閑話㉖-5 閑話㉖-4 裏切りの末路――斎藤 賢治の場合実行編――
自動販売機でコーラを選んだ賢治は、紀元の正面に座るとすぐに缶を開けて一気にのどを潤す。
「ぷはっ! この炭酸ののど越しがたまらないな!」
「ずいぶんうまそうに飲むな」
「ああ、もう二度と飲むことなんてできないと思っていたからな」
満面の笑みを浮かべた賢治が答えると、紀元は笑みを浮かべて目を細める。そうして一気に残りのコーラを飲み干すと、小さく息を吐いて口を開く。
「まずはありがとうだな……こんな俺に人としての尊厳を取り戻させてくれて」
「大げさだな、コーラ一本で」
呆れたように話しかける紀元に対し、手に持ったコーラの缶を見つめながら賢治が呟く。
「そうでもないぞ? それほどまで追い詰められていたということだ……」
「いろいろ忙しい奴だ。まあ、ここは安全な場所だしな」
「そうだな……まあ、この後の依頼でどうなるかわからない人生だ……最期になるかもしれないひと時を楽しんでおきたくてな」
俯きながら話す賢治を見て、目を細める紀元。
(まだ何も言っていないのだが、すでに覚悟ができているのか……)
妙に落ち着いて手に持った缶を回している様子を見て、紀元は感心したような顔になる。しばらく賢治の様子を見つめていると、小さく顔を左右に振って話しかける。
「それでは本題に入ろうか……」
「ああ、何でも言ってくれ」
「お前に頼みたいのは、八階層で起きている異変の調査と原因の回収だ。おそらく特別な何かが眠っていると思われる」
話を聞いた賢治が眉間にしわを寄せ、顔を上げると紀元をまっすぐ見つめて聞き返す。
「調査と回収だと? そんなことだろうと思ったが……いったい何が眠っているんだ?」
「それがわかったら苦労しない……安心しろ、人体に悪影響が出るようなものではないのは確かだ」
「悪影響はないか……正確には影響があるかどうかわからないってことだな?」
「ふふふ、君のような勘のいい人間は嫌いじゃないぞ」
鋭い目線を向けて質問を投げかける賢治に対し、口元を吊り上げて笑みを浮かべる紀元。
「俺も様々な修羅場をくぐってきたからな……ある程度の勘は働くんだ、あんたほどじゃないが」
「さあ、どうだろうな? その言い方だとまるで俺が修羅の道を歩んできたような言い方じゃないか」
「違うのか? ある程度は裏社会を見てきた俺から見ても、相当な経験を積んでいると思うぞ」
賢治も口元を吊り上げ、怪しげな笑みを浮かべる。そして何とも言えない沈黙が休憩室を支配し始めると、紀元が急に笑い声を上げた。
「ははは! その答えはノーコメントだ。それよりもどうする? 俺の依頼を受けるのか、やめるのか? 決断したら後には引けないぞ」
「愚問だな……最初から答えは決まっている。今更断れるわけがないだろう……それに、断ったところで未来は変わらないだろうからな」
大きく息を吐くとはっきりとした口調で答える。その賢治の回答を聞き、紀元が声を上げて笑い出す。
「ははは! よくわかっているじゃないか。まあ断ったところで権限が俺から上司へ移るだけだからな……お前も会ったことがあるだろ?」
「ああ……あの中学生のような容姿をした女性だろ」
「そうだ……と言いたいところだが、容姿については深く追及するな……」
賢治の容姿に関する発言を聞き、急に神妙な面持ちになる紀元。そして手を顔の前で合わせると、低い声で語り始める。
「あの人の前で子供体型だのという言葉はご法度だ……もし聞かれていたら、命どころか存在ごと消されるからな」
あまりにも真剣な表情で話す紀元を見て、ただ事ではないと悟る賢治。小刻みに全身を震わせる彼に対し、神妙な声を上げる。
「わ、わかった……しかし、俺が感じたのはそれだけじゃない。あの女性には底知れぬ闇を感じるんだ。たとえが悪いが、人が持つオーラではない何かを感じる……あれは人の皮を被った悪魔のような存在だ」
「ほう。ずいぶん興味深い考察だな。ぜひとも今回の任務が無事に完了したら聞かせてもらいたいな」
「ああ……機会があれば……な」
賢治は少し寂しそうな表情で答えると、何かを思い出したように手を叩いて紀元が話しかける。
「重要なことを言い忘れていた。今回の任務に関し、万が一邪魔が入るような存在が現れたら遠慮なく排除してくれ」
「どういうことだ? モンスター以外に懸念事項があるのか?」
「まあ、迷宮だからな……ほかの探索者と鉢合わせる可能性もあるだろ? 何をするかわからないしな……ここは治外法権だから」
「いろいろと引っかかるが……頭の片隅にでも置いておこう。さて、そろそろ俺も動くとするか。ジュース、美味しかったぞ。ありがとう」
ため息を吐くと椅子から立ち上がり、休憩室の出口に向かって歩き始める。そんな賢治を見て、紀元が声をかける。
「ああ、健闘を祈る。あと、これを持っていけ」
立ち去ろうとする賢治に向かって、ある機械を投げる。うまく受け取ると不思議そうな顔で聞き返す。
「これはなんだ? 奇妙な機械だが……」
「モンスター除けの安全装置だ。あと、転移装置も兼ねている……外の通路に出たら真ん中のボタンを押すといい。八階層と九階層の通路に転移できるからな」
「何から何まですまない……」
短く言葉を言い終えると休憩室を出ていく賢治。誰もいなくなったことを確認するとスマホを取り出し、紀元が連絡を入れる。
「俺です。こちらもうまくいきました……これから八階層へ向かうそうです。はい、それではそちらに伺いますね」
通話を終えると怪しげな笑みを浮かべ、反対側の出口から出ていく。
紀元はいったい誰に報告をし、何がうまくいったのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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