第8話 戸惑う二人を呼んだのは?
「よし無事に近づいてきたのじゃ」
ルリと音羽が歩き始めてしばらくすると、地面から光を放つ場所へ近づいていた。
「……ねえ、ルリちゃん。何とかしちゃうとは言ったけど……これはちょっと想定外ね」
「う、うむ……まさかこんなことになっておるとは思っていなかったのじゃ」
足を止めて呆然と立ち尽くす二人が見つめた先には、まばゆい光を放つ紙の束が浮かんでいた。しかし、問題はその紙の束がある場所だった。
「えーっと、音羽お姉ちゃん……空中を歩くような魔法は習得しておるかのう?」
「そんな夢のような魔法は見たことも聞いたこともないわよ……ルリちゃんこそ、私よりも詳しいんだから、知っていてもおかしくないと思うけど」
「ははは、面白いことを言うのじゃな。残念なことに抜け落ちたページのどこかに書いて……あったとは思えないのじゃ」
言い終えると互いに顔を見合わせ、引きつった笑いを浮かべるルリと音羽。ひとしきり笑い終えると、同じタイミングで大きなため息を吐いて声を上げる。
「こんなのどうしろというのよ!」
「大穴が開いておるなんて聞いてないのじゃ!」
二人の絶叫がフロアに響き、再び顔を見合わせると一気に話し始める。
「ルリちゃん、これは諦めるしかないわよ! こんな大穴が開いていたら回収することなんて不可能だし……」
「わらわだって知らなかったのじゃ……でも、さっき音羽お姉ちゃんが『私に任せておきなさい』って言っておったのじゃ。何か作戦でもあると思ったのじゃが」
「作戦と言われても……てっきり地続きで埋まっていると思っていたから……爆発系の魔法を用意していたのに……」
「この状態で爆発系を使っても意味はないのじゃ。しかし、奇妙なのじゃが……この大穴はさっきの爆発で開いたものではなさそうなのじゃ」
穴を覗き込みながらルリが顔を傾げている様子を見て、目を丸くして問いかける音羽。
「へ? どういうこと? さっきの爆発とは関係がない?」
言われた言葉の意味が分からず、呆気に取られていると、眉間にしわを寄せたルリが腕を組んで答える。
「うーむ、その答えなんじゃが……意外とすぐにわかるかもしれないのじゃ」
言いにくそうにルリが口を開いて視線を動かしたとき、穴のほうから聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
「キューキュキュ」
「え? ルナちゃん? どこにいるの?」
穴の中から聞こえた鳴き声を頼りに音羽が覗き込むと、信じられない光景が広がっていた。底の見えない暗闇が広がる穴の中央に、ルナが何事もなかったかのように座っていたのだ。もちろん足場や通路などもなく、宙に浮いている状態だった。
「な、なんで浮いているのよ! いや、四つ足をつけてお行儀よく座っている……じゃなくてどうなっているの!」
信じられない光景を目の当たりにし、両膝をつきながら再び大声を上げてしまう。その姿を黙って見ていたルリは、ため息を吐きながら話しかける。
「あーなんというか……わらわも先ほどルナを見つけたのじゃ。何事もなく穴の中央を飛び跳ねていく様子を見て、何とも言えない感じになったというか……」
「いやいや、何とも言えないのはわかるけど! なんで平気な顔して宙に浮いているのよ!」
穴の中央を指し示しながら声を上げる音羽。二人の様子を見ていたルナが顔を傾げながら鳴き声を上げる。
「キュー? キューキュキュ!」
「え? どうしたの? 別に何もおかしなことはないと思うけど……って、今の状況を理解しろっていうほうが無理じゃない!」
「キュー、キュキューキュ」
「まあそれもそうだけど……細かいことは気にせず、目的のものを回収しない? こっちに来てくれて大丈夫だよ……って、行けるわけないでしょうが! ルナちゃんは大丈夫かもしれないけれど、落ちたら終わりなのよ!」
必死に呼びかけるルナに対し、珍しく取り乱して訴えかける音羽。すると背後から突然声をかけてくる人物が現れる。
「お前にしては珍しい取り乱し方だな。ん? またこのパターンか……」
「え、瑛士くん? なんでここにいるのよ!」
背後に現れたのは、先ほどまで真逆の方向で捜索をしているはずの瑛士だった。何が何だかわからず混乱する音羽に対し、わざとらしくため息を吐くと声をかける。
「あのな……あれだけ大きな声を張り上げていたら、さすがに気が付くぞ……って、言いたいところだが、違うんだよな」
「え? は? 意味が分からないんだけど?」
話を聞いてますます混乱する音羽に対し、瑛士が頬を掻きながら話す。
「まあ、お前らの声が大きかったのは間違いないんだが……ルナが連れてきてくれたんだよ。二人が混乱しているから、助けてやってくれってさ。こう言っちゃなんだけど、前にも同じ状況に陥ったことがあるんだわ」
「ちょ、ちょっと待って……情報量が多すぎて全然話が入ってこないんだけど?」
豆鉄砲を食らったような顔で固まる音羽を見て、困ったような表情になる瑛士。すると、目を丸くして二人のやり取りを見ていたルリに声をかける。
「ルリ、お前までなんで固まっているんだよ」
「は! わ、わらわは固まってなんかおらんのじゃ! ちょっと意味が分からないだけなのじゃ」
「……わかった、お前らはここで待っていろ」
二人の様子に呆れた瑛士は大きく息を吐き、底の見えない大穴に向けて足を踏み出していく。
一見自殺行為にも見えるが、彼に秘策はあるのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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