第6話 変りはてた七階層
目の前に広がる光景を目の当たりにし、音羽が言葉を失っていると、遅れてきた翠も全身の毛を逆立てたまま固まってしまう。そんな様子を見たルリが不思議そうな顔をして問いかける。
「音羽お姉ちゃんも翠もどうしたのじゃ?」
「どうもこうもないわ……な、なんなのよ、これは……」
全身を震わせながら指さした方向には、きれいさっぱり草木が消え去った平原が広がっていた。かろうじて木や水が流れていた跡は確認できるものの、モンスターの気配も一切感じなかった。すると、先に到着して呆然とフロアに立っていた瑛士が振り返りながら声を上げる。
「な、なあ……何があったらこんな更地になるんだ?」
口を半開きにしたまま問いかける瑛士を見て、気まずそうに視線を逸らす音羽。そして、隣にいたルリに小声で話しかける。
「ね、ねえ、ルリちゃん……迷宮のことって少しは知っていたわよね?」
「ん? まあ全部を知っているわけではないのじゃがな。しかし、これは見事な景色じゃのう」
問いかけを聞いたルリがあたりを見渡すと、腕を組んで感心したような声を上げる。
「ルリちゃん、感心している場合じゃないわよ! いったい何が起こっているの? 私が七階層を掃除したとき、モンスターは全部倒したけど草木までは刈り取ってないわよ」
「は? 私が掃除した? 音羽、お前が何かしたのか?」
思わず声に力が入り、瑛士の耳にも声が届く。すると鋭い視線を彼女に向けながら問いかける。
「え、あ、まあ……ちょーっと準備運動というか、様子を見に来たというか……」
「へえ? お前が様子を見に来ると、焼け野原のような状態になるんだ……って、そんなわけあるか!」
話を聞いていた瑛士がノリツッコミを披露し、音羽に対して声を荒げて詰め寄ろうとした時だった。
「ご主人、音羽お姉ちゃん、少しは落ち着かんか! なかなか見られないレアケースに遭遇しておるんじゃぞ? もっと喜んだらどうなんじゃ?」
腕を組んだルリがほほを膨らませながら声を上げる。しかし、二人には意味が分からず、そろってツッコミを入れる。
「お前な……レアケースかどうかは知らんが、この状況を見て『はい、わかりました』なんて言えるわけがないだろうが!」
「そうよ、ルリちゃん。今まで迷宮を攻略してきたけれど、こんな場面に遭遇したことなんてなかったわ! モンスターを駆逐しても残骸が残っているくらいだったし……」
二人の話を聞いていたルリは額に手を当て、大きなため息を吐きながら顔を左右に振る。
「まったく……少し考えればわかるじゃろうが。二人に聞くが、モンスターを駆逐した後、何が起こっておるか見たことがあるか?」
「攻略した後のフロアか? いや、どうなったのか見たことなんてないぞ」
瑛士が顔を傾げながら答えると、ルリが呆れたように話しかける。
「はぁ……ならば聞くのじゃが、一度攻略して駆逐したモンスターどもが一定時間たつと、何事もなかったように復活しているのはどうしてじゃろうか?」
「あ、言われてみれば……」
ルリの指摘を受け、瑛士の脳裏に浮かんだのはこれまでの階層で起きたことだった。以前自分たちが攻略したはずの階層が、すべて元通りに復元されていたのだ。しかもモンスターたちも一度対峙しているにもかかわらず、まるで初めて戦うかのように敵意をむき出しにして向かってきた。しばらく考え込んでいると、勝ち誇ったような顔をした彼女が話しかけてきた。
「おや? ずいぶん悩んでいるようじゃが、まだわからんのかのう?」
「こいつはすぐに調子に乗りやがって……まあいい、多分これが結論だろうからな」
笑みを浮かべて煽るように話しかけるルリに対し、苛立ちを覚える瑛士。しかし、すぐ冷静になると静かに語り始める。
「以前聞いていたことを忘れていたぜ……迷宮はある一定時間がたつと、モンスターや地形を含め自己修復機能が働く。つまり、ゼロからやり直しになるということだ。そのためにクリアした階層に応じてショートカットできる通路が出現する……そういうことだろ?」
「ほう、よく思い出したのじゃ。まあ、正解ということにしておいてやろう」
瑛士の返答を聞き、感心したような声を上げるルリ。その彼女の姿を見て少しいらだったように口を開く。
「なんでお前がそこまで偉そうなんだよ……」
「ふふふ、わらわのようなカリスマに褒められてうれしいじゃろ? なあ、どんな気持ちなのじゃ? 自分で答えにたどりついた気分はどうなのじゃ?」
「うっぜぇ……ちょっと優位に立っただけでここまで煽れるやつ初めて見たわ……」
気味の悪い笑顔を浮かべて煽り倒すルリ。そんな二人を見ていた音羽が、割って入るように話しかける。
「ねえ、ルリちゃん。言いたいことはだいたいわかったのだけど……もしかして、今の状態って急速に迷宮が修復を始めているってことでいいのかしら?」
「さすが音羽おねえちゃんなのじゃ! どこぞの誰かさんとは違って理解が早いのう。まさにその通りなのじゃ。このフロアはまさに修復されていく真っ最中なのじゃ。こんな様子を目の当たりにできるなんてすごく幸運なのじゃ」
勝ち誇った顔で胸を張ったルリが声を上げた時、眉間にしわを寄せて怪訝な表情で音羽が口を開く。
「やっぱりね……ってことは、私たちが置かれている状況って……」
何かに感づいた音羽が不穏な言葉を口にする。
彼女が言うよくない状況とは何を指しているのだろうか?
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