第2話 絶対にあれは見せられない
次々と流れるコメントを見て頭を抱える瑛士だったが、素早く左右に顔を振ると音羽たちに向き直って声をかける。
「リスナーの奴らはほっとこう。それよりも目的の八階層に行くためには、一刻も早く七階層を攻略しないといけない。そういえば音羽が担当するって言っていたが、俺とルナで片付けさせてもらってもいいか?」
「へ? いや、そこは譲れないわ……」
思いもよらぬ提案を受け、思わず断ってしまう音羽。その様子を見て不審に思った瑛士が怪訝そうな顔で聞き返す。
「どうした? お前一人で片付けることもできるだろうが、俺とルナもまだ動き足りない部分があるんだよな」
「キュ、キュー」
瑛士の言葉を聞いたルナが同意するように鳴き声を上げる。
「うーん、二人の気持ちはすごくよくわかるし、ありがたいんだけど……なんて説明したらいいのかしら……」
珍しく立場が逆転した様子が配信に映し出され、コメント欄もいつもと違う反応を示す。
≪チャットコメント≫
『あれ? いつものミルキーさんとなんか違わね?』
『珍しく困惑しているような気がする……』
『ご主人が優位に立っているだと……これは嵐の前触れか?』
『ミルキーさん、どうしたんだ?』
次々と流れるコメントを見たルリが音羽に近づき、耳打ちをするように声をかける。
「音……ミルキー先輩、ちょっとまずいのじゃ。七階層をもう攻略したと素直に話したほうが良いのじゃないのか?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど……ちょっとやりすぎちゃって大変なことになっているのよ」
「どういうことなのじゃ?」
不思議そうな顔で問いかけるルリに対し、こっそりスマホを取り出すと七階層の画像を見せる。
「こ、これは……」
あまりの惨状を目の当たりにしたルリが言葉を失い、顔を引きつらせていると音羽が小さくため息を吐きながら呟く。
「ほんとはここまでやるつもりはなかったのよ。だけど、ちょっと勢い余って……ね」
「いや、勢い余ったとかいう次元じゃないのじゃ……」
「こんな映像を配信に載せたら一発BANじゃない? ほら、最近規制も厳しくなったって聞いたし……」
「確かにそうなのじゃ。でも七階層をショートカットするわけにもいかないのじゃから……一時的に配信を切る方向にするのじゃ」
「そうね。それが間違いないと思うわ。あとは……瑛士くんたちをどう説得するかだけど……」
音羽とルリが視線を向けると、どこにあるかもわからないカメラに向かって意気込みを語る瑛士の姿が目に映る。
「七階層でも俺の勇姿を見せてやるから、ちゃんと判定しろよ!」
「キュ、キューキュキュ」
「あ? 張り切るのはいいけど足を引っ張るなだと? その言葉そっくりそのまま返してやるよ!」
勝手に盛り上がる瑛士たちを見て、リスナーたちもどんどん盛り上がる。
≪チャットコメント≫
『ご主人とルナちゃんの戦いもヒートアップしてきたぞw』
『いい加減大人になったらどうなんだwどうせ勝てないしw』
『間違いないw可愛さの時点で負けているしw』
『もうこの時点で勝敗決まってねwww』
言われたい放題の状況を見て、瑛士が思わず声を上げる。
「ふざけんな! お前らは絶対この外見に騙されているぞ! こんな悪魔のどこがかわいいんだよ!」
「キュー? キュキュ―キュキュ」
「あ? 可愛さは正義なんだからいい加減に認めろよ……だと? コイツは……絶対化けの皮を剥いでさらしてやる……」
視線がぶつかると火花を散らしてけん制しあう瑛士とルナ。その様子を見ていたルリと音羽は大きなため息を吐いて額に手を当てる。
「もう少し仲良くできないのかしらね……」
「まあ、ケンカするほど仲が良いとは言うからのう……わらわの配信では風物詩のようなものじゃからのう」
「そうだったわね……あ、もしかして……今がすごいチャンスじゃない?」
何かに気が付いた音羽が手を叩き、ルリに話しかける。
「なにがチャンスなのじゃ?」
「瑛士くんとルナちゃんがいがみ合っているでしょ? あの状態になった二人は周りが見えてないことが多いし……今のうちに七階層を見に行かない?」
音羽の提案を聞いたルリが目を見開き、驚いた表情で声を上げる。
「おお! さすがミルキー先輩なのじゃ! 確かにご主人たちはほっとけばいつまででもあの状態じゃしな。適当なところで配信をいったん終了しても気が付かないのじゃ」
「そうそう、何か言われても『あ、間違えて配信切っちゃったみたい』って言っておけばオッケーよ」
怪しげな笑みを浮かべて音羽がささやくと、同じような表情でルリが嬉しそうに答える。
「ふふふ……ミルキー先輩も悪じゃのう」
「ルリちゃん、そのセリフはフラグになるから言わないほうが……」
「そうと決まれば早速向かうのじゃ! 翠の行方も気になるのじゃからな」
ルリの言葉を聞き無言で頷くと、いがみ合う二人に気が付かれないようにこっそり動き始める音羽。そして、六階層の出口にたどり着き、そのまま七階層へ向けて通路を歩き始めてしばらくした時だった。何かが二人にすごいスピードで近づいてくる気配を感じ取る。
「む、音羽……ミルキー先輩、何かすごい気配がこっちに向かってくるのじゃ!」
「ま、まさか……モンスター? でも各フロアからは出てこられないはず……まさか突然変異種?」
「わ、わからないのじゃ……こんな狭い通路を狙うとは……」
安全なはずの通路が一気に張り詰めた空気に変わる。
彼女たちに迫るのはモンスターなのか、それとも……
最後に――【神崎からのお願い】
『面白い!』、『楽しかった』と思って頂けましたら、『評価(下にスクロールすると評価するボタン(☆☆☆☆☆)があります)』を是非宜しくお願い致します。
感想やレビューもお待ちしております。
今後も本作を書いていく強力なモチベーションとなります。感想を下さった方、評価を下さった方、本当にありがとうございます!




