第4話 瑛士に人権というものは存在しませんでした
「ひ、ひどい目に遭った……」
怒り狂ったルナと純粋に遊びたかった翠に振り回され、全身が傷だらけになって床に倒れている瑛士。その姿を見て、ルリが薄気味悪い笑みを浮かべながら話しかける。
「ずいぶん楽しそうじゃったのう? ご主人もいい運動ができてよかったのじゃ」
「あれのどこが良い運動だ……一方的に蹂躙されたようなもんだろうが……」
顔の前にしゃがんで声をかけるルリに対し、恨みの籠もった視線を向ける瑛士。ルナと翠が地形と躍動力を活かし、蹴るわひっかくわと動き回る中で彼女たちはしっかり結界を張っていたのだ。そのおかげで二匹の動きに合わせて岩が崩れてきても、自分たちは傷一つ負うことはなかった。
「テメーらだけ安全圏にいて、俺は岩もアイツらの攻撃も全部生身の体で受けていたんだぞ?」
「そんなこと言われても困るのじゃ。わらわたちのキュートな顔に傷がついたら大変なのじゃ。そうじゃろ、音羽お姉ちゃん?」
文句を言う瑛士を見下ろしながら、近くに立っていた音羽へ話を振るルリ。
「そうね。女の子が傷物になったら大変でしょ? まあ、責任は全て瑛士くんが負うのは、決定事項だけどね」
「俺には拒否権というものが無いのか……」
「何を言っているのかしら? 瑛士くんに拒否権があると思っていること自体が間違っているのよ」
腕を組んで蔑むような視線を向ける音羽に対し、慌てて声を上げる瑛士。
「ちょっと待て! いつからそんな事になっているんだよ! 俺の人権はどこにいったんだ……」
「は? 人権って何かしら? 新しいおやつの名前だったかしら……」
「お前な……人として一番忘れたらダメだろうが……日本国憲法にも明記されていることだぞ」
「あー私たちと瑛士くんの間には存在しないものね。先日の最高評議会で決まったことだから」
「なんだよ……最高評議会って……」
不穏な言葉を聞き、呆れたように瑛士が問いかける。すると、質問を鼻で笑った音羽が呆れたような声で答える。
「そんなことも知らないの? メンバーは私、ルリちゃん、ルナちゃん、翠ちゃんよ」
「俺以外全員だろうが! お前ら何をしてくれているんだよ!」
目を見開いた瑛士が叫ぶと、わざとらしく大きなため息を吐いた音羽が子供に言い聞かせるように口を開く。
「いい? 最高評議会の決定はどの法令よりも重いのよ? それに瑛士くんは立場をわきまえたほうがいいと思うの」
「何を言っているのかさっぱりわからんのだが? お前ら……そもそもただの居候の身だろ……」
呆れ返った瑛士が思わず呟くと、口に手を当てた音羽がわざとらしく大きな声でルリに話しかける。
「ルリちゃん、今の言葉を聞いた? こんな可愛い同居人に対して『ただの居候』ですって! 美少女とキュートな動物に囲まれているというのに……」
「な、なんということじゃ……全世界が羨む環境にありながら、文句を言えるとは……これは下僕どもに報告して早急に対応を……」
「だー! お前のリスナーにはゼッタイ言うな! アイツらはマジで何するかわかったもんじゃない!」
ルリが下僕という名のリスナーに相談するという発言を聞き、全身から血の気が引いていく感覚に襲われる瑛士。彼がそこまで恐れるのは、以前、某国の王族を名乗る彼女のファンから連絡がきたからだ。なぜか家族のほかは音羽とルリしか知らないスマホのキャリアメールを特定されていたのだ。
「そもそも、なんで俺のメルアドが流出しているんだよ……どこにも登録もしていないのに……」
「そうじゃのう。わらわも知らないから驚いたのじゃ。さすが王族というだけあるのう。なんでも世界中にネットワークがあるとかなんとか言っておったのう?」
「お前のリスナーは敵に回せん……」
瑛士が地面に顔を押し付けていると、勝ち誇ったような顔で音羽が話しかける。
「ふふふ、これでわかったかしら? わかりやすく言ってあげるわ。あなたに拒否権は無いの、私は決定事項を伝えるまでよ」
「もっとひどくなっているじゃねーか!」
瑛士の絶叫が通路に響き渡ると、奥から鬼の形相でルナが近づいてくる。その勢いのまま彼の頭を蹴り飛ばす。
「イデっ! 何をしやがる!」
「ギューギュギュ―ギュ!」
「人が気持ちよくうたた寝しようとしたのに、邪魔するんじゃねーよ! 大人しく黙っていろ……だと? ふざけんな! 迷宮の通路だってわかっているのか?」
鳴き声を聞いた瑛士が怒りの声を上げると、両後ろ足を地面に叩きつけて怒りを露わにするルナ。
「ギューギュギュギュ!」
「何かあったらお前が対処しろ! 我らの睡眠を邪魔するな……って、アホか! さっさと八階層を攻略するんだろうが!」
勢いよく体を起こし、ルナを睨みつける。そして、再び火花を散らして一触即発の空気が流れ始める。その様子を見ていた音羽が呆れて口を開こうとした時、かすかに魔力が乱れるような感覚を覚える。
(いったい今の感覚は何? 魔力の乱れなんだけど、それ以外に違うものが混じっているような……命の灯が消えるような……)
何かに気がついた音羽が慌てて振り返り、八階層に続く通路の先に視線を送ると声を上げる。
「瑛士くん、ルナちゃん! ケンカはあとにして! 八階層からすごく嫌な空気が漂っている気がするの!」
今まで聞いたこともないような声を上げ、八階層に続く暗闇を睨みつける音羽。
いったい彼女は何を感じ取ったのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




