部には巨大な砲塔もあった。
しかもその巨体は海中から浮上するとそのまま上昇を続け、空を飛んだ。
「この巨体で空を飛ぶってアリかよ」
『スラスターらしきモノが確認出来ない。一体どうやって....』
『これも、ラーミナの力か....』
倉又の疑問にそう答えた加瀬。渕上もまた、目を見開いたままモニター越しにその巨体を見つめる事しか出来なかった。
『海中からの攻撃の正体はコイツか』
『やべぇよ、やべぇよやべぇよ』
森川の発言に畔木は返しにならない返しをする中、秋山は硬直して居た。
「秋山、どうする?」
『・・・』
「秋山!」
渕上の呼び掛けにすら答えられない秋山。
そんな彼らを嘲笑うかの様に船体下部のハッチが開くと無数のイータ人型機動兵器が発進した。
『秋山隊長!』
『和樹!』
『....』
仲間の呼び掛けに全く応じない秋山。すると渕上は軽く舌打ちをした。
「秋山班は敵人型機動兵器を撃ち落としてくれ。俺の班であの巨体を直接攻撃する。雨宮、データ収集任せたぞ」
『ァッ、はい!』
雨宮の返答を聞いた渕上は機体制御をパドに任せるとコクピット天井から降りて来たライフル型コントローラーを両手で構えた。
だが黒き巨体は渕上班の行動を察知するとすぐさま無数の弾幕を展開した。至る所にある突起物からビームを連射し、対空砲からもビームマシンガンを連射した。攻撃どころか近付ける状態ではなかった。
そんな中、パドのオートパイロットを信じ、ライフル型コントローラーを構える渕上。目を軽く見開いた渕上はトリガーを引いた。放たれた一筋の閃光は巨体から放たれる弾幕を変え潜りながら本隊に命中した。が、船体には全くダメージがなかった。
「シールドか?」
『だったら』
加瀬機は大型ツインレールガンを構えるとレールガンから弾頭を撃ち出した。放たれた弾頭は船体に直撃すると僅かに爆炎を挙げた。
「実弾兵器が有効か?」
『分析結果出ました。巨体の船体を覆ってるシールドは、ビームを無力化、実弾兵装も9割は無力化してます』
「実弾兵器が使える距離まで近付けって事か....」
渕上は険しい表情を浮かべながらライフル型コントローラーを手放した。
一方で秋山は漸く我に帰ると飛行形態に変形して只管飛び回った。
「クッソ!」
吐き捨てる様にそう言った秋山は飛行形態でラーミナツインビームサブマシンガンを撃ちながらイータ人型機動兵器を攻撃した。
「数が多い上に弾幕が凄まじいな」
『巨体から放たれたビームがイータに命中してる。同士討ちもお構いなしってか?』
畔木の無線に表情を鋭くする秋山。同士討ちすら躊躇わない弾幕を前に、秋山は平常を保ちきれなかった。
「渕上!」
『コハク!』
『バリアアサルトテンカイ・バリアアサルトテンカイ』
「全機、撃墜より回避優先。飛行形態で飛び回れ」
平常心を失う一歩手前にまで正気を失う秋山はそんな状態ながらも必死に頭を回した。
そんな中、渕上は操縦桿を握りながら巨体との距離を詰めようとしたが、
「凄まじいな。この弾幕は」
『渕上。こっちはいい。本気で斬り込んでくれ』
「加瀬....」
『データ収集のためだ。こっちは構わず突っ込め』
「・・・OK....」
「(エンゲージ)」
一瞬だけ両眼カメラアイを発光させるヴェヒター。渕上機は弾幕の嵐の中に突っ込んだ。
「・・・」
渕上の脳裏にはあるイメージが湧き上がった。自分がどう進むべきなのか、どう回避するのか。それが鮮明に浮かび上がった。
(ラインが見えた)
渕上はペダルを踏み込み、スラスターを吹かした。
渕上機はライフルモードのラーミナビームスナイパーライフルIIをマウントラッチに携行させると左腕の腕部140ミリ連射砲と右腕の腕部170ミリ単発砲の砲身を展開し、合体させると華麗に弾幕を避けながら黒い巨体に近付いた。
そして船体に張り付いた渕上はほぼゼロ距離射撃で2種の腕部砲を撃ち込んだ。
『シールド発生源、特定。発進ゲート後ろの青いドームです!』
渕上機はすぐさまスラスターを吹かした。それを聞いた加瀬もスラスターを吹かし、船体下部に潜り込むとドームにレールガンを撃ち込んだ。だが瞬時にドームを覆い隠す様にバリアが出現し、加瀬機の放った弾頭を防いだ。
無論、渕上機が放った弾頭も防がれた。
「チッ!」
舌打ちをしたのち拡張スラスターを逆噴射させて黒い巨体から距離を離した渕上はエンゲージタイムを解いた。すると渕上機は腕部砲の砲身を折り畳むとライフルを構えた。
「秋山。一旦退こう」
『なに?』
「収穫はもう充分だ。一旦退いて、体勢を立て直そう」
『・・・やむを得ぬか....いや、だが....』
渕上機はバリアアサルトを回収すると黒い巨体から距離を離した。
『渕上!バリアアサルトは⁉︎』
「ラーミナエネルギーチャージ中だ。とにかく撤退しよう!」
『・・・』
秋山は迷った。もう少しデータを採取する為にも交戦すべきか、それとも撤退すべきか。
秋山機は人型形態に変形すると黒い巨体にレールガンを撃ち込んだ。当然ながら、ダメージは殆どなかった。
『馬鹿野郎!。人型になってどうする!』
「え?」
畔木の発言を前にハッとした秋山は周りをキョロキョロ見渡した。
「渕上!バリアアサルト!」
『チャージ中だ!』
『和樹!右!』
「え?」
『あの馬鹿!』
秋山は右を向いた。すると此方に銃口を向けるイータ人型機動兵器が引き金を引こうとして居た。
(しまった!)
秋山は身を固め、両眼を瞑った。だが次の瞬間、秋山機は何かに押し飛ばされた。
「ガッ!」
我に帰る秋山はすぐさま飛行形態に変形した。その瞬間、1人の男の悲鳴が無線を通じて秋山の耳に入った。
「ッ!、畔木!」
畔木は急降下しながら人型形態に変形するとそのまま秋山機を押し飛ばしたのだった。
そう、畔木は秋山の身代わりに被弾した。
『不味いぞ!コクピットを被弾してる!』
「ッ!、撤退!撤退!。森川と酒井は畔木機を担いでそのまま離脱しろ!」
『畔木!応答しろ畔木!』
『大....丈、夫....だ。問題、ない....』
『問題しかないわね』
森川機が畔木機の右腕を、酒井機が畔木機の左腕を掴むとそのままスラスターを吹かし、撤退を開始した。そんな3機の後ろに着いた秋山機と茅野機と渕上班は只管弾幕を張った。
5分ほど飛んだ頃、黒き巨体は攻撃を辞めると静かに浮遊し続けた。だが、そんな簡単に逃がしてくれる程、イータは甘くなかった。
『南東より、敵部隊接近!』
「数は?」
『100〜110機』
「ッ」
渕上はすぐさま決断を下した。
「秋山。此処は任せろ!。倉又と加瀬は第二波に備えて直掩に付け」
『1人で迎え撃つつもりですか?。無茶です』
「いつもの事だ。心配すんな」
そう言うと渕上はスラスターを吹かし、南東に向かった。
『此処は渕上を信じよう』
加瀬は静かにそう言った。だが渕上の予測は、最悪な形で当たった。
『北東より、敵部隊。数80』
『真後ろからか!』
『簡単には逃がしてはくれないって事ね』
「倉又。此処を任せる」
そう言うと加瀬は機体を反転させて北東へ向かった。
※
渕上と加瀬の尽力で前線拠点まで戻った一行。
畔木はコクピットから救出されるとすぐさま処置室に運ばれた。
「畔木!しっかりしろ畔木!」
「畔木さん!しっかりして!」
担架の上で、畔木は薄っすらと目を開くと右手を微かに挙げ、拳を握ると親指を立てた。
「畔木....」
手術室に搬送された畔木。それを見送った秋山の中にはやり場のない怒りがあった。
「和樹....」
茅野は静かに壁に寄り掛かる秋山を見てなんとなく全てを察した。秋山が怒り、悲しんでる事を。ヘルメットを外し、壁に寄り掛かりながらボォーっとする秋山。茅野は静かに秋山の隣に立つと同じ様に壁に寄り掛かった。
10分後、自分らの元に駆け寄って来た渕上を見た秋山は一気に血相を変えると渕上を殴り掛かった。
「⁉︎」
秋山は渕上を殴ると胸倉を掴んだのち瞳に怒りを表した。
「お前の、お前のせいで畔木は!」
「....」
「お前がバリアアサルトを展開していれば、こんな事にはならなかったんだぞ!」
やり場の無い怒りを渕上にぶつける秋山。それを見た倉又はすぐさま止めようとしたが加瀬に肩を掴まれ、止められた。
「加瀬さん!」
「....ああいう年代は、時に物理的にぶつかり合わなきゃいけないんだよ。それが、若さ故のコミュニケーションだ」
「・・・」
何処か納得のいかない倉又。だが自分が仲介に入ってもどうにもならない事を悟った倉又は敢えて何もしなかった。
「確かにチャージ中を理由にバリアアサルトを展開しなかった俺にも責任はある。だがそれ以前にお前が退却に賛成していれば、こんな事にはならなかったんだぞ!」
「・・・俺はお前程器用じゃない。正直言えば、俺は判断能力を失って居た」
「ッ」
それを聞いた渕上は表情に怒りを表すと秋山の胸倉を掴んだのち秋山を壁に叩き付けた。
「だったら尚の事誰のせいにもするな!。お前は何も悪くない!。・・・俺達は、まだ青臭いんだ」
「ッ!、・・・」
瞳を見開いた秋山は渕上の胸倉から手を離した。それと同時に渕上も秋山の胸倉から手を離した。その瞬間、秋山は渕上を殴り飛ばした。
「青臭い部分があってたまるか!。俺は、俺はチームリーダーとして、隊長を目指してる身として、やってはならない事をしたんだ!。それをお前に何が分かる!」
「・・・」
渕上は静かに立ち上がると秋山を蹴り飛ばし、壁に叩き付けた。その後、秋山の胸倉を掴んだ渕上は、
「1人で完璧主義やろうとするな。何の為に仲間が居るか、上官が居るか考えろ」
静かにそう言った渕上は胸倉から手を離すと同時に秋山を殴り飛ばした。
右手をブラブラさせた渕上は静かにその場から立ち去った。それを追おうとした秋山だったがすぐさま茅野に止められた。
秋山はその場に泣き崩れた。そんな秋山を茅野はゆっくりとそっと抱きしめた。
「・・・」
そんな2人を見て居た加瀬と倉又は互いに頷き合うと渕上の後を追う様にその場を後にした。
※
屋外に出た渕上は整備が進むヴェヒターを壁に寄り掛かりながら見て居た。そんな渕上の元に、1人の女性が歩み寄って来た。
「渕上さん」
「倉又少尉」
倉又は渕上と同じ様に壁に寄り掛かると大きく背伸びをした。
「ァッ」
偶々渕上を探して居た雨宮は倉又と一緒に居るのを目撃すると、咄嗟に隠れた。
そんな事を知らない渕上はゆっくりと話し始めた。
「初めて、かもしれません」
「え?」
「秋山を殴ったのも、殴られたのも」
「・・・」
倉又は黙って話を聞いた。渕上は自分の手の平に目を落とすとそれを強く握った。
「親友を殴るっていうのは、こっちも痛いんですね。初めて知りましたよ」
「・・・あの時、」
「はい?」
「あの時、渕上さんが言った事は正しかったと思います」
「どうなんですかね?。俺は周りに支えられてばかりのグループリーダーですから」
「それで良いと思います」
「え?」
渕上は手を降ろすと同時に倉又の方を向いた。倉又は微かに笑って居た。
「1人で立ってる人間なんて、居ませんよ。人間って、1人で立ってられる程、強くありませんから」
「・・・」
「支えて、支えて貰って、そうやって出来るのが人間関係だと思うんです。だから1人で立つ必要なんてありませんよ」
「....」
渕上は再び自分の手の平に目を落とすとそれを静かに強く握った。
「そんなに力まないで下さい。その為に私達が居るんですから」
「支えて貰ってばっかりってのも、どうかと思いますが」
「そんな事ありませんよ。渕上さんは、ちゃんと私達の事を支えてくれてますよ」
「だと、良いんですが....」
倉又は微かに笑みを浮かべると渕上の肩に手を添えた。
「ッ?」
「そんな顔してる暇があったら、借りを返しに行きましょ?利子付けてしっかりと」
「ッ!、はい」
倉又は笑みを浮かべながら渕上の肩を叩くとその場から立ち去った。渕上は整備が進む自分の機体を見ながらヘルメットを被ると表情を変えた。
丁度その頃、渕上の元に雨宮が歩み寄った。
「?」
「渕上さん。....元はと言えば私の解析が遅いばかりに、」
「嘆くのは後だ。・・・今は借りを返しに行くぞ」
「ッ、はい!。丁度今野隊長が呼んでました」
「了解」
渕上はヘルメットを整えるとゆっくりと力強く歩き始めた。
「・・・」
(なんだろ?このモヤモヤは?)
※
「・・・」
控え室の中でボォーっとする秋山。何処か活力に欠け、さっきまであった苛立ちすら放ったらかしにした秋山はヘルメットの後ろに貼られたステッカーを指でなぞった。
「村正、か....」
「お前らしくないな」
「ッ!、黒田隊長!」
秋山はすぐさま椅子から立ち上がったが黒田はハンドサインでそれを止め、秋山を座らせた。秋山が座ったのを確認した黒田はゆっくりと秋山の隣に座った。
「親友を殴ったらしいな」
「....はい。実際に殴ったのは初めてでした」
「実際に?」
「・・・人生初の出撃を経験した時、彼奴は撃墜補佐2機と言う戦果を出しました。だが、俺は飛び回る事しか出来なかった」
「それで?」
「なのに彼奴“敵を撹乱してて凄いです”なんて言ったんですよ。正直頭に来ました。“バカにしてんのか此奴”と、」
「だが殴らなかった」
「諏訪部に止められました。・・・」
秋山は両手で持つヘルメットに目を落とすとステッカーを見つめた。
「・・・」
それを見て居た黒田は自分のヘルメットを脇に置くと静かに話し始めた。
「皆んな、生きる為に戦ってる。やり方は人それぞれたが、な」
「?」
「戦う目的や理由は違えど根っ子は皆んな同じだ。生きる為に戦ってる。パイロット問わず、生きる者全てな」
「それって、」
「だから1人で戦ってるなんて思うな。1人で抱え込む必要も、1人で目指す必要もない。・・・人間、時には立ち止まる。それは悪い事じゃない。....大切なのは、その場に泣き崩れるか、半歩でも前に進むかだ」
「隊長....」
黒田の横顔をじっとみつけて居た秋山は再び自分のヘルメットに目を落とした。
「お前はどうなんだ?。・・・まっ、一つ言えるとしたら、異名持ちに泣いてる暇は無いって事だ」
そう言うと黒田はヘルメットを左手で持ったのち立ち上がると数歩歩いたのち、
「覚悟が決まったら、第一ブリーフィングルームに来い。利子を付けて、借りを返す時だ」
静かにそう言い残した黒田は控え室から出て居た。
「俺は、・・・俺は!」
そう言いながら秋山は力強く立ち上がった。




