閑話㉗ー5 裏切りの末路――佐藤 遥香の場合、実行編――
瑛士たちや飯島が動き出す少し前、真っ暗な通路を何かを呟きながら歩く女性の姿があった。
「ふふふ。悪魔とか呼ばれていた人物と話したけど、たいしたことなかったじゃない。まあ、約束通りに報酬を貰えるなら、別に何だっていいけどね」
笑い声を上げながら歩いていたのは、飯島との面談を終えた遥香だった。暗闇に閉じ込められていた時のような無気力さは無くなり、内からにじみ出る野心が全身を包み込んでいる。その姿は瑛士たちと三階層で出会った時とはまるで別人のようだった。意気揚々と歩いていた彼女だったが、不意に立ち止まると顎に手を当てて俯く。
「ふむ……でも、順調すぎるのはちょっと不気味なのよね。迷宮内の調査とはいえ、危険はつきものだし……渡された機械が本物かどうかも怪しいわ」
ズボンのポケットに手を入れた遥香が取り出したのは、先ほど飯島から渡された小さな箱だった。
「こんな機械が本当に役に立つのかしら?」
頭の上に持ち上げ、透かしてみようとするが、光が全くない通路では何も見えない。
「まあ、別にいいんだけどね……でも、渡すなら最初に出しなさいよ! 独り言が全部聞かれているかと思ったわ」
大きく息を吐いた遥香は、この箱のような機械を渡された時のことを思い出す。飯島との面談を終え、気が緩んだ彼女が勝ち誇ったように声を上げた後だった。
「あ、そうそう。気をよくしているところ悪いけど、渡すものがあったのを忘れていたわ」
「は? え?」
空間内に響き渡る飯島の声に驚き、その場で飛び上がる遥香。慌てて周囲を見渡してみるが、先ほど面談に使用していたタブレットは真っ暗な画面のままだった。訳が分からず彼女が焦っていると、再び音声が響く。
「どこで見ているのか驚いているでしょ? 安心しなさい、これは録音された音声よ。どうせ私との面談を終えて、テンションが上がっているところでビックリしたでしょ?」
「ろ、録音された音声ですって! 絶対噓でしょう……どこで見張っているのよ!」
飯島の言葉が信じられず、タブレットを叩いたりしながら必死に訴えかける。しかし、そんな遥香の行動をあざ笑うかのように、淡々と話を続ける。
「はいはい、いろいろ探し回っていると思うけど全部ハズレだから。アンタがどんな行動をするかは、私のような天才から見たら全てお見通しなのよ」
「自分で天才とか言う人を初めて見たわ……」
聞こえてきた言葉に遥香がドン引きしていると、気をよくしたのか飯島の話はどんどん加速する。
「まあ、私のような容姿端麗で世界がうらやむ天才はそうそういないからね。嫉妬してくれるのはありがたいけど、勝てない勝負を挑んじゃダメよ」
「……なんなの? コイツ……」
呆れかえった遥香が呆然と立ち尽くしていると、飯島が何かを思い出したように話し始める。
「あ、そうそう。アンタに渡すものがあったわ。タブレットの裏側にある箱を取りなさい!」
「タブレットの裏? 何があるのよ……」
遥香が言われたとおりにタブレットの裏をさぐると、たばこサイズの箱が置いてあった。
「見つけたようね。それはモンスター避けのお守りよ。一応、調査をお願いするんだからこれくらいは用意しないとね。ま、持っているだけで大丈夫だからよろしくね」
一方的に言い終えると突然音声が途切れ、再び沈黙が訪れる。遥香は箱をまじまじと眺めると、返ってくることの無い人物に向かって問いかける。
「ねえ、これは電源とか……って、録音された音声だったわ。まあ、アンタの言葉を信じるしかないわよね」
遥香の声が虚しく響き渡ると、指示された箱を手に取るとポケットに突っ込んで部屋を後にする。
「……まあ、本当に使い物になるか半信半疑だったけど、今のところモンスターに遭遇しないから使えているのよね?」
真っ暗な暗闇に向かって声を上げるが、誰も答える人物はいない。小さく息を吐き、顔を左右に振ると、前を向いて歩き始める。するとわずかに光が漏れている部分が見えてくる。
「ん? なんか光が漏れている? もしかして目的のフロアに着いたのかしら?」
先の見えない暗闇に現れた一筋の光を見て、遥香のテンションは最高潮に達する。
「や、やったわ! ついにたどり着いたのね! ふふふ、さっさと終わらせて自由を手にするのよ!」
笑みを浮かべた遥香が光の漏れている方向へ向けて、一気に駆け出していく。
「ははは! 私の大勝利まであと一歩……勝利の女神は私にほほ笑んでいるわ!」
笑い声を上げたまま、光が漏れ出している空間に飛び込んでいく遥香。この時彼女はまだ知らなかった――この後、思わぬ再会が最悪の選択肢を引き当ててしまうということに……
最後に――【神崎からのお願い】
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