閑話㉓ー5 Xデーまでのカウントダウン②
飯島と紀元がモニタールームで議論を交わしていた頃、迷宮からほど近い警察署内の廊下に声が響く。
「桜井課長、本気ですか?」
「何のことだ? あと声のトーンを落とせ、ここは会議室では無いんだぞ」
「失礼しました……しかし、落ち着いていられませんよ! こんな横暴が上にバレたら……」
廊下を歩く桜井を呼び止めるように声をかけたのは、以前より面倒を見ていた部下の一人だった。真っ青な顔をして身振り手振りを交えながら話す姿を見て、大きなため息を吐くと呆れたように話しかける。
「あのな……別にいつものようにアポなしでガサ入れするわけじゃないんだぞ? 令状も取ってないし、あくまでも先日起きた爆発事故について事後処理という形で訪問するだけだ。さすがに騒ぎが大きくなりすぎてしまったからな……」
「あーたしかに……再オープンの日で観光客もたくさん押しかけていましたもんね。次々と現場の様子もSNSにアップされていましたし」
話を聞いていた部下が納得したように手を叩き、大きく頷く。その様子を見て、桜井は両手を天井に向けて顔を左右に振りながら声を上げる。
「だろ? 現場検証や調査の方はほぼ終わっているのだが、関係者の聞き取りがまだでな……要は厄介な後処理を押し付けられたというわけだ」
「そうなんですか? でもなんで課長が……」
「……飯島とは過去に色々あったからな……あとは、俺がやつの担当をしたほうが、いろいろと都合がいいんだろうな」
顔を背けながら話す桜井を見て、部下は拳を握ると悔しそうな声を上げる。
「な……そんなの……間違っています! 課長がいなければ、飯島が……もごもご!」
「バカっ! 声がでかいって言っているだろうが! ちょっとこっちに来い!」
再びヒートアップしはじめた部下の口を抑え、近くの会議室に引きずり込んだ桜井。入口のドアに鍵をかけ、廊下を歩く人の気配がなくなると部下の拘束を解く。
「ぷっはー! 課長、いきなり何をするんですか!」
「ドアホ! アレほど廊下で大声を出すなと言っただろうが! しかも別部署の上層部が近くにいたんだぞ……今の話を聞かれたらお前だって、どんな処分が下るかわからん」
「それは……すいませんでした……」
言葉を聞いて先程までの勢いが消えた部下は、項垂れながら謝罪する。そんな様子を見て、呆れたように小さく息を吐きながら話しかける。
「まったく……お前の熱い気持ちはすごく大切なことだが、もう少し周りに気を配れるようになろうな」
「すいません……自分、熱くなるとつい……」
「もう謝るな。これから気をつけてくれればいい。俺みたいに間違えなければいいだけだからな……」
落ち込む部下の肩に優しく右手を置くと、乾いた笑みを浮かべながら声をかける。その表情にはどこか寂しさも漂っていた。
「ありがとうございます。そう言えば……課長にはまだ言っていませんでしたが、今回の捜索には自分も同行することになりました」
慰められて元気が出た部下が顔を上げると、花が咲いたような笑顔で声を上げる。
「げっ……お前も来るのか……」
部下の言葉を聞き、露骨に嫌そうな顔になる桜井。
「課長! さっきと言っていることが違いませんか!」
心底面倒くさそうな顔をした桜井を見ると、顔を真っ赤にしながら怒り始める部下。
「気のせいだぞ……面倒くさいとは言った覚えはない」
「顔に書いてありますが?」
「まあ、ちょっと仕事が増えるしな……余計なことを言い出しそうだし……」
「ちょっと、課長! それはどういう意味ですか!」
思わず本音を漏らした桜井に対し、食って掛かる勢いで迫る部下。
「まあ、細かいことは気にしたら負けだぞ?」
笑ってごまかそうとする桜井に対し、顔を真っ赤にして猛抗議を続ける部下。しかし、その主張が彼に届くことはなかった。
(さてと……まさかこんなに早く飯島と直接対決の日が来るとはな)
未だ声を上げる部下を無視し、窓の外へ視線を向けると不気味に佇む迷宮が視界に入る。
(いつ見ても不気味な存在だな……飯島、お前が何を考えているのか知らないし、世界的権威の研究を成功させてきたのはわかっている。だが、そのためなら何をしても良いというわけではないんだ! 代償はきっちり払ってもらうからな!)
桜井の目が鋭くなり、その瞳には揺るぎないケツイがみなぎる。
はたして、彼は飯島との直接対決で何を得ることができるのだろうか?
運命の時は刻一刻と迫ってきていた……
――迷宮の家宅捜索実行まで残り六日――
最後に――【神崎からのお願い】
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