第9話 動き始めた宿敵
七階層のフロアがすさまじい熱風と爆発に包まれる中、先に避難していたルリが悲痛な声を上げる。
「な、なんということじゃ……再生途中に魔法を使うとあんな爆発が起きてしまうとは、知らなかったのじゃ……」
「まさかここまで被害がひどくなるとは、予想外だったわ……ちょっと草木が燃えるくらいだと思っていたら、別の可燃性ガスまで発生していたとはね」
未だ爆発音が鳴り響き、熱風が通路に伝わる七階層の入り口を見つめながら音羽が呟く。すると悲しそうな顔をしたルリが声を上げる。
「そうじゃのう……しかし、わらわの判断がもう少し早ければ、こんな悲しい事態は……
「ルリちゃん、気持ちはわかるわ。でも……私たちは前に進まなくてはいけないの。少しの犠牲はつきものなの」
「そうじゃな、音羽お姉ちゃん……この無念はきっと……」
音羽とルリがお互いを見つめ合い、深く頷いたところで背後から怒りに満ちた声が響き渡る。
「お前ら……人が犠牲になったような雰囲気を出しながら、話をするのはやめてもらおうか?」
服や髪の毛が所々燻っている瑛士が、二人を睨みつけながら話しかける。すると、音羽が舌打ちをすると、すぐに心配そうな顔で声を上げる。
「チッ……あ、瑛士くん。無事だったのね」
「おい、なんで悔しそうな顔をしながら舌打ちした? そんなに俺が無事なのが悔しいのか?」
「え? 何のことかサーッパリわからないわ。こんなに心配しているのに……舌打ちなんてしていないわよ?」
半目のまま無表情で話しかける瑛士に対し、目に涙を溜めて上目遣いで話しかける音羽。
「その涙は偽物だよな? さっき顔を伏せた時に目薬を差しているのが見えたぞ……わざとらしく心配しても何も響かないぞ」
「ひ、ひどい……私は本気で心配しているのに……」
顔を伏せて肩を震わせる音羽を見て、瑛士が小さくため息を吐くと問いかける。
「ほう? それは申し訳ないな……で、その心は?」
「瑛士くんが怪我をして、私なしで生きていけなくなる算段だったのに……でも、もうちょっと爆発が少ないと思っていたから、誘爆を始めた時はちょっと計画が狂っちゃったのよね」
「おい、本音がだだ漏れだぞ……」
音羽の言葉を聞いて瑛士が呆れたように声を上げる。すると、黙って話を聞いていたルリが口を開く。
「話は聞かせてもらったのじゃ! ご主人、何を怒っているのか知らんが、無事であったことを喜ぶべきではないか?」
「あのな……無事だったことのほうが奇跡だろうが」
「その奇跡を引き当てられたのじゃぞ? そんなに怒る理由がわからんのじゃ」
苛立ったように声を上げる瑛士に対し、ルリが小さくため息を吐きながら話し掛ける。
「あのな……一歩間違えればどうなっていたのかわからんのだぞ? それにコイツは爆発が起こるかもしれないと知っていたんだぞ?」
「そうかもしれんが、誘爆までは予測できなかったと言っておるじゃろ? それに万が一の時は音羽お姉ちゃんが責任を取ると言っておるのじゃから、何の問題もないじゃろ」
「あのな……コイツの責任を取るって言う言葉は、信用できないんだよ……」
まったく聞く耳を持たないルリに対し、額に手を当てて項垂れる瑛士。すると、顔をあげた音羽が近づきながら声をかける。
「ルリちゃん、私は大丈夫よ。まあ、瑛士くんが無事だったのは良かったわ……でも、次に何か起こった時は、ちゃんと私が全力で責任を取るから……ね?」
優しく声をかけながら鋭い視線を瑛士に向ける音羽。
「いや、そんな日が来ないことを祈りたい……」
凍てつくような視線が刺さり、頭の先から血の気が引いていく感覚に陥る瑛士。すると、その様子を見ていたルリが笑い声をあげる。
「ははは! ご主人は本当に幸せ者じゃのう!」
「どこをどう見たらそうなるんだよ……」
ご機嫌なルリとは対照的に大きく項垂れてため息を吐く瑛士。しばらく笑い声が通路に響いていたが、急に真剣な表情になって二人に話しかける。
「冗談はここまでなのじゃ。それよりもちょっとマズいことが起こりそうなのじゃ……」
「マズいこと? 何がだ?」
神妙な面持ちで声を上げるルリに対し、眉間にしわを寄せながら瑛士が問いかける。
「ご主人、わらわは八階層に用事があると言っておったじゃろ?」
「ああ、ずっと八階層に目的の物があるって言っていたな? それがどうしたんだ?」
「うむ……八階層にわらわの欠片、しかも主要な部分が隠されているようなのじゃが、どうやらそれを守るようにモンスターが集結しているのじゃ」
真剣な表情で語るルリを見て、目を細めた音羽が問いかける。
「ねえ、ルリちゃん。どうしてモンスターが集結しているってわかるの? 映像もないし、確認したくてもできないと思うんだけど?」
「音羽お姉ちゃんがいうことは一理あるのじゃ。わらわの欠片に本来はそんな力があるわけではない……しかし、なぜか八階層にある物が強くわらわと共鳴しておるのじゃ。そして、映像を見ているかのように、情景が頭に流れ込んでくるのじゃ」
泣きそうな顔になりながら訴えるルリを見て、瑛士が腕を組みながら声をかける。
「なるほどな……どんな部分の欠片かはわからんが、相当重要な部分なんだろうな。あと、音羽は気が付いていないかもしれんが、八階層を目指しているのは俺たちだけじゃなさそうだ」
苦虫を噛みつぶしたような顔で話す瑛士を見て、何かを察した音羽が真剣な表情で聞き返す。
「……嫌な感じはしていたけど、ついに動き出したのね」
「ああ、間違いないだろうな。なんとしてもヤツらより早く回収し、離脱しないとな……」
二人が険しい顔で語り始めると、怯えた表情をしたルリが問いかける。
「ふ、二人とも……動き出したって、もしかしてなのじゃが……」
「ああ、飯島女史自身が直々に動き出したみたいだな。明らかに八階層から流れ込む空気がおかしい……ちょっと覚悟をしておいた方がいいかもな」
ハッキリと言い切ると、まだ見えない八階層の入り口を睨みつける瑛士。ついに因縁の相手が動き出し、望まぬ再会が近づいていた……
最後に――【神崎からのお願い】
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