第九話「2機の試作機」
〜対馬〜
4挺のラーミナビームライフルを同時射撃するフォースリベイク。その射撃はただ撃つだけではなく、ちゃんと当てるものだった。
フォースリベイクの射撃を前に次々と撃墜されるイータの人型機動兵器。だがイータもただやられる訳ではない。1機のイータ人型機動兵器がフォースリベイクの側面に回り込んだ。
(甘い)
そう思った木藤は操縦桿を動かして左サブアームを外側に向けると回り込んだイータ人型機動兵器を撃墜した。
4挺もライフルがあると回り込む事も難しく上から仕掛けようが下から仕掛けようが変幻自在に動くサブアームが構えるラーミナビームライフルを前に次々とイータ人型機動兵器は撃墜されていった。
『敵の戦線が少しずつ下がってる。四脚モードに切り替えて小島に着陸。固定砲台になるわよ』
加隈の指示通り操縦する早見。木藤もまた、高度が下がる中、只管イータ人型機動兵器を撃ち落としていった。
四脚モードで着陸したフォースリベイクは砲身をイータ艦隊に向けた。
『木藤。“アレ”を使うわよ』
「りょーかい!」
木藤はパネル操作するとラーミナレールキャノンを展開させたのち砲身を合体させて延長させるとイータ艦隊に砲口を向けた。
「発射!」
ラーミナレールキャノンから射出された弾頭は風を切り裂きながらイータ艦艇に直撃した。
『お見事』
『アレは2隻とも沈むわね』
「だいぶわかってきました」
木藤はそう返すとラーミナレールキャノンを格納させたのち再び4挺のラーミナビームライフルを操りながらイータ人型機動兵器を次々と撃ち落としていった。
(漸くわかってきた。この機体)
そう思う木藤は銃型の操縦桿を操作しながらひたすらトリガーを引いた。
乗り換えた直後は1人と言う部分に孤独を感じていたがこの機体を“操縦する者”・“調整・補助・指揮する者”がすぐそばに居る事を実感する木藤は最近では孤独を感じなくなっていった。
ヴェヒターには搭載出来なかった最新技術をふんだんに搭載した機体、“フォースリベイク”。
ヴェヒターより小型且つ高回転なラーミナドライブを搭載しているこの機体は3人で1つの彼女達だからこそ操れる機体であった。
※
対馬防衛戦が有利に進んでる頃、中部方面隊司令部方面隊技術開発部では....
「漸く機体をチューニングし始めわね」
「あの性格を考えるとかなり抵抗はあったと思いますが....」
渕上の母親で技術設計主任の満は幼馴染で部下兼整備士で松田晴翔の叔父である松田遼太郎とヴェヒターのデータを閲覧しながら話していた。
「あの機体はチューンして自分色に染め上げて初めて完成になる。本来ならもっと早い段階からチューンするべきなのよ」
そう言った満はホログラムデータをスライドさせると別データを表示した。
「ラーミナドライブのデータが足りないわね」
「2機しか居ないんだから、得られるデータは限られるだろ」
満は唸りながら口元に手を添えると険しい表情で考え込んだ。
「そもそもラーミナドライブって、どのぐらい回るんだ?」
「ヴェヒターで7200回転、フォースリベイクで8900回転まで回るわ」
そう言った満は“あっ”とした表情を浮かべるとデータ端末を起動させたのちとある画面を表示させたのち松田遼太郎にそれを見せた。
「これは?」
「ヴェヒターの改装案。ラーミナドライブのデータがもう少し集まったら、改装と同時に新たな試作システムを盛り込むつもり」
「・・・わーお....これは、凄いな....」
(こんな改装を施した機体が渕上の手に....ただでさえチート機体とチートパイロットなのに....こんな改装加えたらチートどこの問題じゃないぞ)
そう思いながら改修案に目を通した松田遼太郎は端末を満に返した。満はデータ端末の電源を切ると椅子の背凭れに寄り掛かった。
「遠征隊は過酷よ。それをあの子が何処まで向き合えるか、ね....」
「彼奴なら大丈夫だろ。アンタと昭弘の息子なんだから」
「それもそうね」
笑みを浮かべて軽く笑った満は椅子から立ち上がると部屋から出ていった。
「・・・」
(そう言うしかないんだよ。・・・アンタの息子だから大丈夫って言うしか、ないんだよ....)
そう思った松田遼太郎は満の後を追う様に出て行った。
※
珈琲豆の追加分の配達を終えた昭弘は車にロックを掛けたのち車庫の壁に寄り掛かると取り出した煙草を口に咥え、ゆっくりと火を付けた。
(大したもんだ。遠征先でアレだけの戦果を出せるのは。流石に卒業前に壁を越えただけの事はある)
珍しく渕上を褒める昭弘。だがその表情は何処か曇っていた。
(あの機体、正しくチューンすればかなりのモンになる。かなり強い相手ともやり合える筈だ。・・・だが限界は必ず来る)
咥えていた煙草を指で挟んで口から離し、煙を吐いた昭弘は再び煙草を口に咥えるとボォーっと空を見上げた。
(俺の子の伸び代なら、ヴェヒターですら限界に感じる時が必ず来る。その時、その限界とどう向き合うかが大切だ。まっ、自分なりに考えてやりたい様にやってみ)
そう思いながら天井越しに空を見つめる昭弘は静かに視線を降ろすと再び煙草を指で挟んで口から離し、煙を吐いた。
一方でカフェの中はピークを過ぎ、空き始めていた。
「3番お願いします」
「はい」
バイトの子にドリップしたコーヒーを運ばせ、それを見送った総一郎は長めに息を吐きながら壁に寄り掛かった。
(和公や秋山、石堂達が居ないと此処まで違うんだな。彼奴は、元気にやってるかな?)
渕上含めた嘗ての常連達が店を離れ、何処か寂しさを覚える総一郎。だが新たな常連客も居た。美濃関訓練学院に、今年入学した生徒達だ。学校が終わればこのカフェに来る。・・・様々な悩みを抱えて。しかし常連客達から“頼れる兄貴”的な目で見られている総一郎にとって、それは苦ではなかった。
嘗ては自分もマシンと生を共にした身。与えられる助言は出来る身であった。
(さて、今日はどんなお悩みを持って来るかな?)
※
【5月6日 水曜日】
「えっ?じゃあ暫く休みなの?」
「うん。そうみたい」
前回とは違い煉瓦街ストリート近くのファミレスで渕上と会話を楽しむ姫浦。暫く渕上が休みである事を知った姫浦は何処か嬉しそうだった。
「それじゃあさ、何処か行かない?」
「え?、でもそれだと姫浦さん、練習とか平気なの?」
「明日は私のチーム午前中しかサーキット場使えないから。午後はフリーなんだ」
初めて会った時よりも明る目に話す姫浦に少し驚き続ける渕上は頷きながらコーヒーカップを手に取り一口飲むとカップを置いた。
「じゃあ、この辺よく分からないんで、案内してくれると嬉しいです」
「まっかせて〜!。じゃあ定番ルートね。明日の午後1時に煉瓦街ストリートの入口で待ち合わせね」
「車、ですか?」
「歩き歩き」
「わかりました」
「も〜、硬いな〜」
「へ?」
渕上は一瞬固まった。
渕上は自分が堅物である事は周りから言われて気が付いていた。渕上の中ではそれを治しているつもりではあったが、まだ治ってない事を指摘されるとどうにもならない気持ちで一杯だった。
「・・・」
「?、どうかした?」
「ん?、いえ....自分でも、自分が堅物だと思ってはいます。治そうとはしてるんですが....」
「そう!そこよ!」
「へ?」
「治す治さないじゃなくて、素の貴方でいいのよ」
「....難しいな」
渕上は今度はグラスを持つと中に入ってる炭酸飲料を数口飲んだ。ゆっくりとグラスを置くと姫浦はクスッと笑った。
「?」
「いや〜、聞いてた通りの人だな〜って」
「ん、....ん〜、」
「でもチャライよりは全然良いと思うわ。私はね」
「・・・」
言葉を失う渕上は自分に如何にコミュニケーション能力が無いかを思い知った。
(どうも歳上と話すとな〜、う〜ん....)
「そうだ。明日何処回るんです?」
「それは明日のお楽しみ。と言っても、定番ルートだと結構限られるのよね」
「明日を楽しみにしておきます」
「じゃあ改めて、明日1時に、ね」
「はい」
※
【5月7日 木曜日】
12時50分。煉瓦街ストリート前のガードレールに寄り掛かる渕上はさり気無く周りを見渡した。
(人通り結構あるな〜。これが東京か)
「あれ?渕上さん」
「?、あっ、京塚さん」
渕上は自分に話しかけて来た京塚の方を向くとガードレールから背を離し、キチンと立った。
「どうしたの?待ち合わせ?」
「はい」
「ふ〜ん」
京塚は意味ありげな表情を浮かべた。
「折角の休暇、お互い楽しみましょ」
「はい。京塚さんも楽しんで下さい」
「ありがとう。またね」
京塚は渕上の元から立ち去った。渕上は京塚の表情に違和感の様なものを覚えながらもあまり気にしない事にした。
(あれ、多分女性と待ち合わせてるわね。絶対雨宮じゃない。もしかして、三角関係?。フフッ)
京塚はそう思いながらファミレスの中に入ると中を見渡したのち先に来ていた雨宮を見つけると声を掛けたのち前に座った。
一方で渕上は軽く首を捻ったのち声のする方を振り向いた。
「姫浦さん」
「ごめん、待った?」
「自分も今来たところです」
「そう、ならよかった。ちょっと練習が長引いちゃって、慌てて来たの」
「そうだったんですか。大丈夫ですか?」
「全然。それより昼、まだよね?」
「はい」
「じゃあ着いて来て」
2人は煉瓦街ストリートに入ると初めて会った喫茶店に入った。
ボックスソファ席に案内された2人。渕上は内心首を傾げて居た。
「此処のナポリタンとオムライス、絶品なのよ」
「成る程。じゃあアイスコーヒーとナポリタンにしようかな」
「決まりね。すみません」
姫浦は店員を呼ぶと注文を済ませた。渕上も姫浦に合わせて、アイスコーヒーを食後に頼むと同じ様に注文を済ませた。
「オムライス、好きなんですか?」
「ええ。ただ、自分で何度作っても、この店の味にならなくてね」
「料理、するんですね」
「そりゃ、女の子だもん」
(性別関係あるか?、それ?)
内心首を傾げる渕上。すると姫浦は微かに表情を柔らかくした。それを見た渕上は思わず、
「そういう柔らかい表情の方が似合ってますよ」
「え?」
「さっきまで、何処か焦った様な表情だったので」
「あ、あ〜....」
(な、何言ってんだ、俺....)
思った事をすぐに言葉にしてしまった渕上は内心“しまった”・“やっちまった”と思った。
「学生時代から、1人ぼっちだったの」
「え?」
「今はチームメイトと飲み会やったりするけど、それまではこうして誰かと会うって事、あまりなかったから」
「・・・」
「だから、内心今でも緊張が溶けてないわ。私から誘ったのに情けないけど....」
「・・・完璧な人なんて居ませんよ」
「え?」
そう言った渕上はグラスに入った水を数口飲むと静かにグラスを置いた。
「俺だって、今だに緊張します。歳上の女性ってだけで緊張します。前線ではそんな事ないのに、今は緊張してます」
「渕上さん....」
「俺は、自分で言うのもあれですが、かなり不器用で、苦手な事は極端に苦手です。昨日、姫浦さんと話してて、“ああ〜俺は意外と人付き合い苦手なんだな”って思いました」
「・・・」
渕上の話を聞いた姫浦はクスッと笑ったのち表情を柔らかくすると笑顔になった。
「そう。貴方も緊張してたんだ」
「はい」
「友達付き合いそれなりにありそうなのに、緊張するんだ」
「は....はい」
「でも、よかった。・・・私達、やっぱり似てるわね」
「そうですね。まぁ、姫浦さん程素敵な人ではないと思いますが」
「褒めても何も出ないわよ。それに、貴方も充分素敵よ」
「あ、ありがとう、ございます」
※
渕上と姫浦がカフェで話してる頃、京塚は雨宮とランチして居た。
「それで、」
「?」
「私に相談って」
ランチを食べ進める京塚は雨宮にそう尋ねた。雨宮は一瞬固まるとフォークとナイフを静かに置いた。
「こういうの相談出来そうなの、京塚さんしか思い浮かばなくて....」
「?」
表情にハテナを浮かべた京塚は静かにスプーンを置いた。
「・・・話して、みて....」
「実は、その....」
「・・・」
「渕上さんの事なんです」
「?、何かトラブルでもあった?」
「いえ、....ただ、」
「....」
妙に歯切れの悪い雨宮を前に、京塚は嫌な予感を覚えた。ドリンクグラスに入ったお茶を静かに飲むと静かにドリンクグラスを置いた。
「渕上さん、って....私の事どう思ってるのかな、って....」
(ズゴ〜ッ)
京塚は嫌な予感が外れると同時に内心コケた。
「それって、どういう?」
「そのままです。・・・実は数日前から、渕上さんが他の女性と話してるの見ると、胸元がザワザワするんです。・・・これってなんだろうって....」
「・・・」
言葉を失う京塚。静かにバレない様に溜息を吐いた京塚はスプーンを手に取るとランチを再び食べ始めた。
「あ、あの、」
「そういう話は食べ終わってからにしましょう」
「は、はい....」
ナイフとフォークを手に取った雨宮は早いながらも丁寧にランチを食べた。
互いに食べ終わり、食後の飲み物をドリンクバーから取って来た2人は再び顔を合わせた。
「それで?」
「さっきも言った通り、渕上さんが他の女性と話してるのを見ると、胸元がザワザワするっていうか、モヤモヤするっていうか....そんな感じなんです」
(確かに2人って無線含めてそれなりに話してるけど、そんな仲になる程だっけ....?)
自分が見て来た範囲で渕上と雨宮の関係を思い出す京塚。だが京塚の思い当たる範囲では雨宮がそう思う事に心当たりが無かった。
「あれ?渕上さんとはこの部隊が初めて」
「初めてです」
「・・・」
言葉を詰まらせる京塚。すると京塚はティーカップの中身を一口飲んだのちフゥーッと長めに息を吐くと数秒悩みながらティーカップを置いた。
「まぁ、私の方からも渕上さんに振ってみるよ」
「え?」
「1人で抱え込んでたって仕方ないでしょ?私も出来る限りの援護はするよ」
「援護って....?」
「まっ、芽生えるには早過ぎるってヤツだと思うわ」
「う、うん、う〜ん?」
京塚が言ってる意味をイマイチ理解出来ない雨宮。
2人のランチはこうして終わった。
※
「今日はありがとうございました」
「此方こそ、ありがとう」
日も沈みかけた頃、煉瓦街ストリートの前に戻って来た渕上と姫浦。
喫茶店を出た後、ショッピングモールへ行った2人は何処か満足そうな表情だった。
「今度は私のレース、観に来てね」
「是非、行かせて貰います」
「あの、それから」
「?」
渕上は何処かモジモジする姫浦を黙って見て居た。数秒後、姫浦は意を決した様な表情を浮かべた。
「私の事は、“衣奈”って呼んでね」
「し、下の名前でですか⁉︎」
渕上は驚きを隠せなかった。だが姫浦の表情は迷いなく真っ直ぐなものだった。
それを見て居た渕上は何処か妥協した。
「わかりました。俺の事も“和公”って呼んで貰って構いませんよ」
「本当!、やった!」
微かに笑みを浮かべる渕上は喜ぶ姫浦を見ながら“今後どんな関係になるのか?”という考えで頭が一杯だった。
「じゃあね和公。また予定空いたら連絡してね」
「はい。では、また今度」
満面の笑みを浮かべながら姫浦はその場を後にした。渕上はそれを見送ると寮であるアパートへ歩いた。
「ありがとう総一郎叔父さん。良い人を紹介してくれて」
渕上は静かにそう呟いた。




