第3話 モンスターの探し物
飯島の蛮行にルリが呆然としていた時、背後でかすかに動き始める影があった。その動きにいち早く気が付いた音羽は、彼女に手を伸ばすと自分のほうへ引き寄せる。
「わっ! 音羽お姉ちゃん? いったいどうしたのじゃ?」
「ルリちゃん、私から離れないで! 後ろに倒れていたモンスターの屍が動いたの」
「は? そ、そんなことが……」
言葉を聞いたルリが驚いて振り返ると、屍と化していたはずの黒い塊がゆっくりと起き上がり始めていた。
「な……あんな状態でもまだ生きておったというのか?」
その姿を見たルリが驚きの声を上げると、音羽が険しい顔をしながら睨みつける。
「死にかけの状態でもまだ抵抗する力が残っていたなんて……いいわ、私が引導を渡してあげる。ルリちゃん、私の後ろに隠れてね」
ルリに告げると同時に腰を低くし、柄に手を添えて構えをとる。そして、静かに目を閉じて集中力を高め始めた時、黙って見ていた瑛士が制止するように声を上げる。
「音羽、攻撃するな」
「なんで止めるの? モンスターがこっちに向かってきているのよ」
「よく見ろ! 真っ黒でよくわからないかもしれないが、目的は俺たちじゃない」
瑛士に促された音羽がゆっくり目を開けると、黒い塊は音羽たちのいる場所とは違う方向に向かって進み始める。そして、彼女たちのそばを通り過ぎると少し進んだ地面を掘り始める。その姿を見たルリが不思議そうな顔で声を上げる。
「どうしたのじゃ? 一心不乱に何かを探しているように見えるのじゃが?」
彼女たちのことなど気にすることなく、無我夢中で掘り進める様子に怪訝そうな表情でルリが問いかける。
「うーん、こればかりは掘っている本人に聞かないとわからないな……」
「それもそうじゃな……って、どうやって確認するのじゃ?」
言葉を聞いたルリが思わず聞き返すと、驚いたような表情をした瑛士が話しかける。
「え? それはお前の魔法を使えば何とかなるんじゃないのか? ほら、あの有名な狸型ロボットみたいに、何でも不可能を可能にできるって言っていたし」
「ご主人はバカなのか? あれは未来から来たロボットとかいうやつで、魔法とは違うのじゃ。そもそも、わらわの机には引き出しがないから召喚することはできぬぞ」
「な、なんだって……」
ルリの言葉を聞き、目を大きく見開いて驚く瑛士。すぐに悔しそうな表情になり、絞り出すような声を上げる。
「どうして……魔法は無限の可能性を秘めているといっていたじゃないか……」
「そんなことをわらわに言われても困るのじゃ……」
項垂れて落ち込む瑛士の姿を見て、困惑した表情を浮かべてうろたえ始めるルリ。次の瞬間、彼が声を上げてその場にしゃがみ込んでしまう。
「イデッ! 後ろから殴るなんて卑怯だぞ!」
「バカなことを言っているからでしょ? ルリちゃんは本気で悩んでいるじゃない」
涙目になった瑛士が顔を上げると、呆気にとられたルリが二人を見比べていた。恐る恐る口を開いて、音羽に問いかける。
「音羽お姉ちゃん、これはいったいどういうことなのじゃろうか?」
「ルリちゃん、怒っていいわよ。いつもの瑛士くんが仕掛けたいたずらに引っ掛かっただけだから」
「は? いたずらじゃと?」
言っていることが理解できず、顔を傾げているルリ。すると小さく息を吐いた音羽は説明を始める。魔法が無限の可能性を秘めているなどとは微塵も思っていないこと、彼女自身がいい意味でも悪い意味でも純粋だから、からかって遊んでいること、瑛士自身はモンスターの異常行動について何か目星をつけていることなどを告げる。
「最初からすべてわかって話していたじゃと! 人を馬鹿にするのもいい加減にするのじゃ!」
話を聞き終えると、困惑した表情から一転して顔を真っ赤にして怒り出すルリ。その姿を見た瑛士が頭をこすり、口をとがらせながら文句を言い始める。
「なんでばらすんだよ……せっかく面白くなってきたところだったのに……」
「悪意を持ってからかうから痛い目を見るの。いつも言っているでしょ、自業自得だって」
「それはお前だって同じだろうが!」
抗議する瑛士の言葉など気にも留めず、淡々と話し続ける音羽。
「あら? 私は別に悪意なんて微塵も持っていないわよ。瑛士くんが人の道を踏み外さないように教育的指導をしてあげているだけじゃない」
「暴力をふるったり、命の危機に追い込むことが教育的指導なのか?」
「口で言っても分からない人には、体で教え込まないとだめでしょ」
睨みつける瑛士に対し、呆れたような視線で答える音羽。二人がいがみ合っていると、顔を真っ赤にしたルリが割り込んでくる。
「ご主人、音羽お姉ちゃんに噛みつく前にわらわに言うことがあるのではないか?」
「……ハイハイ、ワタシガワルカッタデス。ゴメンナサイネー」
「むきー! まったく心がこもっていないのじゃ!」
目も合わせず、口を尖らせたまま謝罪の言葉を口に出す瑛士。あまりに心のこもっていない言葉に、ルリが地面を踏みつけて怒りをあらわにした時だった。
「ギ、ギャー!」
突然雄叫びのような大きな声がフロアに響き、何かが動き始める音が聞こえてきた。
「な、なんの声じゃ?」
「今の叫び声は……いったい?」
慌ててルリと瑛士が周囲を見渡すと、先ほどまで穴を掘っていたモンスターが三人に向かってゆっくり近づいてきた。
「ルリ、すぐ俺の後ろに隠れろ! 音羽、万が一の時は俺たちで対処するぞ!」
瑛士が慌てて指示を飛ばすが、音羽はその場に呆然と立ち尽くしたまま動こうとはしなかった。
なぜ彼女は動こうとしないのか? その答えはすぐに明らかになる……
最後に――【神崎からのお願い】
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