第10話 三人を狙う影
何が起こったかわからず、動かなくなった賢治に声をかけ続ける瑛士。
「賢治さん、しっかりしてください! どうしたんですか?」
体を揺すったり、頬を叩いてみたりしてなんとか反応が返ってこないか試みる。しかし、ぐったりとしたまま動かない賢治。さらに声をかけようとして顔を近づけた時、瑛士を呼ぶ声が響く。
「瑛士くん、今すぐ彼から離れて!」
音羽の叫び声が響くと同時に、体を後ろに引っ張られる。そのまま尻もちをつくように後ろへ倒れると、目の前を一筋の光が走る。その直後、少し離れた位置で爆発が起き、目の前が土煙に覆われる。
「は? 一体何が……」
何が起こったのか理解できない瑛士が呆然としていると、背後から呆れたような声が聞こえてくる。
「ふぅ……間に合ってよかったわ。ボサッとしていたらダメでしょ! 賢治さんが撃たれた時から狙われていたのよ!」
「は? 狙われていただと? そんなことよりも賢治さんを助けないと!」
声を聞いて瑛士が我に返ると、先程倒れたままの賢治を助けるために立ち上がろうとする。その姿を見た音羽が、慌てて右手を掴んで引き止める。
「バカ! 何を考えているのよ! 今飛び出したら完全に狙い撃ちされるわよ」
「そんなことはわかっている……だけど、怪我をした人がいるのに、無視するわけにはいかないだろ!」
制止を振りほどいて駆けつけようと暴れる瑛士に対し、手に力を込めると絞り出すような声で呟く音羽。
「……もう手遅れよ」
「は? 手遅れってどういう意味だよ? まだわからないだろ?」
音羽の言っていることが信じられず、苛立ったように瑛士が振り返った時だった。彼女は俯いたまま肩を震わせ、聞いたことがないような声で叫ぶ。
「……手遅れは手遅れなの! もうどうやっても助けられないの! これでもわからない?」
「……う、うそだろ……」
「こんな時にうそなんて言えるわけがないでしょ! 賢治さんも遥香さんも……もう手遅れだったの!」
音羽の悲痛な叫びを聞き、全身の力が抜け落ちていく感覚に襲われる。そのまま力なく片膝をつくと、悔しさをぶつけるように右の拳を地面に勢いよく叩きつける。
「な、なんで気が付かなかったんだ……あと数秒早く気がついて結界を展開していれば……」
「気持ちはわかるわ……でも、今は自分の身を守らないと……」
言い終えるより早く瑛士が抱きつき、押し倒すような形で覆いかぶさる。彼の顔が数センチの距離に近づいたことにより、音羽が大パニックになる。
「は? え? 瑛士くん、ダメよ……そんな大胆なことをしている場合じゃないのよ……ルリちゃんも近くにいるし、私たちを狙っている敵もいるのに……わ、私にも心の準備ってものがあるし、初めてが外なんて大胆すぎるというか……」
「何をバカなことを言っているんだ? そんなことよりも早くこの場を離れるぞ!」
顔を真っ赤にして体をくねらせる音羽を一喝し、わざと土煙が舞うように少し離れた地面を爆発させる瑛士。
「え? ちょっと! そんな瑛士くんに抱かれて移動だなんて夢じゃないわよね?」
土煙が視界を奪う中、お姫様抱っこをされる形で抱えられる音羽。何が起こったのか理解が追いつかず、されるがままの状態を楽しんでいた時だった。すぐ近くで何かが爆発するような音が聞こえ、小石や砂が次々と二人に向かって飛んでくる。
「ちょっと……何が起こっているのよ……瑛士くん、どういうことか説明してよ!」
「話はあとだ! ちょっと黙っていろ……そっちの状況はどうだ?」
腕の中で騒ぐ音羽を黙らせると、誰もいない空間に向かって呼びかける瑛士。すると二人の脳内に聞き覚えのある声が響き渡る。
「ご主人、無事じゃったか! わらわのほうは認識阻害の結界を張ったから大丈夫じゃ……というか、張るしかなかったのじゃ」
「どういうことだ?」
ルリの言っている意味がわからず聞き返すと、信じられない返答が返ってくる。
「爆発が起こってすぐにモンスターどもが暴れ始めたのじゃ。上手く説明できんのじゃが……凶猿王が何者かに不意打ちを食らったようじゃ。指揮系統を失ったせいか、一斉に光が放たれた方へ向かって走り出したのじゃ」
「意味がわからん……それでお前は今どこにいるんだ? 認識阻害をかけていたら俺だって見つけられんぞ」
言っている意味がわからず、顔を傾げながら返事をする瑛士。すると、ルリから驚きの返答が返ってくる。
「あーそうじゃったな。どこにおるって……ずっと目の前におるのじゃが」
「は? 目の前ってどこにもいないじゃないか!」
「そうか、見えておらんのじゃったな。ご主人、そこで立ち止まって一度目を閉じるのじゃ」
言われるがまま足を止め、その場で目を閉じる瑛士。すると手を叩くような音が聞こえ、急に体が軽くなるような感覚を覚える。
「もう目を開けて大丈夫じゃぞ」
ルリに促されてゆっくり目を開けると、正面に腕を組んで胸を張る彼女が現れる。
「へ? いつの間に目の前にきたんだ? わざわざ念話なんてする必要なかっただろ」
「何を言っておるのじゃ? わらわはずっとここにいたのじゃぞ」
「意味がわからねーよ。少なくとも賢治さんの場所から数メートルは離れていたぞ」
「あーそれは認識阻害とループ魔法を二重でかけておいたのじゃ」
あっけらかんと白状するルリに対し、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした瑛士。その時だった。
「あーもうほんと使えないヤツラだわ! 私の実験台にもならないなんて!」
金切り声に近い女性の声がフロア内に響き渡ると、瑛士の脳裏に過去の記憶が蘇る。そして、鬼の形相で声のした方向を睨みつける。
一言で彼の様子を一変させた人物の正体とは――いったい誰なのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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