閑話㉗ー4 呪われた子供たち(ツイステッド・チルドレン)と八階層
飯島に連れられて薄暗い通路を歩いていると、行き止まりになったところで足を止めた。あたりを見渡しても暗闇が続く空間しかなく、意味が分からない紀元は思わず尋ねる。
「博士、こんなところで立ち止まりましたけど……いったい何を考えていらっしゃるのでしょうか?」
周囲を見渡しながら怪訝そうな顔で問いかける紀元に対し、前を向いたまま顔色一つ変えず淡々と答える。
「いいのよ、この場所で。すぐに意味が分かるから……」
飯島の返答を聞いてもまるで意味が分からず、顔を傾げている紀元。すると、背後から無機質な声が響き渡る。
「お待ちしておりました、マスター飯島。準備はすべて整っております」
「うわ! いつからそこにいたんだよ!」
紀元が叫び声を上げて振り返ると、そこにいたのは生気のない表情で一点を見つめる少年だった。彼は問いかけられたことなど気にすることなく、片膝をついて頭を下げる。
「ああ、早かったわね。紀元、代わりに答えるけど……コイツなら私たちが来る前からずーっとここにいたわよ」
「は? ずっとこの場所にいたんですか? 何もないこの空間に?」
「そうよ。ちょっと準備してもらわないといけないことがあったし、それも滞りなく終わったようでよかったわ」
頭を下げている少年を見つめ、淡々と答える飯島。しかし、彼女の言葉が全く理解できない紀元は、半ばパニックになりながら聞き返す。
「は? 準備をしてもらっていた? こんな少年一人にですか? しかもほぼ暗闇で何も見えない空間の中で?」
「ちょっとは落ち着いたらどうなの? こんな見た目をしているけど……結構優秀なのよ、この子」
笑みを浮かべた飯島が少年をほめるが、頭を下げたまま一切動かない。あまりにも不気味な様子を目の当たりにし、紀元の脳内はさらに混乱し始める。
(いやいや、なんでピクリとも動かないんだよ……目上の人間から褒められてうれしくないのか? この年齢なら笑顔を見せるとか喜びの声を上げるとか、何かしら反応してもおかしくないのに……)
目を丸くして少年を凝視する紀元に対し、飯島が少し呆れたように声をかける。
「あーなんか納得していないのはよくわかるけど……今の状態が通常運転だから。気にしたら負けよ」
「気にするなって言われましても……」
未だ煮え切らない紀元に対し、飯島が少し苛立ったように声をかける。
「いくら考えても答えは出ないわよ。それに……呪われた子供たちに何を言っても無駄よ。半分ロボットのようだと思っておいたほうがいいわ」
「は? ロボットのようなもの?」
飯島が言っている意味が分からず、豆鉄砲を食らった鳩のような顔で固まる紀元。すると、今まで微動だにせず片膝をついていた少年が顔を上げる。
「マスター飯島、若干の怒気を検出しました。原因となる対象を排除しましょうか?」
「必要ないわ。それに勝手なことはするなと命令してあったはずでしょ?」
「申し訳ございません……マスター飯島の変化は常に観測し、万が一の時に対処できるよう心がけております」
「ふん、まあそういうことにしておくわ。それよりも大きな仕事が控えているんだから、余計なことに気を散らさないでくれる?」
「イエス、マスター飯島」
表情一つ変えず、深々と頭を下げる少年の様子を見て固まる紀元。その様子に気が付いた飯島が、小さくため息を吐きながら話しかける。
「何を驚いているのよ? 呪われた子供たちのことは以前話していたでしょ?」
「そうでしたっけ……」
声をかけられた紀元が困惑した表情で口を開くと、飯島が近づいて肩を叩いて声をかける。
「細かいことは気にしないの……まあ、これから面白いものが見られるんだからね」
「面白いもの……ですか?」
いまだ頭の中が混乱している紀元が声を絞り出すと、片膝をついていた少年が立ち上がって飯島に話しかける。
「マスター飯島、対象がフロアに到着した模様です。そして、少々トラブルが発生しているものと思われます」
報告を聞いた飯島の目がわずかに細められ、小さく舌打ちをする。
「やっぱりね……紀元、あんたが危惧したとおりになったみたいよ」
「え? は? 危惧したとおりって何がですか?」
いまだにうろたえながら話す紀元を見て、大きなため息を吐く飯島。額に手を当てると、納得したような表情で話しかける。
「あーうん、現場に行ったほうが早そうね。さっさと行くわよ……瑛士くんたちに会えそうだしね」
笑みを浮かべた飯島が目の前にある壁に手をかざすと、蜘蛛の巣のように線が浮かび上がる。すると音もなく壁がずれ始め、眼下に八階層のフロアが現れる。
「は、博士……ここはいったい?」
「八階層を見下ろせる隠し部屋……とでも言いましょうか? まあ、フロアからは見えないんだけどね。あら? 何か面白そうなことが起きているわよ……」
フロアを見下ろしながら飯島が指さした先には、モンスターの隣でにらみ合う男女の姿があった。
いったい八階層で何が起こっていたのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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