第7話 徐々に明らかになる状況
「回収してほしそうってどういうことだ?」
言葉を聞いた瑛士が思わず聞き返すと、腕を組んだルリが顔を傾げたまま答える。
「うーむ、こればっかりは説明が難しいのじゃが……モンスターどもに敵意を感じられんのじゃ」
「は? マジで意味が分からんのだが……奴らが人の言葉を話すとは思えんし、お前が言うように敵意がないとは思えんのだが……」
瑛士が視線をモンスターのほうへ向けると、明らかに嫌悪感たっぷりな視線をこちらに向けていた。ルリの言うように殺気のようなものは感じられないが、万が一襲い掛かってきたことを考えると次の一歩が踏み出せなかった。どうしていいかわからずに困惑していると、足元から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「キューキュキュ!」
「なんだ? 何をぼさっとしているんだ? 話をつけてきてやるから待っていろ……だと?」
「キューキュ」
胸を張って自信たっぷりに鳴き声を上げるルナに対し、瑛士は慌てた様子で声を上げる。
「バ、バカいうな! お前は確かに普通のウサギとは違ってけた外れに強い……が、数が多すぎるだろ! いくら何でも無謀すぎる!」
「キュー、キュキュキュ!」
「だーかーら、モンスターといえども動物と一緒だ。ちょっと話せばわかるから……って、一緒じゃないからな!」
「キュー、キュキュキュ」
「あ! ちょっと待て!」
瑛士が必死に止めようとするが、ルナは小さくため息を吐いてモンスターの集まるほうへ走っていった。その様子を見て、無言で見つめていたルリと音羽に声をかける。
「なんでお前たちは止めないんだ? ルナに万が一のことがあったらどうするんだ!」
「ご主人が心配する理由はごもっともなのじゃが……もうちょっとルナのことを信用しても良いと思うのじゃ」
「そうね。私たちがむやみに近づくよりも、任せたほうが安全なのは間違いないわね」
なぜか納得したような表情で話す二人に対し、思わず声を荒げる瑛士。
「お前ら……本気で言っているのか? 相手は迷宮のモンスターなんだぞ! ただのウサギよりちょっと強いルナがどうなってもいいのかよ!」
怒りをあらわにしながら叫ぶ瑛士の姿を見て、二人は小さく息を吐きながら呟く。
「ちょっと強いだけね……まさか本気でただのウサギだと思っているのかしら?」
「そうじゃのう……ご主人は天然なのかもしれんが、なんでわらわたちと話が通じるのか、疑問に思ったことはないのじゃろうな」
顔を見合わせると、大きなため息を吐きながら首を左右に振るルリと音羽。
「は? ルナはウサギだろ? 話が通じるのだってルリが魔法で何か仕込んでいるんじゃないのか?」
二人の話を聞いて、不思議そうに顔を傾げている瑛士。呆れたルリが口を開こうとしたとき、モンスターのもとに走っていったルナが戻ってきた。
「キューキュキュ」
「おお、お疲れじゃったのう。それでどんな感じじゃったのじゃ?」
「キューキューキュキュ」
「ふむふむ、あの二人が勝手にフロアに入ってきて、ちょっかいかけてきたと。そうしたら、勝手に仲間割れをし始めて、うっとうしかったから追い払おうとしたらやりすぎたと」
ルリの話を聞いていた瑛士が信じられないといった表情になり、目を見開いたまま口を開く。
「な……どういうことだ? このフロアに侵入って八階層だぞ!」
「驚くのはそこなのじゃな……」
的外れなところに驚く瑛士に対し、呆れはてて立ち尽くすルリ。するとその様子を黙って見ていた音羽が優しく声をかける。
「ルリちゃん……瑛士くんの天然は今に始まったことじゃないからね。どうせ話の内容は全然理解していないみたいだし、気にしなくて大丈夫よ」
「そうじゃのう……」
遠い目をして途方に暮れるルリの肩に優しく手を置き、目を閉じてわざとらしくため息を吐く音羽。ゆっくり目を開けると、足元で控えていたルナに話しかける。
「それで……私たちにどうすればいいって言っているのかしら?」
「キューキュキュ」
「ふむふむ、まずあの二人を回収してくれ。事情はあいつ等から聞けばいいだろう……その上でどうするかの判断は任せるって、言っているのね」
「キュキュ! キューキュキュ」
「自分たちは争うつもりはない。協力をしてくれるのであれば、我らが守っているものを渡そう……ほかの人間にわたる前に……ですって!」
「な……そ、それは本当なのじゃろうな!」
話を聞いたルリが大声を上げてモンスターを見ると、中央に陣取る凶猿王が深く頷く。
「うむ……間違ってはおらんようじゃな。そうとなれば早く助けねばならぬが、我らだけで運ぶのは難しいのじゃ。とりあえず、倒れている人物のもとに行って話を聞くのじゃ」
「そうね……何があったのか確認したいし、むやみに動かせる状況じゃないかもしれないわ。ということで、ほら動くわよ!」
固まったまま動かない瑛士の脛を思いっきり蹴り飛ばす音羽。
「イデっ! いきなり何をするんだ!」
「ボサッとしていないの! 早くけが人を手当てして、話を聞くわよ」
「あ、ちょっと待て! 話が全く見えないのだが……」
混乱する瑛士を無視して、モンスターの近くに倒れている人物のもとに向かって歩き始める三人。
この直後、助けた人物を見て言葉を失うことになるとは、まだ気が付いていない瑛士たちだった……
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