閑話㉓ー6 勝手に弄った犯人は……
瑛士と音羽が五階層で話をしていた頃、一足先に六階層に向かったルリは険しい顔をしながら通路を歩いていた。
「さて、ここからは未知の領域じゃ。何が待ち受けておるのかわからんから、しっかり気を引き締めて進まねばならぬぞ」
「キュー、キュキュ!」
隣を歩いていたルナが元気よく返事をすると、ルリが満足げな表情を浮かべて大きく頷く。
「うむうむ、お前はよくわかっているのじゃ。まあ、わらわともなるとどんな事があっても動じることなぞ無いのじゃ」
「キュー?」
「ふふふ、心配することはないのじゃ。わらわが完成すればこんな迷宮なんぞ……むぎゃ!」
ルリが胸を張って語り始めた時、地面に落ちていた物体に足を引っ掛けてしまう。そして、そのまま顔面から思いっきり地面にぶつけて、変な悲鳴が響く。
「キュー! キュキュ!」
心配したルナが鳴き声を上げながらルリに駆け寄っていく。
「イタタタ……なんとか大丈夫みたいじゃ……」
「キューキュー!」
心配そうな顔をして必死にルリの顔に頭を擦り付けるルナ。その様子を見た彼女が体を起こし、優しく撫でながら声をかける。
「ルナ、心配かけて悪かったのじゃ。わらわは無事じゃから大丈夫じゃぞ」
「キュー……」
「なに? 自分がもっと周りに気を配っていればよかったじゃと? お主が気にすることではないぞ。ここは迷宮であり、予測できない事が起こることが普通じゃからのう」
「キュー、キュキュ」
話を聞いていたルナは小さく頷くと、少しずつ元気を取り戻し始める。その様子を見たルリが安心したような表情を浮かべ、辺りを見渡しながら呟く。
「しかし、フロア内であれば岩とか落ちていても不思議ではないのじゃが……一体何に引っかかったのじゃ……って、なんじゃ、この箱は?」
振り返ったルリの視界に映ったのは、見慣れない銀色の箱だった。ゆっくり近づいて拾い上げると、首を傾げながらまじまじと見つめる。
「なんか変な箱じゃのう……迷宮にもともとあるとは思えない物体じゃのう」
持ち上げてみたり左右に振り回していると、急に銀色の箱が光り始めて機械音声が流れる。
「起動を確認しました。エンターを押して次に進んでください」
「な、何じゃ? いきなり話し始めたのじゃ!」
驚いたルリの手から機械が離れると、近くで見ていたルナが器用に頭で受け止める。
「おお……ルナ、ありがとうなのじゃ。万が一落として爆発でもしたら大変だったのじゃ」
「キュー、キュキュ」
「気にしなくて大丈夫じゃと? ふふふ、さすができるウサギじゃのう」
「キュー!」
褒められて自信たっぷりな顔で鳴き声を上げるルナ。落ち着いたルリが頭に乗った機械を拾い上げると、小さい液晶画面に表示されたエンターという文字を押してみる。
「これで良かったのじゃろうか?」
ルリが顔を傾げていると、画面が切り替わって再び音声が流れる。
「起動を確認しました。通信を開始します……本体と離れているため完了できません。セーフモードを起動します」
「なんかよくわからんが、電源は入ったみたいじゃのう。ところでコイツは何の機械なんじゃろ? ゲームとかは入っておらんのかのう」
起動し始めた機械を見て画面をタップし、左右についているボタンを闇雲に押しまくるルリ。すると再び音声が流れ始める。
「管理者モードに移行します。パスコードを入力してください」
「は? パスコードって何じゃ?」
音声を聞いてルリが首を傾げていると、今度は画面が赤く光り始める。
「何じゃ? 急に画面が赤くなって……これはまずいんじゃなかろうか……」
額から滝のような汗が流れ落ちるルリに対し、機械から再び奇妙な声が流れ始める。
「コードD システムチェックを行ってください」
「……ルナ、これはわらわが壊したわけじゃないよな?」
「キュー、キュキュ」
「うむ。お主がいうように元から壊れていたのじゃな。そうに違いないのじゃ」
顔を見合わせると大きく頷いて話を合わせるルリとルナ。その間にも機械は音声を発し続けている。
「まったくうるさい機械なのじゃ……とりあえず電源を切っておくのが良いかのう?」
「キューキュキュ」
「そうじゃな! 再起動すればきっと直るのじゃ!」
わざとらしく大きな声を上げると、電源ボタンを長押しして強制終了を試みるルリ。しばらくすると、突然画面がブラックアウトして音声も止まる。
「ふふふ、これで証拠隠滅完了なのじゃ……さて、とりあえずご主人に渡しておくかのう」
機械を見つめながら怪しげな笑みを浮かべるルリ。謎の機械を手に持ち、瑛士たちがいる五階層へ来た道を戻り始める。
まさかこの機械が自分たちの運命を大きく左右するものだと――この時はまだ気がついていなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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