第5話 噛み合わない二人
先に突っ走っていった瑛士の声が七階層から響くと、音羽は額に手を当てながら大きなため息を吐く。
「あーやっぱりそうなっちゃうわよね……」
困ったような顔で音羽が呟くと、隣にいたルリが慌てた様子で話しかける。
「音羽お姉ちゃん、ご主人たちに何かあったのかもしれん……」
「あーうん、なんとなく心当たりはあるんだけど……」
「すごい異変が起こっているのかもしれぬ」
「そうね。あの惨状を見たら……ね。たしかに異常だわ」
微妙にかみ合わない状態で話が進む。すると、ルリが腕を組み、眉間にしわを寄せて話しかける。
「うむ……音羽お姉ちゃんの言うように異常事態が起こっているのは間違いないのじゃ。翠の怯えた様子、ご主人の叫び……ただ事ではないのじゃ」
「まあ、そうね。想定外のことが実際に起きちゃったわけだし」
「間違いないのじゃ……おそらく音羽お姉ちゃんが七階層を出た後に、異変が起こったと考えられるのじゃ」
「私が七階層を出た後に……へ?」
流していた言葉を聞いて、我に返った音羽が素っ頓狂な声を上げる。すると、ルリが深く頷きながら真剣な表情で語り始める。
「おそらく異変を起こした犯人は、まだ七階層にとどまっていると思うのじゃ。そして翠はその一部始終を目撃しておった……そう推理するのじゃ」
熱く語り始めるルリを見て、音羽が呆然としていた時だった。ルリの腕に抱かれた翠が左右に勢いよく顔を振っていた。
「あのー、ルリちゃん? 翠ちゃんが違うって感じで首を振っているように見えるんだけど」
音羽の言葉を聞き、今度は顔を勢いよく縦に振り始める。そのタイミングでルリが顔を下に向け、何かに気が付いたように口を開く。
「音羽お姉ちゃん、これを見るのじゃ! 翠は横に首を振るどころか、肯定するようにうなずいておるのじゃ」
「いや、それは私の言葉を聞いてだから……」
「そんなことはないのじゃ。わらわの名推理を聞いて納得しているに違いないのじゃ」
ドヤ顔になりながら大きく頷くルリに対し、翠が必死に横に振ってアピールする。しかし、彼女には全く届かない。
「ふふふ、この名探偵ルリに任せるのじゃ。どんな異変であろうともズバッとまるっとお見通しなのじゃ! まあ、いざとなったら全部吹き飛ばしてしまえばいいだけなのじゃ……そう、どこぞの世界にいるという巫女のように」
「だー! ちょっとストップ! その解決方法はダメでしょ!」
とんでもないことを言い出したルリに対し、思わず大声でツッコむ音羽。
「え? 何がいけないのじゃ? 異変の解決のためには、目の前にいたら誰であろうとぶっ飛ばして行けという教えが……」
「それは間違いじゃないけど、ルリちゃんは巫女さんじゃないでしょ?」
「それもそうじゃな。どちらかといえば魔法使いのほうが近いのじゃ……ということは、マスター」
「それ以上は言わせないわ! どっちにしろぶっ放すのはダメ! ルリちゃんが本気で吹き飛ばしたらどれほどの被害が出るか……」
ツッコミ役の瑛士がいないため、必死に止めに入る音羽。すると不貞腐れたような顔をしたルリが、口をとがらせながら呟く。
「むー、わらわもかっこよく魔法をぶっぱなしたいのじゃ。弾幕ごっこをしたいのじゃ」
「気持ちはわかるけど……七階層でそれをやったら瑛士くんとルナちゃんも巻き添えを喰らうわけだし」
「まあルナは心配いらないのじゃ。躱すのは得意と言っておったし、普段から弾幕シューティングも一緒に見ておるからな。まあ、ご主人は……頑張ってもらうのじゃ」
目を逸らしながら話すルリを見て、音羽が大きなため息を吐きながら声を上げる。
「まあ……瑛士くんはほうっておいても何とかするからいいのかしら」
「そういうことなのじゃ! それではわらわたちも七階層に向かうのじゃ」
「あ、ちょっと待って!」
高笑いをしたルリが七階層に向かって歩き始めると、慌てて彼女の後ろを追いかける音羽。
そして七階層の入り口に到着すると、呆然とした表情で立ち尽くす瑛士とルナに声をかける。
「おや? ご主人、そんなところにぼさっと立っていてどうしたんじゃ?」
「ああ、ルリか。どうもこうもねーよ……七階層の光景を見てくれ」
瑛士が指した方向を見たとき、ルリも思わず声を上げる。
「な、なんじゃ……これはいったいどうなっておるのじゃ……」
入口で固まる瑛士とルリを見て、大きなため息を吐く音羽。すぐに覚悟を決めたような表情になると、二人に向かって声をかける。
「そんなところで何を固まっているのよ? 七階層で何かが起こっているのは、わかっているんだし……」
「音羽も来たか……たしかに異変があったのは間違いないんだが、うまく説明できなくてな」
「まあ、気持ちはわかるわよ。結構ひどい惨状なんでしょ?」
何とも言えない表情で話す瑛士に対し、呆れたように声をかける音羽。しかし、彼から返ってきた返答は想定外の物だった。
「は? 惨状? 何を言っているんだ? なんかすごい勘違いをしているようだが……お前も見ろよ」
「はいはい、わかったわよ。どうせ血の海になった光景なんて見たところで……」
しぶしぶといった様子で音羽がフロアを覗き込んだ瞬間、思わず声を上げて叫ぶ。
「は? 何これ……ど、どうなっているのよ!」
目に飛び込んできた景色を見て、口元に手を当てて目を見開く音羽。
いったいどんな光景が彼女の目に映ったのか?
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