第3話 暗闇から突撃してきたのは?
通路の奥から伝わるただならぬ気配に音羽とルリが身構えていると、通路の奥の方から何かの鳴き声が響く。
「な、なんじゃあの鳴き声は?」
「ルリちゃん落ち着いて! 落ち着いて対処すれば大丈夫だから」
驚いて声を上げるルリを何とか落ち着かせるため、焦る気持ちを押し殺した音羽が声をかける。迫りくる恐怖に彼女も押しつぶされそうになっているが、必死に冷静さを保とうと試みる。
(ルリちゃんがパニックにならないように落ち着かせなきゃ……ここはいったん引いて対処するべきか否か……)
必死に考えを巡らせて対処法を考えるが、迫る気配はもうすぐ近くまで来ている。
「音羽……いや、ミルキー先輩、ここはいったん引いて態勢を整えたほうが……」
震える声でルリが恐る恐る提案すると、音羽が小さく顔を振って答える。
「ルリちゃんの気持ちはよくわかるわ……でも、私がここで迎え撃つわ!」
「は? な、何を言っておるのじゃ? 一人で立ち向かわせるわけにはいかないのじゃ!」
音羽の提案を聞いたルリが目を丸くして声を上げる。しかし、彼女の意志は固く、首を縦に振ろうとはしない。
「ルリちゃん、聞いてほしいの。私もいったん引いて態勢を整えるべきだと思ったわ。だけど、どう考えても相手がこっちに向かうスピードのほうが速すぎる……二人が背を向けるよりも、私が足止めして時間を稼いだ方が最善策なのよ」
音羽の口から語られる提案を聞き、即座にルリが拒絶の声を上げる。
「な、何を考えておるのじゃ! 絶対に嫌なのじゃ!」
「ルリちゃん、わかってほしいの……少しでも生存率を上げるためにも、協力して!」
「嫌じゃ! たとえわらわが助かったとしても、ミルキー先輩に何かあったら絶対嫌なのじゃ! わらわも残って戦うのじゃ!」
目に涙を浮かべ、必死の形相で訴えかけるルリ。その姿を見て音羽の心が押しつぶされそうになるが、心を鬼にして叫ぶ。
「わがまま言わないで! なんとしてもルリちゃんを逃がさないといけないの……それに、私はそんなにやわじゃないし……」
「バカなことを言うのではないのじゃ! 自分が良くてもご主人が悲しむ顔を見たくないのじゃ!」
「……」
咄嗟に出た瑛士の名を聞き、思わず黙り込んでしまう音羽。彼女が一瞬固まった隙を
見逃さず、ルリが畳みかけるように言葉を被せる。
「ご主人だけじゃないのじゃ、ルナもみんな悲しむことになるのじゃ……だから例え共倒れになったとしても、わらわがなんとしても守るのじゃ!」
「ルリちゃん……」
あまりに必死に訴えかける彼女の姿を見て、ついに音羽が折れる。
「負けたわ……ルリちゃん、協力してくれるかしら?」
「もちろんなのじゃ! わらわも全力で戦うのじゃ!」
音羽の言葉を聞いたルリの表情が一気に笑顔になり、目に輝きが戻る。すぐに右手で涙を拭うと、先の見えない通路を睨みつけながら声を上げる。
「さあ、わらわの力を見せる時が来たのじゃ! あ、言い忘れておったのじゃが……先ほどどさくさに紛れて配信は切断しておいたのじゃ」
片目を閉じていたずらっぽく笑いながら告げると、音羽が小さくため息を吐いて呟く。
「まったく……ルリちゃんはほんと抜かりないわ。でも、見られてないのであれば、思いっきり暴れても大丈夫ってことよね?」
「うむ、魔法を使おうが何をしようが自由なのじゃ。どうせ迷宮内で起きることは治外法権なんじゃろ?」
怪しい笑みを浮かべたルリが問いかけると、口角を上げた音羽が答える。
「ええ、間違いないわ……さあ、ルリちゃん。好きなだけ暴れまわるわよ!」
「望むところじゃ!」
二人が顔を合わせると目の前に広がる暗闇に向かって構えを取る。そして、どんどん近づいてくる謎の気配に向かって、音羽が先に一歩踏み出そうとした時だった。
「む? この感じは……音羽お姉ちゃん、ストップなのじゃ!」
「へ? ルリちゃん、どうしたの? 立ち止まる時間はないんだけど……」
「いや、この気配はもしかして……音羽お姉ちゃん、わらわが先に出て受け止めるから、しっかり支えてほしいのじゃ」
「は? 受け止める? 何を言っているの?」
言っている意味が理解できず、豆鉄砲を食らった鳩のような顔で聞き返す。しかし、そんな彼女のことなど気にすることなく、ルリが音羽の前に立つと両手を広げて立ちふさがる。
「ちょっとルリちゃん! 何をしているの? そんな無防備な構えは自殺行為よ!」
「大丈夫なのじゃ。わらわを信じてほしいのじゃ……一応万が一の時に保険も掛けてあるから心配ないのじゃ」
「いや、その万が一は起きてほしくないんだけど……」
音羽が呆れたように声を上げるが、ルリは前を見据えたまま動くことはない。
「まあ、よほどの万が一はないと思うのじゃ。それに……音羽お姉ちゃんも正体を知ったら納得すると思うのじゃ」
「は? 正体って何の?」
ルリの言葉が何を意図しているのか全く分からず、思わず顔を傾げる音羽。その直後、待ち構えていた彼女が声を上げる。
「音羽お姉ちゃん、来るのじゃ! しっかりわらわのことを受け止めてほしいのじゃ」
「は? え? ちょっと待って……」
我に返った音羽が慌てて身構えようとした時、ルリの胸に向かって超高速で何かが飛び込んできた。
「ぐふっ……ちょ、ちょっとは手加減をしてほしいのじゃ……」
飛び込まれた勢いのまま後ろに吹っ飛ばされるルリ。慌てて音羽が受け止めるが、あまりの勢いに二人は体をくの字に曲げたまま宙を舞う。
「ちょっ……これは聞いていないわよ……ええい、間に合って! 拘束」
音羽が必死に声を上げると、二人を包み込むように糸のようなものが蜘蛛の巣のように展開する。そしてクッションのように二人を受け止めると、何とか無傷で止まることができた。
「ふう……何とか間に合ってよかった……あのまま吹き飛ばされていたらどこかで壁に激突していたかもしれないわ……」
落ち着いた彼女が目を開けると、腕の中で身動きしないルリの姿が目に入る。
何かを受け止めたルリは無事なのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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