第10話 回収、そして決戦へ
盛り上がる二人を無視することに決めた瑛士が無言で歩き始めると、いち早く気が付いたルリが声を上げる。
「ご主人、どこに行くのじゃ?」
「……」
問いかけるルリの声を無視して、大きくあいた穴に向かって足を踏み出す瑛士。
「ちょっと! 瑛士くん、その先には地面がないのよ!」
「待つのじゃ! もう少し調べてから進んだほうが……」
「……」
慌てふためく二人の声は瑛士に届くことはなかった。そのまま底の見えない暗闇に足を踏み出した瞬間、思わず顔を伏せるルリと音羽。そして、彼女たちは次の瞬間、信じられないものを目撃する。
「お前ら、目を開けてよく見てみろ」
瑛士の声が響き、恐る恐る顔を上げると空中に浮かぶ彼の姿が目に入る。
「え……は? 瑛士くんが浮かんでいる?」
「な、何が起こったのじゃ? 浮遊魔法なんてまだ使ったことはなかったはずなのじゃ……」
混乱する二人を見て腕を組み、勝ち誇ったような顔を浮かべる瑛士。
「どうした? そんなに混乱するようなことでもないだろ? 現に俺はこうして立っているぞ」
笑みを浮かべながら話す瑛士を見て、ルリと音羽が困惑しながら次々と声を上げる。
「ど、どういうことなのじゃ……人は空中に浮かぶことなどできぬはずなのじゃ……」
「そ、そうよね……マジックで宙に浮かんだりするけど、あれはちゃんと種があるわけだし……はっ! もしかして……ルリちゃん、私たちはとんでもないものを見てしまったのかもしれないわ」
何かに気が付いた音羽が急に神妙な面持ちになると、ルリに向かって話しかける。
「ど、どうしたのじゃ。音羽お姉ちゃん?」
「驚かないでね……私たちが見ている瑛士くんはね……きっと幻影なの!」
「な、なんじゃと!」
音羽の言葉を聞いたルリが驚きの声を上げる。すると彼女は勝ち誇ったような顔になり、さらに話を続ける。
「そうに決まっているわ! 人間が空中に浮くなんてできるわけもない……あそこにいる瑛士くんは幻影もしくは霊体に決まっているわ!」
「どあほ! 俺はちゃんと生きた人間だし、足もついているわ!」
自信たっぷりに話す音羽の声を聞き、思わず声を荒げる瑛士。しかし、そんな必死の訴えも彼女の耳には届かない。
「うそよ! 私は騙されないわ……昔なら霊は足がなかったかもしれないけど、今は時代が進んだのよ? 足があっても何ら不思議でもないわ!」
「どういう進化を遂げたらその結論になるんだよ! そもそも科学的根拠もなければ、俺は死んでないって言っているだろ!」
「ふ……まだ認めないのね。この世に未練があると死んだことすら忘れてしまうというのは、本当だったとは……」
額に手を当てて小さく息を吐きながら答える音羽に対し、肩を震わせながら抗議の声をあげる瑛士。そんな二人のやり取りを見ていたルナがわざとらしく大きなため息を吐くと、鳴き声を上げる。
「キュー、キュキュキュ」
「あ? バカなことを言っていないで、さっさと目的のブツを回収してくれ……だと?」
「キューキュキュ」
大きく頷くと呆れたような目で見つめているルナ。しかし、その願いも虚しく、瑛士に届くことはなかった。
「ルナ、お前の言いたいことはよーくわかる。しかし、男には負けられない戦いというものがあるんだ!」
「キューキュキュ……」
何を言っても無駄ということを一瞬で悟ると、大きくため息を吐くルナ。そんなことなど構いもせず、音羽に向かって声を張り上げる瑛士。
「お前がどうしても認めようとしないのであれば、こっちに来て確かめてみればいいだろうが!」
「いやよ! そうやって私まで引き込もうという魂胆でしょ……その手には乗らないわよ!」
謎の攻防戦を繰り広げる二人を見て、呆れ果ててその場に固まってしまうルナ。
「ははは、あの二人は言い出したら終わらないからのう」
項垂れていたルナが顔を上げると、ルリが腕を組みながらいつの間にか隣に立っていた。
「キュー! キュキュ?」
「ん? なんで隣におるのかと聞いておるのじゃな。それは……秘密なのじゃ」
「キューキュキュ! キューキュ!」
いたずらっぽい笑みを浮かべて話すルリに対し、ルナが驚きの声を上げる。
「ははは、細かいことはよいではないか! さっさと回収して戻るのじゃ……そんなに長くはもたないんじゃろ?」
「キュー! キュキュキュ……」
「どうしてそんなことまで知っているのかって? わらわほどになればすべて丸っとお見通しなのじゃ!」
豆鉄砲を食らった鳩のように呆気にとられるルナの頭を軽くなでると、光のもとに向かって歩き始めるルリ。そして、しばらく進むと目の前に光を放つ紙の塊が現れる。
「……ようやく見つけたのじゃ。わらわの欠片……いや、探していた記憶の欠片なのじゃ」
「キュー? キュキュ」
「ああ、心配ないのじゃ。欠片といってもごく一部じゃからのう……これでもまだ足りぬ……」
ルリが手を伸ばすと、まるで来ることがわかっていたかのように、掌に向かってゆっくりと降りてくる。彼女の手に収まると光が徐々に収まり、古い紙の塊が現れる。
「ようやく手に入れたのじゃ……まあ、低階層で手に入るのはこれが最後じゃろうな」
手に収まった塊を見つめ、寂しそうに呟くルリ。その姿を見ていたルナが、全身を足に擦り寄せて必死に励まそうと試みる。
「ありがとうなのじゃ。ルナの気持ちが痛いほど伝わってきてうれしいのじゃ。よくぞ見つけてくれたのじゃ!」
「キュ、キュー」
嬉しそうに鳴き声を上げるルナの頭を再び優しくなでると、顔を天井へ向けて呟く。
「さて……飯島女史よ、この先に罠を仕掛けておるのはわかっておるぞ。じゃが……残念じゃったな、わらわを甘く見たことを後悔するがよい!」
ルリの高笑いがフロアに響き渡る中、不思議そうな顔で見上げるルナ。
彼女が罠に気が付いているのは偶然なのか、それとも必然だったのか? 瑛士と音羽はこのことを知っているのか?
最後に笑うのは誰なのか……さまざまな思惑が渦巻く中、決着の時は着実に近づいていた……
最後に――【神崎からのお願い】
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