第3話 見えぬ異変が起きている?
「ん? 音羽、どうしたんだ?」
険しい顔をしたまま八階層に続く通路の先を睨みつける音羽を見て、瑛士が不思議そうに問いかける。すると彼女は怪訝そうな顔で答える。
「瑛士くんには聞こえなかった? 悲鳴のような叫び声がかすかに聞こえたような気がするの……」
「また聞き間違えとかじゃないのか? ほら、さっきも風の音が唸り声に聞こえたし」
話を聞いた瑛士が顔を傾げながら答えると、眉間にしわを寄せて黙ってしまう音羽。
(瑛士くんには聞こえてない……もしかして本当に風の反響音だったのかしら? でも、あんな甲高い人間の声が再現できる? どう考えてもありえないとしか……)
頭の中で様々な可能性を考える音羽。音は空気の振動によって発生し、障害物があれば様々な音階を奏でる。しかし、人間が叫ぶような音が聞こえたという事例は存在するものの、迷宮の通路が複雑な構造をしているとは考えられなかった。改めて瑛士に対して口を開こうとした時、ルリが思わぬ言葉を口にする。
「ふむ……八階層で何か起こったようじゃな」
彼女の言葉を聞いた瑛士が不思議そうに問いかける。
「は? 何を言っているんだ?」
「ご主人は何も感じんのか? かすかに空気と魔力に乱れがあるぞ」
「意味がわからん……お前らに言われてずっと魔力探知をかけているが、特におかしな点は無いぞ」
呆れたように瑛士が答えると、音羽が身を乗り出しながら食い気味にルリに話しかける。
「やっぱりルリちゃんも感じたのね! さっき変な悲鳴のような声がかすかに聞こえたの。瑛士くんに言ったら『風の音じゃないのか?』って言われたけど、どうしても納得できなくて……」
「ふむ……興味深い話じゃのう。わらわには悲鳴のような声は聞こえんかったが、何か異変が起こっているのは間違いないのじゃ」
音羽の話を聞いて、顎に手を当てて俯いたルリが答える。すると、バツの悪そうな顔をした瑛士が口を開く。
「お前らが揃っていうのであれば、何か起こっているかもしれんな……なあ、ルリ。魔力の乱れは間違いじゃないんだよな?」
気まずそうに瑛士が問いかけると、ルリが頬を膨らませながら苛立った声を上げる。
「はあ? わらわを誰じゃと思っておるのじゃ! カリスマ最強配信者のルリ様じゃぞ! ご主人より才能あふれるこの美少女を舐めてもらっては困るのじゃ!」
「なんか変な称号が追加されているし、自分で美少女とか言うな……」
瑛士が呆れ返っていると、真剣な表情をした音羽が話しかける。
「そうね、たしかにカリスマで最強の可愛さを持つルリちゃんなら不可能を可能にできるわ」
「音羽……お前まで何を言い出したんだよ……」
急に持ち上げ始めた音羽を見て、瑛士が大きく肩を落として項垂れる。すると調子に乗ったルリが胸を張って饒舌に話し始める。
「そうじゃろそうじゃろ! やはりできる音羽お姉ちゃんは違うのじゃ。そもそも、いままでずっと魔法の鍛錬もせず、サボっていたご主人には到底無理な境地じゃろうな」
棘のある言い方をしてくるルリに対し、思わず苛立った瑛士が反論する。
「あ? 言い方に悪意を感じるんだが? 別に魔力探知ぐらい俺でもできるわ!」
「ほう? 言いおったのう……それでは見せてもらおうではないか? ご主人の魔力探知がどれほどの精度を叩き出すのか楽しみじゃのう?」
不敵に笑うルリに対し、苛立ったような視線を向ける瑛士。そんな姿を見ていた音羽は、大きなため息を吐きながら呟く。
「はぁ……この二人はほんと何をしているんだか……瑛士くんもこんなわかりやすい挑発に乗るなんて。まあ退屈しないからいいけど……」
謎の睨み合いをする二人を見て、目を細める音羽。するとムキになった瑛士が宣言するように声を上げる。
「今から俺の本気を見せてやる! 今までの俺とはひと味も二味も違うところを見せてやるよ!」
「ほう? 大きく出たようじゃのう? さあ、わらわに見せてみるが良い、ご主人の進化というやつをな!」
勝ち誇ったような顔で某有名キャラの口調を真似るルリを見て、音羽が思わずツッコミを入れる。
「ルリちゃん……今のを配信していたら、まずいことになったかもしれないわ」
「そうなのか? まあ、わらわも尊敬するキャラが使っておったからのう。まあ、カリスマという共通点があるから大丈夫じゃろう」
「あーうん、まあ……大丈夫かな? でも、不用意な発言は何が炎上するかわからないからね……」
頬を引きつらせながら話す音羽を見て、ルリが不思議そうに顔を傾げる。そんなやり取りをしていると、魔力探知を始めていた瑛士が急に声を上げる。
「おい……これはどういうことだよ……」
先程までの表情から一変し、額から汗が滴りながら焦ったような声を上げる。すると、その異変に気がついた音羽がルリよりも先に声をかける。
「瑛士くん、どうしたの? すごい汗だし……」
「どうしたじゃないぞ……この反応はモンスターだけじゃない。いや、そんなはずは……」
真っ青な顔になり、言い終えるより早く地面を蹴り出して暗闇に向かって走り出す瑛士。
「ちょ、瑛士くん! どこにいくのよ!」
「ご主人! いったいどうしたのじゃ? ちゃんと説明してくれなのじゃ!」
二人が必死に叫ぶが、走り出した瑛士には届くことはなかった。
いったい彼は魔力探知で何を感じ取ったのだろうか?
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