第6話 瑛士に突きつけられた選択
「はあ? ルールって何のことだ?」
ルリの言葉を聞いた瑛士が眉間にしわを寄せ、怪訝そうな顔で聞き返す。
「そのままの意味じゃ。このまま好きにやらせたら、ご主人とルナのことじゃ……自分が先だと言い張って大喧嘩するじゃろ?」
「う……」
「キュ、キュー」
考えを見抜かれた瑛士とルナはお互い目をそらし、明後日の方向を向く。その様子を見ていた音羽は、額に手を当てると大きなため息を吐きながら話しかける。
「ほんと何を張り合っているのよ……」
「あのな、音羽……男には負けられない戦いってものがあるんだよ」
「キューキュキュキュ!」
音羽の言葉を聞いた瑛士とルナが揃って抗議の声を上げるが、彼女から痛烈なひとことがとんでくる。
「でも、ルリちゃんと私には勝てないんでしょ? さっきも秒で屈していたし」
「う……あ……それは……」
「キュ……」
口を開けたまま固まる瑛士とルナを見て、ルリと音羽が大きなため息を吐いて声をそろえる。
「ほんと男ってくだらないわ(のじゃ)」
「ぐはっ!」
「ギュ!」
まるで撃ち抜かれたかのように胸を押さえ、後ろに倒れこむ瑛士とルナ。その姿を見て、あきれた表情で話を続ける二人。
「まったく……どうしてこうバカなことに全力を尽くそうとするのじゃろうか」
「ほんとにね。まあ……男の子っていつまでたっても成長しないっていうし」
「そうじゃのう。まあ、今回ばかりは攻略が早く進むことじゃし、助かるのは間違いないのじゃがな」
「そこは同意するわ。私たちは安全になったところを進めるわけだし」
二人が笑顔で談笑していると、少し回復した瑛士がゆっくり立ち上がって話しかけてきた。
「ふ……見事なカウンターだったぞ。まさか言葉だけでここまで打ちのめしてくるとはな」
「音羽お姉ちゃん、なんかわけわからないことを言っておるのじゃ」
「無視していて大丈夫よ。相手をするほうが疲れるから」
完全に無視して話を進める二人に対し、瑛士が声を上げる。
「お前ら……少しは人の話を聞いたらどうなんだ?」
訴えるように声をかけるが、無視を決め込んでいる二人は見向きもしない。その態度を見て、こめかみに青筋を浮かべた瑛士がいら立ったような声を上げる。
「何を無視しているんだよ! ルールか何だか知らんが、早く説明しろ!」
「ああ、そうじゃったのう。ルール説明がまだじゃった……でも、こんなに怒り狂ったような声と態度では説明するのがこわいのう」
「そうね……瑛士くん、何をイラついているか知らないけど……もうちょっと言い方というものがあるんじゃないかしら?」
「うっ……」
声を聞いた音羽が鋭い視線を向けると、威勢の良かった瑛士が一瞬たじろぐ。しかし、すぐ我に返ると再び強気な態度で反論し始める。
「い、いや俺は負けないぞ! どんなルールを決めたのかは知らないが……当然公平なものじゃなければ認めないからな!」
「何を警戒しているのかしら? 公正公平に決まっているでしょ? ま、何を言ってもどうせ納得しないのはわかっているけど、本来の目的はさっさと八階層を目指すことよ? もちろん理解しているわよね?」
圧をかけるように聞き返す音羽に対し、額から汗を流しながらなんとか反論しようと試みる瑛士。必死に考えを巡らせるが、反論できる言葉が見つからずに黙り込んでしまう。すると、その様子を見て、彼女が畳みかけるように話しかける。
「ほら、反論できないんでしょ? 黙ってルリちゃんの言うことを聞いておいたほうがいいわよ。ルナちゃんはとっくにおとなしく待っているのに」
「は?」
音羽の言葉を聞き、隣を見ると四つ足をついて真剣な眼差しを向けるルナの姿があった。
「お、お前……いつの間に……」
「キュー、キュキュキュ」
「は? グダグダ言っていないで早くしろ。ご主人の言葉が聞こえないだろ……って、この裏切り者が!」
「キュー? キュキュ」
「何を言っているんだ? ご主人がわざわざルールを決めてくださったんだぞって……お前はそれでいいのか!」
「キュー、キュキューキュ」
「いいも何も決まったことだろ。不正を疑われたくないなら、堂々としていろよって、お前が言うな!」
ルナの言葉を聞いた瑛士の怒りが爆発し、大声を上げた時だった。背後に人の気配がすると同時に首筋に冷たい金属の感触が伝わり、その場で固まってしまう。
「瑛士くん、元気がいいのは良いことだけど……もう少し落ち着いてくれると助かるな?」
「お、音羽さん……それは反則ってやつではないですか?」
「え? 何を言っているかわからないわ。大丈夫、私がいないと生きていけない体にしてあげるから……ね?」
「この状況でそのセリフは恐怖でしかないぞ……」
のど元に刀を突き付けられ、額から流れ落ちる汗が止まらない瑛士。妖艶な笑みを浮かべた音羽が、背中に張り付いて刀を構える。
「さて、選択肢は二つ……煮えたぎる血を抜かれるか、再起不能になるか好きなほうを選んでいいのよ?」
「それって選択とは言わないんですけど!」
楽しそうに問いかける音羽に対し、必死に訴えかける瑛士。そんな二人の様子を見ていたルリが、呆れたようにため息を吐いて話しかける。
「ご主人も音羽お姉ちゃんも遊ぶのは後にするのじゃ。あ、そうそう……ご主人の選んだ答えによっては、わらわも全力で協力するのじゃ。まあ……どっちの答えでもストレス発散になるからのう」
「お前らは人の命をなんだと思っているんだ!」
再び瑛士の絶叫が通路にこだますると、そのまま六階層のフロアにまで響き渡る。
そして、この行動がのちに彼の首を絞めることになるとは……まだ気が付いていなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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