第8話 モンスターにも同情される瑛士
「それじゃあ……助けに行くぞ。ルリ、万が一を考えて、いつでも結界を張れるように警戒だけしていてくれ」
「ああ、わかったのじゃ。そんな心配は無用じゃと思うがな」
声をかけられたルリが頷くと、少し呆れたように言葉を返す。そんな彼女の様子を見て、少しいらだったように話しかける。
「万が一って言っただろ? たしかにルナはああいっていたが、何が起こるかわからないからな」
「はいはい、わかったのじゃ」
やる気のない返事をするルリに苛立ちながら、倒れている人物に向かって一歩踏み出す瑛士。すると、いつの間にか隣に立っていた音羽が小声で呟く。
「瑛士くん、大丈夫よ。私以外が傷つけていいなんて許可しないから……たとえモンスターであってもね」
言い終えると同時に前方に視線を向ける音羽。すると、こちらを見下ろしていたモンスターたちが一斉に体を震わせ、少しずつ後ずさりを始める。その様子を見たルリが満足げに声を上げる。
「ほう! 音羽お姉ちゃんの圧に押されて退散し始めたのじゃ」
「アイツの圧に耐えられる奴なんていないだろ……って、俺を傷つけていいってどういう意味だよ!」
ルリの話を聞いていた瑛士が我に返り、抗議の声を上げると音羽がさも当然といった表情で答える。
「え? そんなの決まっているじゃない。瑛士くんは私の所有物なんだから、許可なしに傷つけられたら困るのよ……ほら、壊れたおもちゃって直さないといけないでしょ?」
「いつからお前の所有物になったんだよ……そもそも俺は人間であって物じゃねーよ!」
必死に叫ぶ瑛士を見ると、意味深な笑みを浮かべてそのまま前を向いて歩き始める音羽。何も言わない彼女に対し、抗議の声を上げる。
「おい! 何か言ったらどうなんだよ!」
「ご主人、もうちょっと声のトーンを抑えてほしいのじゃ。ほれ、モンスターどももドン引きしておるぞ」
ルリの声を聞いて視線を向けると、後ずさりしながら憐みの目で瑛士を見るモンスターたちの姿が目に入る。
「ちょっと待て! お前ら、そんな目で俺を見るな!」
必死の形相で瑛士が叫ぶと、モンスターたちの視線が優しいものに変わる。
「なんで『俺たちはわかっているぜ』みたいな視線に変わるんだよ! その生暖かい視線を向けるな!」
何とも言えない空気が漂い始め、焦った瑛士がさらに大声で叫んだ時だった。モンスターたちが顔を見合わせ、何かを話し合っているように見える。しばらくすると申し合わせたかのように満面の笑みを浮かべ、彼に向かってサムズアップを向ける。
「だーかーら! なんでお前らがさわやかな笑顔を浮かべているんだよ!」
瑛士の大絶叫がフロアに響き渡ると、ルリが怪しげな笑みを浮かべて話しかける。
「モンスターと心を通じさせるとは……ご主人もやるのう。これからはよき友としていいお付き合いもできるかもしれんのう」
「なんでそうなるんだよ! モンスターにまで同情される俺って……」
大きく肩を落として項垂れる瑛士を見て、笑いが止まらないルリ。そんな二人のやり取りが交わされていると、倒れていた人物が少し動き始める。
「う、う……ん? 俺は……まだ生きていたのか……」
「瑛士くん、怪我をしていた人の意識が戻ったみたいよ!」
かすかに聞こえた声に音羽が反応し、瑛士たちに向かって話しかける。
「ほ、ほんとか? それは良かった。すぐに助けに行きますから」
「こ、この声は……再び君に助けられるとはな……」
瑛士の声を聞き、驚いたように呟く男性。
(ん? また助けられたってどういうことだ?)
かろうじて聞こえた男性の呟きを聞き、疑問に思いながら駆け寄るとすぐにその答えが分かった。
「あ、あなたは……三階層で別れた……」
「久しぶりだな。元気そうでなにより……ごふっ」
瑛士の目に飛び込んできたのは、変わり果てた賢治の姿だった。全身におびただしい切り傷や擦り傷を負い、口から血を流しながら必死に話を続ける。
「だ、大丈夫ですか……って、いったい誰にやられたんですか……」
「ははは、情けない姿……を見せてしまったな。ちょっとへまをしたらこのざまだ……もう少しうまくやるつもりだったんだが」
乾いた笑みを浮かべて自嘲気味に話す賢治に対し、必死に声をかけ続ける瑛士。この時、三階層で見かけたもう一人が見当たらないことに気が付く。
「そういえば前に会った時にいた連れの方が見当たらないようですが……」
「……」
瑛士に問いかけられた賢治は気まずそうに顔をそむけると、少し離れた位置に移動していた音羽が声を上げる。
「瑛士くん、こっちにもう一人倒れているわ……」
「なんだと? 音羽、ちょっと手が離せないから任せていいか?」
驚いた瑛士が声をかけると、音羽は少し困ったように言葉を返す。
「ええ……わかったわ……」
彼女にしては珍しく歯切れの悪い様子に疑問を持ちつつ、目の前に倒れている賢治に話しかける。
「もう一人倒れていたみたいですが、彼女が何とかしてくれますから。それよりも早く手当てをしないと……」
瑛士が手当てをするために立ち上がろうとしたとき、賢治が彼の腕を掴んで話しかける。
「もういいんだ……俺はそんなに長くはもたない……それよりも君たちに伝えておかねばいけないことがあるんだ……」
最後の力を振り絞るように声を上げる賢治。
彼が瑛士たちに伝えておきたいこととは……
最後に――【神崎からのお願い】
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