第4話 音羽が固まっていた理由とは?
一点を見つめたまま呆然と立ち尽くす音羽を見て、少し苛立ったように瑛士が声をかける。
「音羽、どうしたんだ? ボサッと立っていたら、何か起きた時に対処が遅れるっていつも言っているじゃないか?」
「……」
少し大きめの声量で話しかけるが、彼女の耳にはまるで届いていないかのように反応が返ってこない。
「おい! 人の話を聞いているのか!」
あまりにも危機感のない態度に怒りを覚えた瑛士が声を荒げると、我に返ったように音羽の体が小さく飛び跳ねる。
「え、あ、なんだったっけ? いきなり大きな声を出されたらびっくりするじゃない」
「驚くのはこっちのセリフだ! 普段から警戒を怠ることなどないお前がボサッと突っ立っているなんて……どこで飯島が狙っているかもわからない状況なんだぞ?」
「そんなことわかっているわよ! 瑛士くんこそもうちょっと周りの状況を見たほうが、いいんじゃないの?」
思いもよらぬ反論を受け、瑛士の頭に血が上り始める。
「お前な……」
怒りに任せて瑛士が口を開こうとしたとき、先ほどまで瑛士にしがみついていたルリが立ちはだかる。そして、彼の口に手を当てると、小声で話しかける。
「ご主人、ここはわらわに任せておけ」
「は? お前が出る幕じゃない。俺と音羽の問題であってだな……」
「お互いに冷静さを欠いた状態で話しても、ケンカになるだけじゃろうが。第三者であるわらわが間に入り、冷静になる時間を作るから任せるのじゃ。わかったな?」
まっすぐ向けられたルリの瞳を見て、相当な覚悟を持っていることが伝わってきた。迫力に押された瑛士が右手で頭を掻きむしると、苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「ちっ……そこまで言われたら言い返す言葉がねーよ。わかった、お前に任せる」
「うむ、わらわに任せておくのじゃ!」
口角を吊り上げ、笑みを浮かべると音羽に向き直るルリ。そして、彼女を刺激しないように言葉を選びながら話しかける。
「音羽お姉ちゃん。いつも冷静沈着で的確な指示を出してくれて助かっておるのじゃ**」
「え? あ、ありがとう、ルリちゃん」
突然褒められて面食らった音羽はどう返事をしていいのかわからず、戸惑い始める。そのわずかな隙をルリは見逃さず、一気に核心に切り込んでいく。
「うむ。ところで、さっきご主人が何か騒いでおった時、びっくりしたように固まっておったじゃろ? 何か珍しいものでも発見したのじゃろうか?」
「そうなのよ! ちょっと見てほしい光景があったんだけど、気が付いたらなんか瑛士くんが突っかかってきたの」
「うむうむ、それは配慮が足らないというやつじゃのう」
腕を組んで大きく頷くルリに対し、顔を近づけた瑛士がささやく。
「なんで音羽を持ち上げているんだよ。ボケっと突っ立っていたのはアイツだろうが」
「これも作戦のうちじゃ。音羽お姉ちゃんの性格はよく知っておるじゃろ? 気持ちよく話してもらうためにも、ちょっと黙って聞いておるのじゃ」
ぐうの音も言えない正論を突き付けられ、そのまま押し黙るしか瑛士には選択肢がなかった。静かに後ろに控えて様子を見守っていると、ルリがさらに話しかける。
「ご主人のことはいつものことじゃし、後でゆっくり話せばよいのじゃ。それよりもわらわたちに見てほしいものというのが、すごく気になるのじゃが?」
「さすがルリちゃん! 話が早くて助かるわ!」
自分の考えていたような質問を聞き、上機嫌で音羽が答える。気をよくした彼女は先ほど自分が見つめていた場所を指しながら、饒舌に話し出す。
「あそこを見てほしいんだけど、一か所だけ黒い塊があるでしょ? さっき動いていたモンスターがいた場所なのよ。問題はもうちょっと先になるんだけど……ほら、わかる? 少し先のところが異様な光を放っているのが!」
興奮した様子で音羽が指を示した方向を見ると、黒い塊の少し先に地面が光り輝いている場所があった。明らかに何者かが埋めたような形跡があり、モンスターの行動と照らし合わせるとルリの脳内に一つの可能性が浮かんでくる。
「あの位置は……もしかしてモンスターどもが陣取っていた場所ではなかろうか?」
「さっすがルリちゃん! 私もそう思うのよ。この階層のモンスターは連携をとる珍しい種族なんだけど、あんなふうに何かを守っていたなんて記録はどこにもないのよ。だからずっと怪しいなと思っていたのよね」
胸を張った音羽が自信たっぷりに答えると、黙って聞いていた瑛士が話に割って入ってきた。
「そうか……音羽が固まっていた理由は、あの光を見つけたからなのか!」
「そうよ。まあ、正確には……モンスターが息絶えるのと同時に光りだしたからよ。何か関係性があるようには思えないし、あんな状態で動いて守ろうとすること自体が不自然すぎるんだもん」
「間違いない……そこまでして見せたくないものか……いったい何が埋まっているんだ?」
眉間にしわを寄せた瑛士が問いかけると、左右に顔を振って答える音羽。
「さすがにわからないわ。だけど、ルリちゃんが言っていた探し物と関係がありそうな気がするの……もしかしたらだけどね」
「そうだな。ちょうどモンスターもいなくなったし、掘り起こしてみるか?」
「そうね……と言いたいところだけど、物事はそう簡単にいかないかな……」
瑛士の提案を聞いて同意しかけるが、徐々に音羽の表情が曇り始める。
彼女が懸念する事項とは――いったい何があるのだろうか?
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