第8話 迷宮RTA開始
「ご主人、どうしたのじゃ? スマホを見つめたまま大声なんぞ出して、面白いものでもあったかのう?」
「面白いものじゃねーよ! 配信をしていたのであればなんで言わねーんだよ!」
画面から目を離した瑛士が睨みつけながら声を上げると、笑い声を上げながらルリが答える。
「言わないほうが面白いじゃろ? ちなみに先ほどのルナとのケンカもバッチリ配信されておるからのう」
勝ち誇ったような顔でルリは話した直後、瑛士のスマホの通知が次々と届く。
《チャットコメント》
『お? ご主人がようやく気が付いたみたいだぞwww』
『ルナちゃんとのケンカはいつ見ても見ごたえあるなw』
『はやくルリ様の姿を見たい!』
『ミルキーさんの声も聞こえているから、お二人の活躍が見られるかも?』
『ご主人とルナちゃんどっちが勝つか予想しようぜ』
『そんなのルナちゃんに決まっているだろw』
瑛士が見ているとわかっても言いたい放題書き込んでいくリスナーたち。すると、そのコメントを見た瑛士がスマホの画面に向かって声を張り上げる。
「テメーら、誰が負けるだと? そこまでバカにされたら見せてやろうじゃねーか……最速攻略というヤツを!」
声高々に瑛士が最速タイムを叩き出すと宣言すると、コメント欄が一気に盛り上がる。
《チャットコメント》
『ご主人のRTA宣言キタ――(゜∀゜)――!!』
『マジで? ホーンラビット戦の再来が?』
『ご主人の活躍も見たいけど、ルリ様の圧倒的な美しさを見たい』
『それな! ご主人の活躍はワイプでいいから、ルリ様のアップを願う』
『できればミルキーさんと解説をしてほしいかも』
『それな! 二人の声なら永遠に聞いていられる……ご主人の音声はカットでw』
相変わらず言いたい放題のコメント欄に対し、肩を震わせて怒りを露わにする瑛士。
「なあ、ルリ……こいつらに天誅をくらわす方法ってないか?」
「あーうん、気持ちはわかるのじゃが……余計なトラブルが増えるだけじゃから、おすすめはせんぞ」
「チッ……」
悔しそうな顔で瑛士が舌打ちすると、腕を組んで様子を見ていた音羽が呆れたように呟く。
「まったく……そんなことばかり言っているから、みんなにおもちゃ扱いされるのよ……」
「あ? やられたらやり返す、倍返しだって名言があるだろ?」
「それとこれは違うと思うけど……」
ドヤ顔で語る瑛士を見て、音羽が額に手を当てて大きくため息を吐く。すると、何かに気が付いた瑛士が不思議そうな顔で問いかける。
「そういえば音羽、配信を開始しているのにお面を付けなくていいのか?」
「あ、大丈夫よ。ルリちゃんと私は画面に映らない設定になっているから」
「は? 画面に映らない?」
音羽の言っている意味がわからず、顔を傾げている瑛士。彼の様子を見て、笑みを浮かべながら彼女が口を開く。
「詳細はわからないのだけど、新機能の一つみたいよ。まあ、細かいことはいいじゃない」
「まあ、お前がいいって言うならかまわないが……」
納得のいっていないような表情で答える瑛士に対し、あることに気が付いた音羽が問いかける。
「そういえば……こんなところでのんびりしていてもいいの?」
「何がだ? 別にのんびりしているつもりはないぞ」
「あっそ、気が付いているとは思うけど……ルナちゃんならさっき六階層の入り口に向かっていったけど?」
「……は? アイツ、抜け駆けしやがったのか!」
入口の方を指さしながら音羽が指摘すると、慌てて周囲を確認して激高する瑛士。
「いやいや、リスナーとレスバまがいなことをしている瑛士くんが悪いでしょ。早くしないと先を越されちゃうかもね」
「なんだと? まあいい……ハンデをくれてやったということにしておいてやろう」
煽られた瑛士が顔を引きつらせて強がる様子を見て、リスナーが再び盛り上がる。
《チャットコメント》
『ご主人、素直に負けを認めたほうがいいんじゃねw』
『スタートから出遅れているじゃんwww』
『お手並み拝見といこうか』
『ルナちゃーん、ご主人に負けるな』
『勝負は始める前に終わっていたwww』
次々と流れるコメントを見て、瑛士の額に青筋が浮かぶ。しかし、ゆっくり深呼吸をすると、落ち着いた声で呟く。
「好きに言えばいいさ。さて……俺も始めるか。音羽、ここからは瞬き厳禁だぞ」
「はいはい、わかっているわ。まあ、ケガをしないように頑張ってね」
小さく息を吐いた音羽が声をかけると、ゆっくり歩き始める瑛士。そして、六階層の入り口に立つとゆっくり目を閉じ、構えを取る。その様子を見たルリが嬉しそうに声を上げる。
「ふむ、ご主人も準備万端のようじゃな! さて、皆の者、お待たせしたのじゃ! ご主人とルナによる迷宮RTA配信開始なのじゃ!」
力強くルリが宣言すると、リスナーたちも一気に盛り上がる。すると、構えを取っていた瑛士が急に彼女に向き直って声をかける。
「ルリ、俺のスマホを預かっていてくれないか?」
「ん? どうしたのじゃ? それは構わないのじゃが……」
「いや、攻略に集中したいからな。頼むぞ」
言い終えると同時にルリに向かってスマホを投げる瑛士。放物線を描いて飛んでくるスマホを彼女が受け取ると、再び構えを取る。
「さて、始めるか……」
短く呟くと同時に瑛士の体が僅かに揺らいだ次の瞬間、フロアの中から悲鳴のような鳴き声が次々と響き渡る。
「は? いったい何が起こったのじゃ?」
「ルリちゃん、もう遅いかもしれないけど……フロアの様子を見に行きましょう」
何を言っているのかわからないまま、促されるまま六階層に足を踏み入れるルリ。
この直後、彼女たちは信じられない光景を目にすることになろうとは……
最後に――【神崎からのお願い】
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