閑話㉗ー2 ルナと翠の作戦会議⑫
翠の全身を包み始める黒いオーラを見て、ルナの額から一筋の汗が流れ落ちる。
(何回見てもこの感じは慣れないな……ほんとコイツは普段ボケっとしているくせに)
翠を中心に周囲を侵食するように広がるオーラを見て、あることに気がついたルナが慌てて声を張り上げる。
「おい! ちょっと待て! 今までみたいに空間ごとオーラで包んだら、お前の魔法がご主人たちにバレてしまうぞ」
「え? そうなの? それはちょっと嫌だな……」
ルナの言葉を聞いて翠が急に真顔になると、全身を覆っていたオーラも少しずつ薄くなり始める。少し困ったような顔になると、眉間にしわを寄せながら考え始める。
「うーん、ご主人様にバレるのは構わないけど……他の人に見られたくはないし」
「そこは別に良かったのかよ……」
つぶやきを聞いたルナが呆れたように言葉を発すると、翠が怒ったような声で話しかける。
「当たり前じゃないの! ご主人様たちだって普通に魔法を使っているし、結界だってアッサリ通過してくるんだよ? 今度遊んでもらう時にちょっといたずらを仕掛けたくて、使ってないだけだし」
「いやいや! いたずらで使っていいものじゃないだろ!」
「え? なんで? ルリさんだって普通に使っているじゃない!」
「それは迷宮の中での話だろうが! お前のことだから、家とか迷宮の外でも使うつもりだろ……」
大きく肩を落としながらため息を吐くと、驚いたような声が隣から飛んでくる。
「なんで? 使っちゃダメなの?」
「あったりまえだろうが! 魔法が使えることは特別なことなんだよ! 他の人間はホイホイ使えるものじゃないし、見つかったら大騒ぎになるだろ!」
「そうなの? なんか面倒くさいね」
心底がっかりしたような顔でつまらなさそうに呟く姿を見て、開いた口が塞がらないといった様子で固まるルナ。すると何かを思いついた翠が笑顔になると大きな声を上げる。
「そうだ! 上がダメなら下に広げればいいんだよね?」
「は?」
突然聞こえてきた声に驚いていると、不敵な笑みを浮かべながら何かを唱え始める翠。その直後、二匹の足元から黒いオーラが地面を這うように広がり始め、徐々に光の柱が立つ位置まで近づいていく。
「よし、上手くいった! あとは最後の仕上げをしないとね……」
「なんか猛烈に嫌な予感がしているんだが……」
笑顔を浮かべたまま目を細める翠を見て、ルナの背筋に冷たいものが走る。次の瞬間、短く鳴き声を上げると、足元の地面が消えてそこの見えない大穴が出現する。
「だー! 地面が消えて穴が! お、落ちる! 早く逃げないと!」
いきなり現れた光景に慌てふためくルナに対し、素早く後ろに回り込んで首根っこを噛む翠。ウサギの弱点でもある場所を押さえられ、必死に声を上げる。
「や、やめろ! そこを掴まれたら死ぬしか無いんだ! 頼む、食べるのだけは!」
「もールナさん、落ち着いて! 食べないし、大丈夫だから!」
暴れるルナに対し、少し苛立ったような声を上げる翠。しばらく首根っこに噛みついていると、抵抗することに疲れたのか大人しくなる。
「やっと静かになった……」
首元を噛むのをやめて地面におろし、大きなため息を吐く翠。すると、急に天を仰ぎながらルナが呟き始める。
「ああ……もう捕食されてしまう覚悟はできた。ご主人……短いウサ生は楽しかったよ」
「あのさ、食べないから。それに落ちたりもしないって、何度言ったらわかるの?」
「へ? 俺は生きているのか……」
言葉を聞いたルナが我に返ると、冷めた目で見つめる翠に気がつく。
「あ、いや、これは違うんだ! 本能的にでた言葉というか……」
「ベツニイイケドネーハナシヲマッタクキイテクレナカッタシー」
「大変申し訳ございません……」
ジト目で見つめ続けられ、恥ずかしさが込み上げて来たルナが頭を地面にこすりつけて謝る。その姿を見た翠は大きくため息を吐くと、呆れたような声を上げる。
「もう……ほんと人の話を聞かないんだから……」
「うう……」
「さて、無事に目的のものが出現したわけなんだけど……ちょっと位置が悪いんだよね」
翠が視線を動かすと、空中に浮いた本の欠片があった。だが、人間から見たら手を伸ばせばぎりぎり届く高さにあり、動物の二匹にとってはどうあがいても届きそうになかった。
「あれは俺たちでは届かないな……」
「そうだね。だから、ルナさん……ご主人たちを呼んで取ってもらってね! 疲れたから少しお昼寝したいし」
「へ? 俺が呼ぶのか? ってか、あそこまでいけと?」
言葉を聞いたルナが慌てて振り返ると翠の姿はすでになく、少し離れた草むらであくびをしていた。
「じゃ、よろしく。終わったら起こしてね」
言い終えると結界を張ったのか、姿が景色に溶け込むように消えてしまった。
「ちょ! 最後まで責任持って対処しろよ!」
ルナの絶叫が響き渡るが、翠に届くことはなかった。仕方なく光り輝く欠片を目指して歩き始めるルナだったが、一つ問題があった。
「あのさ……俺は高い所は苦手なんだよ!」
そこの見えない穴を見つめ、全身の血の気が引いていくのを感じる。それでも進まないわけにはいかない。ゆっくりと進み始めるルナ。
はたして、言いつけどおり欠片のもとにたどり着くことはできるのだろうか?
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