閑話㉗ー3 飯島の企み……とは?
瑛士たちが八階層で賢治たちと接触していた頃、迷宮内にある通路を歩く二人の人影があった。
「……いったいどこに向かっているんですか、博士?」
薄暗い通路を歩いていた紀元が、前を行く飯島に問いかける。すると彼女は後ろを振り返ることも無く、鼻歌まじりに答える。
「え~どこに向かっているかはついてからのお楽しみじゃない~」
「いやいや、お楽しみじゃなくて……」
後ろを歩く紀元が呆れたように問いかけると、足を止めた飯島が少し苛立ったように答える。
「は? いちいち説明しなくちゃわからないの? それくらい察しなさいよ!」
「何を察するんですか! いきなりモニタールームから引きずりだされ、壁の中にある隠し通路に放り込まれたんですよ!」
「だーかーらー関係者のごく一部しか知らないから、大丈夫だって言ったでしょ!」
「そういう問題じゃないです! 灯りもない真っ暗な空間に放り込まれ、『アイス取ってくるからしばらく待っていて』って数十分も放置されたこっちの身にもなってください!」
紀元が両手を握りしめて声を荒げると、頬を膨らませて不貞腐れたような顔で声を上げる飯島。
「だってアイスを食べたくなったんだもん……いろいろ頭を使うと糖分が必要になるのは、知っているでしょ?」
「今じゃなくてもいいでしょ! だいたいアイスなんていつでも食べられるんだし……」
「は? 今なんて言ったの?」
呆れたように吐き捨てた言葉を聞き、一気に飯島の目が鋭く光る。その視線を感じ取り、すぐに焦ったような表情を浮かべて言葉を並べるが、すでに後の祭りだった。
「いえ、あの……落ち着いてからでも良かったんじゃないかと思いまして……」
「は? 落ち着いてからっていつ落ち着くのよ? あんたね、今どんな状況に置かれているか、わかっているの?」
「ど、どんな状況と申しましても……」
先ほどとは明らかに空気が変わり、なんとか取り繕おうと試みる紀元。しかし、火の付いた飯島を止めることなどもはや不可能だった。
「あんたね……いい? ここは迷宮なのよ! それに八階層で調査させているのは、欲に目がくらんだ信用なんてマイナスな人間。ソイツらをどう活用するか、後始末はどうするのか常に頭をフル回転させているのはどこの誰かしら?」
「……飯島博士です……」
「でしょ? アイツらは隙を見せれば裏切るかもしれないリスクを孕んでいるの。それに……アンタも知っての通り、八階層はちょっと特殊なフロア……さらに瑛士くんたちと接触される可能性も高い」
真剣な表情で言い切る飯島の言葉には、普段とは比べ物にならない重みが宿る。その言葉に対し、黙って頷くしかない紀元。
「その先まで考えて行動している私なのよ? ここまで頭を使っていたら、糖分が不足するのは当然でしょ。だからそれに見合った量を補給しないといけないのよ! だいたいさっき持ってきた量で足りるわけが……」
「ん? さっき持ってきたって……六個パックの箱が二つはありましたよね?」
黙って話を聞いていた紀元が疑問に思い、聞き返すと口に手を当てて気まずそうに目をそらす飯島。その一瞬を見逃さず、鋭い視線を送って問いかける。
「博士……たしかに甘いものは必要ですが、いったいどれだけ食べたのでしょうか?」
「え……まあ、いろんなフレーバーを楽しまないといけないでしょ? インフルエンサーとしてちゃんと伝える必要があるし……」
目を泳がせながら必死に声を上げる飯島に対し、何かを察した紀元がさらに切り込む。
「たしかにいろんなフレーバーを楽しみたいのは分かります……」
「で、でしょ! やっぱり必要なことなのよね」
「でも、お腹を壊すほど食べるのは違うと思いますが?」
紀元の鋭い指摘が突き刺さり、なんとかごまかそうとし始める飯島。
「ナ、ナンノコトカシラー?」
「しらばっくれても無駄ですよ。どうせ博士のことだから、アイスを食べる手が止まらなくなったんでしょ? それで途中でお腹が痛くなってトイレに駆け込んだ……いったい何度同じ失敗を繰り返したら気が済むんですか?」
「……」
「まあいつものことなんでなんとも思っていませんけどね……」
腕を組むと大きなため息を吐いて、顔を左右に振る紀元。その姿を見て目に涙を溜め、顔を真っ赤にして悔しがる飯島。
「……紀元のくせに……」
肩を震わせて悔しがる彼女の姿を見て、小さく息を吐くと優しく声をかける。
「まあ、そんな博士だからこそ協力しようと思っているんですよ。ここから先は失敗が許されない……そうですよね?」
紀元の問いかけに目を見開いて驚くと、すぐにいつもの強気な態度に戻る飯島。
「そ、そうよ! 私が失敗するなんてありえないんだから!」
「わかっていますよ。それで……あの二人はどうするつもりですか? モンスターがいるとは言え、思い通りに動かすことはできませんよね?」
「あー大丈夫。モンスターもろとも新たな実験材料になってもらうだけだから」
不敵な笑みを浮かべた飯島が不気味に笑い出すと、背中に冷たいものが走る紀元。
彼女の言う実験材料とは一体何を意味するのか?
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