第2話 謎の通路で近づいてきたのは?
「ここは……いったいどこなのじゃ?」
目を開けたルリが見たものは、見たこともない通路のような場所だった。床は石畳ではなくコンクリートのようなもので整えられ、岩壁もきれいに整形されている。しかし、照明と呼べるようなものはなく、等間隔で壁の一部が僅かに発光している光が見える。
「本当に迷宮内なのじゃろうか? 明らかに人の手によって整備されたような空間じゃぞ……」
改めて周りを見渡したルリが困惑した表情を浮かべていると、隣にいたルナが心配そうな声を上げる。
「キュ、キュキュ?」
「ああ……大丈夫じゃよ……ルナ、ここがどこか心当たりはあるかのう?」
「キュー、キュキュ―キュ」
言葉を聞いたルナが顔を横に振り、申し訳なさそうに項垂れる。その姿を見て、片膝をついたルリが優しく頭を撫でながら声をかける。
「そんなに落ち込むのではない。ルナもわらわを守ろうと必死じゃったのじゃろ?」
「キュキュ―キュ……」
「うんうん、わかっておるのじゃ。それよりもここから脱出することのほうが先決じゃな……ものすごく嫌な雰囲気が漂っておる」
顔を上げたルリが険しい顔で呟くと、改めて周りを見渡す。そして、立ち上がると前を向いて歩き始める。
「キュー?」
「どっちに進むのが正解かはわからんが……とりあえず動かないことにはなんともならんからのう」
言葉を聞いたルナの表情が一気に明るくなり、嬉しそうにルリの周りを飛び跳ねる。
「ふふふ、それでよいのじゃ。わらわたちがこの謎を解き明かし、この場所の秘密を暴くのじゃ!」
「キュー!」
ルリが声高々に宣言をすると、ルナも嬉しそうな鳴き声を上げる。そして先の見えない暗闇に向けて歩き始めると、少し進んだところで左側に光の漏れる空間が存在することに気がつく。
「む? なにか怪しい場所があるのじゃ……ルナ、これは調査せねばならぬ!」
意気揚々とルリが声を上げた瞬間、ルナの耳が僅かに動いてなにかを感じ取る。そしてすぐに焦ったような鳴き声を出しながら、ルリの足を引っ張って訴えかける。
「キュ、キュー!」
「どうしたのじゃ? そんなに焦るようなことがあったのじゃろうか……」
「キュー! キュキュ―キュ!」
彼女の言葉など無視するかのように力いっぱい引っ張り、訴えかけるルナ。その姿から伝わる気迫にただならぬものを感じ、ルリは真剣な顔で話しかける。
「ふむ……なにか良くないことが起こるのかもしれぬ。一旦、あの光の漏れている場所に身を隠すのじゃ!」
声を聞いたルナは無言で頷き、そのまま左側にあるスペースに飛び込むとルリも後を追う。
「な、なんで自動販売機が並んでおるのじゃ!」
謎のスペースから漏れていた光の正体は、あるはずのない自動販売機だった。しかも新発売した商品から人気商品まで、迷宮の外では売り切れている物も普通に売っていた。
「ますます意味がわからんのじゃ……いったい誰が何のために?」
ありえない光景に顔を傾げていた時、ルリが不穏な気配を感じ取る。そしてルナを抱きかかえると、自動販売機と壁の僅かなスペースに身を潜ませる。
「ルナ、ものすごく嫌な気配がするのじゃ……少しの間だけ我慢してくれなのじゃ」
「キュー」
短く鳴き声を上げてルナが返事をした直後、複数の足音がこちらに向かってくる。そして、聞き覚えのある金切り声が通路から響いてくる。
「はーまったく煙で何も見えなかったじゃない! もうちょっと視界を確保するとか考慮できなかったの?」
「申し訳ありません、マイマスター。想定以上の爆発が起き、対処が遅れました」
「まあいいわ。邪魔なゴミは処分できたし、瑛士くんたちの動向を知ることができたしね……それで、この先に設置した転移装置はちゃんと作動するんでしょうね?」
「間違いありません。動作テストは完了しております。しかし、階層指定装置の不具合だけは解消できておりません」
「ふん、そんなのどうだっていいのよ。私の頭脳をもってすればなんとでもできるんだから。さあ、さっさと準備に取り掛かるわよ!」
「イエス、マイマスター」
徐々に声が遠のいて行くと、ルリが大きく息を吐いて呟く。
「……ま、まさかニアミスするとは驚いたのじゃ……もしルナが教えてくれなかったら……」
胸に抱いたルナを見つめると、背筋に冷たいものが流れる。そして、先程の会話を思い出し、眉間にしわを寄せて考え込む。
「ふむ……やはり罠が仕掛けられておったのじゃ。しかし、上手く利用できればチャンスではないじゃろうか? 間違いなく低階層に飛ばすような設定にはなっておらんじゃろうし、高階層に飛べればわらわたちにチャンスが舞い込んでくるのじゃ……」
「キュー?」
全身を震わせて呟くルリを心配そうに見上げるルナ。視線に気がついた彼女はすぐに笑顔になり、優しく語りかける。
「大丈夫じゃよ。少し考え事をしておっただけなのじゃ……まだ近くにヤツラ……飯島たちがおるかもしれぬ。慎重に行動をせねばならぬ……」
「キュ、キュー!」
目を合わせた二人が力強く頷いて、立ち上がろうとした時だった。再び彼女たちのもとに近づく影が迫っていた。飯島たちが戻ってきたのか、それとも別の誰かが近づいているのか……
最後に――【神崎からのお願い】
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