閑話㉔-2 動き始める新たな思惑
瑛士たちと音羽が迷宮で無双をしていた頃。ドローンから送られる映像が映ったモニタールームに大絶叫が響き渡る。
「ちょっと……どういうことよ! いくらなんでもむちゃくちゃやりすぎでしょ! それに六階層なんて煙で肝心なところは見えないし、七階層は気がついたら血の海だし……こんな映像が迷宮アピールに使えるわけ無いでしょうが!」
目の前にある机を両手で叩き、怒りを露わにする飯島。たまたま居合わせた紀元が感心したような様子で声を上げる。
「有名配信者ともなるとすごいですね~。低階層とは言え、ここまで無双できるのはさすがですよ」
「何を呑気に感心しているのよ! どうするの、これ……せっかく使おうと思った素材が台無しじゃない!」
「そう言われましても……そもそも、他人の攻略配信を使おうってのがまずいんじゃないです? 博士自身も配信者デビューしていますし、これを機に配信をやってみてはどうでしょう?」
配信を見ていた紀元が不思議そうな顔で問いかけると、露骨に目を逸らして話をはぐらかす飯島。
「あーそうねー。でも、まだ時期が早いと言うか……真の配信者たるもの、満を持して登場した方がいいと思うのよ」
「……はあ? つまりまだやりたくないということでしょうか?」
話を聞いていた紀元が呆れた様子で聞き返すと、腕を組んだ飯島がドヤ顔で語り始める。
「そうよ! 私みたいな神配信者が現れたら、存在だけで大事になっちゃうでしょ? ここはみんなに華を持たせてあげているの!」
胸を張って答える飯島を見て、額に手を当てながら大きなため息を吐いて呟く紀元。
「有名配信者と言うか炎上配信者の間違いだと思うのですが……」
「あ? なにかいった?」
つぶやきを聞いた飯島が鋭い視線を向けると、紀元が両手を体の前に出して慌てて否定し始める。
「何もいっていませんよ! ほら、博士の配信ってアンチが湧きやすいから大変だなってことですから」
「そうね……私の才能が羨ましいのか、低俗なヤツラが噛みついてくるわ。まあ、そんな迷えるバカどもにも優しく手を差し伸べる配信者……ああ、罪深くて申し訳ないわ」
苦し紛れに言った言い訳を真に受け、満足げな表情を浮かべて悦に浸る飯島。そんな彼女の様子を見て、呆れ果てて口を大きく開けたまま固まる紀元。すると、ある階層が映ったモニターが視界に入り、思わず声を上げる。
「あれ? この階層ってどこでしたっけ?」
「何よ? 人がいい気分で話しているというのに……」
「そんなことよりもこのモニターを見てください! モンスターたちがなにかおかしな動きをしていますよ!」
紀元が声を上げて指し示したのは、八階層の映像を映したモニターだった。そこにはモンスターたちがある一箇所に集中し、何かを守るように円陣を組んでいる様子だった。
「ふーん、おかしなこともあるのね。ってか、モンスターたちって、こんな行動が取れるとは知らなかったわ」
「何を呑気なことをいっているんですか! あからさまな異常事態じゃないですか!」
「そうね、普通に考えたら異常事態……だけど、研究者としてこんな美味しい素材を放っておけないわ!」
慌てふためく紀元に対し、目を輝かせて話す飯島。
「ちょっと、博士……何を言っているのか理解できないのですが……」
「ふふふ、やはり超人的思考回路を持つ私の話は、高度かつ難解すぎたようね!」
「いえ、ただ単に何を言っているかわからないだけですが」
「そんなあなたに説明してあげるわ! モンスターどもは基本的に単細胞……つまり、考えるより先に行動するの」
「あーはい、そうですね」
ドヤ顔で語る飯島に対し、冷めた目線を送りながら棒読みの返答を返す紀元。
「私みたいな高貴な人間が操ってやって初めて統率が取れる……しかし、今、八階層で起きているのは突然変異のような事態。ということは、詳しく調査する必要があるわけなの」
「はいはい、そうですねー。でも、調査する人間なんてどこにもいませんよー」
やる気のない返事をしていると、小さくため息を吐いた飯島が呆れたように答える。
「ほんとあなたは何も考えていないのね……適任な人間ならすでにいるじゃない」
「は? そんな人間はいませんよ? うちの社員を向かわせるなんて危険なことできるわけがないですから! 突然変異であれば何が起こるかわかりませんし」
「ほんと何もわかってないわ……誰が社員を向かわせるって言ったの? あれを見なさい」
焦った紀元が食い気味に問いかけると、わざとらしく顔を左右に振ってあるモニターを指す飯島。
はたして彼女が指し示した画面には何が映っていたのか?
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