第7話 叫び声とルリの破壊力
「よし無事に近づいてきたのじゃ」
ルリと音羽が歩き始めてしばらくすると、地面から光を放つ場所へ近づいていた。
「ほんとにこっちであっていたんだ……」
後ろを振り返ると、延々と明後日の方向へ歩きながら声を上げる瑛士の姿が視界に入る。
「なんでいつまでたっても近づかないんだ? 目の前に見えているのにどうなっているんだよ!」
地団駄を踏みながら怒りを爆発させる瑛士。その姿を見て、音羽は苦笑いを浮かべながら呟く。
「あの調子じゃ永遠にたどり着けそうにないわね。ルリちゃんがいなかったら私も同じ道をたどっていたし……」
遠い目をしながら彼の様子を眺めていると、先を歩いていたルリが振り返りながら話しかけてきた。
「どうしたのじゃ? やけに変な声が聞こえてくると思ったら、ご主人の叫び声じゃったか」
「そうなの。魔法の効果が継続しているからなのかしら? さっきから同じところをずっとぐるぐる回っているような気がするのよ」
「それもあるじゃろうな。幻覚魔法の一種じゃから、知らなければ対策のしようがないからのう」
叫び声をあげながら同じ場所を周回し続ける瑛士を見て、腕を組みながら大きく頷くルリ。すると、何かに気が付いた音羽が問いかける。
「そういえば、私たちが八階層に来る前にも同じような現象がなかった? たしかルリちゃんが通路を何往復もしていたような……」
「そうじゃったのう。じゃが、あれは全く別物じゃぞ。あちらは結界と結界の間に挟むように仕込まれておったし、突然変異したような術式じゃったからのう……」
「突然変異?」
言葉を聞き、眉間にしわを寄せて顔をしかめる音羽。彼女の様子を見て、ルリが苦笑いしながら答える。
「そうなんじゃよ。結界自体は単純なもので、すぐ突破できると思っておったのじゃが……どうやらループ魔法を重ね掛けしたときに、見たことのない術式が構築されていたようじゃ。補助魔法でこんなことが起こるとは予想外じゃったのじゃ……」
「なるほどね。可能性としてはありそうな話だとは思ったけど、実際に目にすることがあるなんてね……」
ルリの話を聞いていた音羽が感心したような顔をしていると、背後から再び叫び声が響き渡る。
「あー! なんで全然近づかないんだよ! どう考えてももうたどり着いてもおかしくないぞ」
顔を真っ赤にして体をのけぞらせて叫ぶ瑛士の姿を見て、二人は顔を見合わせると思わず吹き出してしまう。
「ぷっ、ここまで気が付かないってこともあるのね」
「あはは、そろそろ気が付いても良いと思ったのじゃが……わらわたちが動いておることに気が付かないのじゃろうか?」
自分たちが先ほどの場所から動いているのに、全く気が付かない瑛士を不思議に思うルリ。
「実は……ルリちゃんが歩き始めた時にある仕掛けをしておいたのよ」
引きつった笑みを浮かべ、頬を掻きながら音羽が口を開く。
「ほら、勝手に動き出すと瑛士くんがまたうるさいじゃない? だから、ホログラムで私たちの姿を立体映像として表示するようにしておいたの。近くで見るとすぐわかるんだけど、少し離れれば見分けがつかないからね。まあ、立体映像だから石とかが飛んで来たらすり抜けるし、電池がなくなったら消えちゃうけどね」
「そうなんじゃな。ちなみに電池というのはどれくらい持つものなのじゃ?」
「うーん、どうだろう? もってあと数十分かしら? まあ、電池が切れた時はそのときね」
あっけらかんと笑う音羽を見て、ルリも同じように笑い声を上げる。
「さすが音羽お姉ちゃんなのじゃ! まあ、人の話を聞かないご主人が悪いというものじゃな!」
「そういうことにしておきましょう。こっちが口をはさむより早く動き出しちゃったわけだし」
再び見合わせると、大きく頷きながらため息を吐く二人。顔を上げると小さく頷いて、何かを決心したように声をかける音羽。
「さて……私たちのほうも残された時間が多いわけじゃないし、サクッと回収しましょ」
「そうじゃのう。目的の場所はすぐ近くじゃ、少しだけ頑張るのじゃ!」
拳を握り締めたルリが気合を入れる様子を見て、音羽の脳裏に疑問が浮かぶ。
(少し頑張るってどういうことなんだろ? 光が見えている場所は目と鼻の先だし、何かおかしなことがあるようには見えないんだけど……どういう意味なんだろ?)
不思議そうな顔で見つめていると、視線に気が付いたルリが話しかけてきた。
「音羽お姉ちゃん、どうしたのじゃ? 何か気になることでもあったかのう?」
「え、あ、うん……さっき、ルリちゃんが少し頑張るって言っていたじゃん? 目的の場所はすぐそこだし、別に何かあるわけじゃなさそうなんだけどなって思って……」
音羽の話を聞き、意図を察したルリが手を叩きながら声を上げる。
「そういうことじゃったか! 口で説明してもいいのじゃが……見てもらったほうが早いと思うのじゃ。それにわらわ一人ではちょっと対応が難しくてのう……」
「一人では対応が難しい? さっぱり意味が分からないんだけど……」
「見ればわかるのじゃ。どうしても音羽お姉ちゃんの力が必要なんじゃ!」
上目づかいで、うるんだ瞳で訴えるルリを見て、音羽の心は完全に撃ち抜かれる。
(もー! こんなお願いをされたら断れないじゃない!)
「お姉ちゃんに任せなさい! どんなことだってバシッと解決してあげるわよ!」
胸を張って音羽が声を張り上げると、花が開いたような笑顔になるルリ。意気揚々と歩きだす二人に何が待ち受けているのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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