第2話 謎の唸り声の正体とは?
「フシャ―!」
異様な唸り声のようなものが響き渡ると、翠が全身の毛を逆立てて威嚇するような大きな鳴き声を上げる。初めて見る姿に瑛士たちが困惑していると、ルリが近づき、片膝をついて声をかける。
「翠、どうしたのじゃ?」
「シャー!」
「うーむ、どうしたものかのう……」
ルリが声をかけても血走った目で威嚇を続ける翠。彼女に対して噛みついたり暴れることはないが、明らかに気が立っているのは明白だった。すると腕を組み、その様子を見ていた瑛士が口を開く。
「どうやらこの唸り声が原因みたいだな」
「そのようじゃ。八階層のモンスターが威嚇しておるのじゃろうか……」
眉間にしわを寄せたルリが答えると、瑛士が少し考え込むようなそぶりを見せながら答える。
「うーん、八階層のモンスターではないと思うぞ……こちらに向けた魔力や殺気も感じないし、そもそも動きがあるようには思えん」
「なんじゃと? じゃあこの唸り声の説明がつかないのではないか?」
瑛士の返答を聞いたルリが困惑した様子で声を上げると、音羽が落ち着いた声で話しかける。
「ルリちゃん。瑛士くんの言っていることは間違ってないわ。私も探りを入れてみたけど、魔力はフロアの中央付近に固まったまま動いていないの。だからこの唸り声のようなものは、全く別の要因だと思うわ」
「そ、そうなのか? しかし、そうなると説明がつかんのじゃが……」
二人の話を聞いたルリが困惑した顔で呟くと、わざとらしくため息を吐いた瑛士が声を上げる。
「はぁ……魔力探知はお前のほうが得意だろうが。苦手な俺でもわかるくらいだぞ?」
「む? 聞き捨てならんのじゃ。わらわだってそのくらいはわかっておるのじゃ! ちょっと翠の気持ちに寄り添うために、道化を演じておっただけじゃ」
「ほう? それならなんで最初から言わなかったんだ?」
「できるカリスマは多くを語らないのじゃ!」
顔を真っ赤にして苛立ったルリが声を上げると、再び大きく息を吐く瑛士。
「そういうことにしておいてやるよ……それよりも、この声の正体を知りたくはないか?」
少し呆れた瑛士が笑みを浮かべ、ルリに問いかける。すると彼女は目を見開きながら声を上げる。
「なんじゃと? ご主人はこの唸り声の正体をもう突き止めたのか?」
「ニャ、ニャーニャニャ!」
先ほどまで全身の毛を逆立てて威嚇していた翠まで正気に戻り、ルリと一緒に目を見開いて声を上げる。すると不敵に笑った瑛士が音羽に視線を送って話しかける。
「音羽、俺からネタばらししてもいいのか?」
「お好きにどうぞ。私は最初から気が付いていたし……このままじゃ先に進めないでしょ? もったいぶらずにさっさと終わらせましょうよ」
「そうだな……ルリと翠、ちょっと通路の左端に立ってみろ」
呆れた表情をした音羽に一蹴され、両手のひらを天井に向けて肩をすくめる瑛士。そのままルリと翠を手招きして、左手側の壁際に立たせる。
「ご主人、壁際に立ったのじゃが……これで何が分かるのじゃ?」
「ニャーニャニャ」
不思議そうな顔をして壁際に立つルリたちが声を上げると、瑛士が笑みを浮かべて口を開く。
「そこに立っていると何か感じないか?」
「何を言っておるのじゃ? こんなところに立って……あれ? かすかに風が吹き出しておるのか?」
壁に顔を近づけたルリが感じたのは、かすかに吹き出す風だった。
「ど、どういうことじゃ? 岩の壁から風が吹き出しておるじゃと?」
「ニャー?」
ルリと翠が不思議そうな顔で壁を見つめて触っていると、後ろにいた瑛士が得意げな顔で話しかける。
「迷宮は密閉空間ではないからな。通路とはいえ、岩でできているから隙間風が結構通るみたいだ。そして、一定間隔で強くなると……」
瑛士が言い終えると同時に風がわずかに強くなり、先ほど聞こえたような唸り声が通路に響き渡る。
「フシャ―!」
再び翠が全身の毛を逆立てて威嚇し始めると、何かに気が付いたルリが声を上げる。
「もしかして……この唸り声の正体は岩の壁と風の吹く音が関係しておるのじゃな!」
目を見開いて話すルリを見て、手を叩きながら感心したような声を上げる瑛士。
「ご名答、よくわかったな。一定間隔で迷宮内を風が吹き抜けるようだ。その時に不規則に穴が開いた岩の隙間を駆け抜けるとき、共鳴音が響くんだ。一つの音だけなら大したことはない……ただ複雑に入り組んだ地形と複数の音が重なると……」
「グアァァァァ!」
「こんな感じで咆哮に似たような音が響き渡るんだ」
結論付けた瑛士が話を終えると、目を見開いたまま固まるルリと翠。
「へ? どうしたんだ?」
二人の姿を見て驚いた瑛士が問いかけると、目を輝かせながらルリが声を上げる。
「なんということじゃ! そんな秘密が迷宮に隠されておったとは……」
「いや、割とよくあるというか……」
「むむむ……迷宮め……わらわを脅かして足止めしようなど、姑息な手を使いおって……」
答えが分かると急に怒りをあらわにし、こぶしを握り締めるルリ。そんな彼女に対し、呆れたように瑛士が話しかける。
「いやいや……これくらいは誰でも知っているというか……」
「これが孔〇の罠というやつなのじゃな!」
「そんなわけあるか!」
「それにしてもご主人……知っておったなら早く教えてくれても良かったのじゃないか?」
「いや、まあ、なんか真剣に悩んでいたし、言い出しにくかったという……いて!」
睨まれた瑛士が後ずさりしながら言い訳をしようとすると、後頭部に鈍い痛みが走る。慌てて後ろを振り返ると、全身の毛を逆立てて怒りをあらわにするルナの姿があった。
「ギュー!」
「なんでお前が怒っているんだよ!」
ただならぬ怒りを感じた瑛士が慌てて声を上げると、ルリが不敵に笑い始める。
「ふふふ……わらわたちをはめようとした罪は重いのじゃ。翠、ルナと一緒にたーっぷり運動してくるのじゃ」
「ニャー!」
嬉しそうに声を上げた翠が構えを取ると、瑛士がうろたえたように声を上げる。
「ちょ、ちょっと待て……こんな狭い通路で……」
瑛士が言い終えるより早く一斉に飛びかかるルナと翠。
その後、迷宮内に唸り声とは別の絶叫が鳴り響き、八階層のモンスターにも動きが出始めたとは――彼らは知る由もなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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