第1話 迷い込んだ別ルート
ルリが目的の物を回収すると、隣で心配そうに見つめていたルナが鳴き声を上げる。
「キューキューキュ」
「ああ、大丈夫じゃよ。これはまだわらわが扱うには早いからのう……」
ルナの問いかけに対し、乾いた笑いを浮かべる。そのまま体の前に手を差すと、空中に一冊の本が浮かび上がる。
「キュー! キュキュキュ!」
いきなり出現した本にルナが戸惑っていると、ルリが優しい声で語りかける。
「そんなに驚くようなことでもないのじゃ。これはわらわの本体……のようなものじゃからのう」
「キュー? キュキュ?」
言っていることが理解できず顔を傾げるルナに対し、ルリは笑い声を上げて答える。
「ははは! そんなに難しく考えなくても良いのじゃ。まあ、そのうちゆっくり話してやるから安心するのじゃ」
「きゅーキュキュ」
嬉しそうに鳴き声を上げるルナを見て安心した表情を浮かべると、ルリはゆっくり目を閉じて先程の欠片を重ねていく。すると輝きを放ちながら本に溶け込むように消え、欠片は跡形もなく吸収されてしまった。その様子を見たルナが目を丸くして固まっていると、彼女が小さく息を吐いて話しかける。
「ふふふ、初めて見せたからずいぶん驚いておるようじゃな」
「キュ……きゅーキュキュ?」
「一体何が起こったのか……説明してほしいと言っておるのじゃな。まあ、簡単に言えば見つからない場所に保管したということじゃ」
「キュー、キュキュキュ?」
「なんでそんなことをする必要があるんだと言っておるのじゃな? わらわが説明するまでも無いのじゃが……実はこれだけでは不十分というのもあるが、それ以上に飯島女史たちに渡したくないのじゃよ」
話の意図がまったく見えず眉間にしわを寄せるルナだが、すぐに顔を左右に振ると無言でルリを見つめる。すると視線に気がついた彼女は笑みを浮かべて声をかける。
「ふふふ、すまんな。時が来たらわかるからのう……それよりも、早くこの場所を脱出したほうが良さそうなんじゃろ?」
問いかけられて我に返ったルナが慌てて鳴き声をあげる。
「キュ、きゅーキュキュ!」
「うむ、わかっておるのじゃ。あそこで揉めている二人の仲裁もしなければいけないからのう……」
ルナの頭を優しく撫でながら顔を上げた先にいたのは、未だに顔を突き合わせて言い争っている瑛士と音羽の姿だった。
「あの二人はもう少し仲良くするということができないのじゃろうか……」
額に手を当てて大きなため息を吐くと、足元にいたルナが全身をこすりつけながら心配そうに顔を向ける。そんな姿を見たルリが優しい笑顔で声をかける。
「ありがとうなのじゃ。まああの二人にとってはいつものことじゃし、もう慣れたのじゃ。とは言え……普通に戻っても面白くないのじゃが……どうしたものかのう?」
こちらの様子にまったく気がついていない二人を眺めながらルリが呟くと、足元にいたルナが鳴き声を上げる。
「キュー? キュキュ!」
「ん? 自分もなんかムカつくから考えていることは一緒じゃと? ふふふ、わらわはずいぶん心強い相棒を持っているようじゃ」
「キュー!」
褒められたと思ったルナが胸を張って鳴き声を上げると、ルリが怪しげな笑みを浮かべて呟く。
「そうと決まればさっそく実行するのじゃ……っといいたいのじゃが、この状況ではどうすることもできんのじゃ。足場がどこにあるのかもわからんし、下手に動いて奈落の底に落ちては本末転倒じゃからのう……」
顎に手を当ててルリが考え込んでいると、胸を張ったルナが再び元気よく鳴き声を上げる。
「キュ、キュキュ―キュ」
「え? 別のルートがあるからついてきてほしいじゃと?」
「キュー!」
ルナが元気よく鳴き声を上げると、瑛士と音羽がいる位置とは反対方向に向かって歩き始める。
「ど、どこに行くのじゃ? そっちに進んでも地面はないのじゃが……」
困惑するルリを無視して歩き続けるルナを見て、半信半疑のまま跡をついて行くルリ。心配する彼女の気持ちとは裏腹に、しっかりとした床が続いて落ちる気配も無い。
「うーむ、どんな仕掛けになっておるのかまったくわからんのじゃ……しかし、このまま進んでも岩の壁にぶち当たるだけなのじゃが」
進む先に目を向けると、岩の壁が行く手を遮っていた。すると壁の前に着いたルナが大きく息を吸い込み、鳴き声を上げる。
「キュー!」
その直後、壁の向こうから何かが動くような音が聞こえる。次の瞬間、なにも変わっていないような岩に向かい、ルナが勢いよく飛び込んでいく。
「ル、ルナ! ぶつかってしま……わないじゃと? か、壁に吸い込まれたのじゃ!」
壁に勢いよくぶつかると思われた瞬間、まるで吸い込まれるようにルナの全身が消えてしまった。
「ど、どういうことなのじゃ……一体何が起こっておるのか説明できんのじゃ……」
目の前で起こった光景で唖然としていると、壁の向こうから彼女を呼ぶ声が響き渡る。
「キュー! キュキュ!」
「早く来いと言われてもじゃな……」
「きゅーキュキュキュ!」
「ええい! ルナが来いというのに主人がいかなくてどうするのじゃ!」
意を決したルリが目を瞑り、勢いをつけて壁に飛び込むと同じようにそのまま吸い込まれてしまう。この直後、目を開けた彼女は驚きの光景を目の当たりにすることになる……
最後に――【神崎からのお願い】
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