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第八話「青臭い部分」

「数だけ居たってつまらねぇんだよ」


 そう言いながらワイヤークローを回収した芹沢はギロっと右を向いた。

 ラーミナバスターブレイドを構え直した芹沢機はスラスターを吹かすとイータの人型機動兵器に斬り掛かり、1機撃墜した。


(今日は稼ぎ時だな。いつもグループBに持ってかれるから、な)


 内心そう思いながらもイータへの警戒は怠らない芹沢。ラーミナバスターブレイドを振り回し、次々とイータ人型機動兵器を撃墜する芹沢は那須から入った一本の通信に耳を傾けた。


『北西より敵隊長機接近。機数2』

「俺が行く」


 そう言うと芹沢はペダルをベタ踏みにしたのちイータの隊長機と距離を詰めた。


(こういう時、バスターブレイドからレールガンを取り除いたのを後悔する時がある。が、)


 芹沢機は左腕の腕部170ミリ単発砲を撃たながらイータ隊長機と距離を詰めた。すると1機がライフルをマウントラッチに携行させたのち実体剣を構えながら芹沢機に突っ込んだ。


『芹沢機へ。隊長機は頭部ユニットがコクピットのタイプです。頭部を狙って下さい』

「了解」


 芹沢機はラーミナバスターブレイドを振り下ろすとイータ隊長機と鍔迫り合い状態になった。出力はほぼ互角、コクピットを簡単にはやらせて貰えなかった。


「・・・」


 芹沢は自機の左側に回り込んだイータ隊長機に目を向けると微かに目付きを鋭くした。

 そんなイータ隊長機に左腕を突き出した芹沢機はワイヤークローを射出したのち腕部170ミリ単発砲の格納されていた折り畳み式砲身と既存の砲身を連結させた。芹沢機の腕部170ミリ単発砲は他の機体に搭載されているモノとは違い、砲身が拡張型砲身が付いておりで状況に応じて砲身の長さを変えられた。

 ワイヤークローをライフルで殴り返すイータ隊長機。すると芹沢はその隙を突いてイータ隊長機の頭部ユニットに腕部170ミリ単発砲を4発撃ち込んだ。

 通常の腕部170ミリ単発砲よりも高威力で高射程の弾頭をコクピットに喰らったイータ隊長機は原型を維持したまま墜落した。

 ワイヤークローを回収した芹沢機は腕部170ミリ単発砲の砲身を折り畳んで収納するとワイヤークローをイータ隊長機の腹に突き刺したのち鍔迫り合いが溶けた隙を突いてラーミナバスターブレイドでコクピットを斬り裂いた。


「隊長機2機とも排除」

『まだ撤退する様子ナシ。まだ隊長機が居る可能性があります』

「顔見せたら斬り裂くまでだ」


 那須のオペレートにそう答えた芹沢は機体を上昇させると頭上に居るイータ人型機動兵器に斬り掛かった。

 一方その頃、ラーミナ太刀で次々とイータ人型機動兵器を撃墜していた中井は微かに口角を挙げた。


(護るって事は、あれが隊長機か)


 隊長機らしき機体を発見した中井は腕部170ミリ単発砲を撃ちながらイータ人型機動兵器の弾幕を避けるとその機体に迫った。


『中井機へ。ビンゴです。それが隊長機です』

「了解だ」


(コイツを殺れば、多分退くだろう)


 そう思った中井はラーミナ太刀を構えるとイータ隊長機に突っ込んだ。

 イータ隊長機が放ったミサイルを18ミリ頭部バルカンによる自動射撃で撃ち落とした中井機はラーミナビームブレイドを二刀流で構える隊長機に斬り掛かった。しかしイータ隊長機はそれをヒラリと交わすと中井機から距離を離した。すると中井機と隊長機の間に割って入る様にイータ人型機動兵器が中井機の前に立ちはだかった。


「厄介だな」


 中井がそう呟いた瞬間、3機のイータ人型機動兵器が撃墜された。


「ッ?」

『待たせたな。“戦友”』

「加瀬か?」

『雑魚は任せろ。隊長機を潰せ』

「有り難い」


 加瀬機の大型ツインレールガンから放たれる弾頭がイータ人型機動兵器のコクピットを貫く中、中井機はイータ隊長機に斬り掛かった。ラーミナ太刀を左から右へ振ったのち下から上に斬り上げると再び横へ振り、2機は鍔迫り合い状態になった。


「・・・」


 ラーミナ太刀を横にスライドさせ、右側のラーミナビームブレイドから一瞬刃を離すと逆方向にラーミナ太刀をスライドさせ、振り下ろされたラーミナビームブレイドをラーミナ太刀の刃先で突き飛ばすと左側のラーミナビームブレイドを刃先で滑らせながら回避すると頭部ユニットを斬り飛ばした。そしてラーミナビームブレイドが外側に向いている隙を突いてコクピットを貫くと中井機はイータ隊長機を蹴り飛ばした。

 隊長機を全て失った上に主力戦力を失ったイータ残党は撤退を開始した。


「....」


 一歩間違えれば自分が斬られて居たかもしれない様な一か八かな賭けをも平気でやってのける中井。そんな中井の中には機体を操ってるという感覚はなく機体がやりたい事をやってもらうという感覚に近いモノだった。





「犠牲は大きいが、前線拠点を潰したのはデカい。これでイータの戦線は後退する上に、前線を迂回して補給線を叩くって真似が出来なくなる筈だ」


 作業台に両手を付きながらそう言ったペーターだったがペーターの中では“手向けでこれだけ被害を出してどうする”と言った負の感情があった。自分含め10機で出撃して、帰って来たのはその半分。ペーターは内心悔しかった。


「補給線の安全は、確保された。と言うわけですね」

「ああ。君達の仕事も終わりだ」


 今野にそう言ったペーターは静かに腕を組んだ。

 すると今野はタブレット端末を作業台に置くと僅かに表情を鋭くしながら両手を付いた。


「私達は今回、貴方のバックアップの為に派遣された。・・・貴方は“手向け”・“弔い”に支配されるがあまり、私の仲間を危険に晒した。その意味が分かってますか?」

「結果を出さねば犠牲を出した意味がない。それだけの事だ」

「ッ」

「辞めろ中尉」


 すぐさま高木は今野を静止した。だが高木もタダでは下がらなかった。


「確かにグループBのオペレーターとチームリーダーは未熟だ。それでもって貴方の意見に賛同した。だが、あそこ一帯のイータを片付けただけでも、それなりの戦果は稼げたのでは?」

「確かにな。だが、状況的に、退くに退けなかった。あそこまで進軍したら、前線拠点は叩くべきだろ」

「・・・ハァ」


 溜息を吐いた高木は数回軽く頷くと僅かに表情を緩めた。


「まっ、確かに敵の戦線は部分的に下がった。けどだからと言って補給線が安全かどうかは別の話だ。・・・少し現実を見ろ。イータはそんなに甘い相手じゃない」


 そう言うと高木は今野の肩を叩いたのち作戦指令室から出て行った。今野はタブレット端末を脇に抱えたのちペーターに敬礼すると高木の後を追う様に作戦指令室から出て行った。


「・・・」


(ゲオルク....お前を失ったのは痛い。その痛みを、ヤケクソで隠そうとしたのかもな。・・・立場の割に私もまだ青臭いモノだ。・・・前線の感覚を、忘れて居たのかもな)


 ペーターは静かにそう思うとゆっくりと椅子に腰掛けた。

 一方で、RAINBOW.Fのパイロットが乗り込む機体は急ピッチに整備が進んでいた。


「流石に芹沢さん1機じゃあ、提出するデータが足りませんね」

「なんのデータだ?」

「あっ、芹沢さん」

「さんは辞めてくれよ。俺とお前の仲だろ」

「すみません。癖で」


 芹沢機のデータを閲覧しながら整備状況を確認して居た宮口は後ろから話しかけて来た芹沢にそう答えた。


「砲身折り畳み式腕部砲の運用データが、足りてないんですよね」

「たっく、俺の機体につけるんじゃなくて彼奴の機体に付けろよな」


 そう言いながら芹沢はヴェヒターの方を向いた。


「一応松田さんに頼んでみます。ただ、腕部砲の使用頻度は芹沢さんの方が多いと思いますが....」

「いや、彼奴も意外と使ってるらしい。さっきまで腕部砲の給弾してた」


 宮口は頷いて反応すると芹沢機の方を向いた。

 芹沢は表情を微かに鋭くするとヴェヒターを見つめた。そのヴェヒターは松田の手によって順調に整備を進めて居た。


「やはりライフルだけじゃ対処しきれませんか?」

「そうですね。平教官から、“スナイパーでビームブレイドを使うのは最終手段”と教わりましたが....」

「帰国したらブースター周りをもう少し弄りましょう」

「丁度お願いしたいチューンもあったので、有り難いです。・・・整備、頼みます」


 そう言うと渕上は松田の元から立ち去った。すると渕上は倉又から声を掛けられた。


「倉又少尉。どうしました?」

「大変だったみたいですね。引き返してる最中に敵の強襲を受けたと聞きました」

「大した事ありませんよ。倉又少尉達こそ、大変だったみたいですね」

「今野隊長と芹沢副隊長が奮戦してたので、私達は残り物を撃ち落としたまでですよ」


 渕上は頷いて反応すると輸送機の方へ歩き始めた。


「この後どうなるんでしょうか?」

「暫くは補給線警備と前線の偵察です。ペーター司令の言う通りの状況なら、暇な任務になるでしょう」


 そう言うと渕上は溜息を吐くとヘルメット越しに頭を抱えた。


「どうか、しました?」

「自分の青臭さを改めて実感しました。倉又少尉や加瀬少尉を、危険な目に....」

「あれは仕方ないですよ。ポイントがポイントでしたし、あの状態のペーター中佐を止める方が逆に無謀ですよ」

「そうなのかもしれませんが....ハァ〜」

「シャキッとして下さい。何事も経験ですよ」

「・・・ゲオルクさんも、同じ事言ってましたね」

「私が付いてます。渕上さん、渕上さんのやりたい様にやって下さい。私は、渕上さんの決断に賛同しますよ」

「倉又少尉。・・・ありがとう、ございます。少し、気が楽になりました」

「それならよかったです」


 倉又は渕上に優しく微笑んだ。





【5月5日 火曜日】


 本国から帰還要請により、補給線の警備を引き上げ、帰国したRAINBOW.F。パイロット達は格納庫内で整備士と機体チューンについて話して居た。


「私の機体には無理ね。可変機で機動力が落ちるのは致命的だもの」

「そうですよね。う〜ん....今野隊長はそもそも使わないしな〜」

「支援機に付けるのは無理でしょう。付けるなら」


 そう言った風間は中井の方を向いた。

 折り畳み式砲身搭載の腕部砲のデータ採取の為、誰の機体にそれを取り付けるか、と言う話をして居たが中井は取り回しし辛くなる事を理由に断った。


「う〜ん。なら....」


 朝倉は口元に手を添えた。

 その頃、渕上と松田はヴェヒターについて話して居た。


「成る程。なら丁度よかったです」

「搭載、出来ますかね?」

「問題ありませんよ。腕部140ミリ連射砲・腕部170ミリ単発砲、折り畳み砲身式にアップグレードしましょう」


 渕上のヴェヒターにも伸縮式腕部砲の搭載が決定した。松田は他にもチューニングする箇所が無いか渕上に尋ねた。


「スラスターの出力を上げると同時に手動で調整出来る様にする事って出来ませんか?。今のスラスター出力、戦闘時には申し分無いんですが、移動時に遅く感じるんです」

「成る程。それも俺から提案しようと思ってたチューニングの1つです。ヴェヒターのスラスターは旋回性能に特化させてますからね。いざって時の出力不足が目立つんですよね」


 渕上はヴェヒターの方を向くと手摺りを両手で握り、ヴェヒターを見つめた。


「昔は、こんな事考えませんでしたよ。テクや腕で性能の差をカバーしてやろうって、やってた日々が懐かしい」

「ガルディアンは元々チューン済みで何処も弄れない機体でしたからね。折角チューニング出来る機体に乗り換えたんですから、ドンドン弄らないと意味ないですよ」

「そう言うものですかね?」


 松田は頷いて返したのち渕上の隣に立つと同じ様に手摺りに寄り掛かった。


「と、言うか、弄らせて下さい。その為に居るんですから」

「了解です」


 渕上は改めて松田にチューニングを頼むとその場を後にした。

 一方その頃、高木は会議室にて大岩から次の作戦の説明を受けて居た。


「第四と合同で、ですか?」

「そうだ。フランス戦線の大規模作戦に参加して貰う」

「今度はフランスか」


 そう呟いた高木は隣に居る木曾の方を向いた。


「どんな作戦なんですか?」

「うむ。・・・詳しくは前線に居る司令官から話されると思うが、大規模反抗作戦の前準備、だそうだ」


 木曾の問い掛けにそう答えた大岩。すると出水が険しい表情を浮かべながら大岩に尋ねた。


「随分と大雑把ですね。詳細が分からないと、機体を仕上げる事が出来ませんよ」

「“前線の偵察”だが、ただの偵察ではない。未確認情報だが、敵の新兵器が複数確認された。その新兵器解明及び破壊が、主な任務となるだろう」

「成る程。だから合同で?」

「そうだ」


 高木は険しい表情を浮かべながら背凭れに寄り掛かるとペーターの行動をフラッシュバックさせたのちあんな風にはならない事を祈った。


「大規模且つ厳しい戦いになる。万全の状態で挑んでくれ」

「「「ハッ!」」」





 渕上らが帰国した頃、日本の最前線“対馬”では最新鋭の試作機の運用テストが行われていた。


「“フォースリベイク”。本当に凄い機体ね」


 対馬防衛隊に転属になった“対馬の海神刀”こと加隈紗凪は整備が終わった試作機“フォースリベイク”を見ながらそう言った。


「1人コクピット。今だに慣れませんね。3人乗りなのに、」


 加隈の隣に居た木藤沙織は自分が搭乗する頭部ユニットを見つめながらそう言った。

 胴体部に2人、頭部に1人の計3人乗りとなるこの機体は3人で同じ異名を持つ“対馬の海神刀”にはピッタリな機体だった。


「頭部ユニットが狙い撃ちされそうでヒヤヒヤしてるわ。操縦担当としては1番怖いモノ」


 もう1人の対馬の海神刀である早見美佳は心配そうな声でそう言った。すると加隈は自信ありげな笑みを浮かべた。


「大丈夫よ。だってこの機体作ったの、渕上少尉のお母さんだもの」

「リベラシオン用ラーミナドライブ試験運用機....しかも二脚と四脚に変形するときた....」

「腕はサブアーム含めて4本。4挺のラーミナビームライフルを同時に操る日が来るとは思いませんでしたよ」


 木藤は新しい感覚と環境を前に今だに慣れては居なかった。

 渕上の母親であり技術設計主任の渕上満が新たに作った2機の試作機。そのうちの1機を授かる事の重さに、3人はまだ慣れていなかった。


(当然だけど、まだまだ青臭いわね)


 その慣れてない部分を“青臭い”と感じる加隈。

 そんな彼女らを現実に引き戻す様にアラートが鳴り響いた。


「出撃!行くわよ!」

「「はい!」」


 加隈を先頭にフォースリベイクへ走る3人。その表情は迷いはあれど、鋭く立派なモノだった。

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