閑話㉓ー4 Xデーまでのカウントダウン①
「どうしたの? ずいぶん険しい顔をしているけど、このできる上司である私に話してみなさい!」
スマホを見つめて険しい顔をしていた紀元を見て、胸を張った飯島が声をかける。
「……博士、本当にできる人は自分で言わないですよ……」
「ふっ……それは自分に自信がない証拠ね! 自他ともに認められる私のような存在は、口にしても大丈夫と昔から決まっているのよ!」
「……初耳ですが……」
呆れ果てた紀元が額に手を当てて、大きなため息を吐く。そんな彼の姿を気にすることもなく、飯島は話を続ける。
「そもそも謙虚なのが美徳とか言う考え方が間違っているのよ。実績を上げた人間はもっとアピールして、賞賛されるべきだわ! だいたい私のような容姿端麗で、頭脳明晰な天才を認めない連中が学会のトップを牛耳っていることが問題なのよね……」
「いや、容姿はちょっとどころじゃない語弊があると言いますか……」
聞き捨てならない言葉が聞こえ、思わず紀元が呟く。すると、聞き逃さなかった飯島が鋭い視線を向け、声を荒げる。
「ねえ……誰の容姿が幼児体型だって?」
「いや、そんなことは言ってませ……」
「は? しらばっくれようったってそうはいかないわよ! こんなナイスバディーの私が目の前にいるっていうのに、あなたは何も感じないの?」
「は、博士? 何を言っているのでしょうか?」
意味が分からず目を丸くして固まっていると、満足げな顔をした飯島が腕を組みながら話し掛ける。
「ふふふ、私の魅力に気がついちゃったようね! ああ、部下の心を鷲掴みにするほどの魅力を持つ上司……なんて罪な女なんでしょう」
「……もうそれでいいですよ」
「そうでしょ、こんな素敵な上司を持ってあなたも幸せね!」
遠い目をして固まる紀元に対し、怪しげな笑みを浮かべて胸を張る飯島。そんなカオスな状況がしばらく支配していると、我に返った紀元が思い出したように話しかける。
「あ、そういえば……先ほど連絡が来たのですが、ちょっとマズい状況になりまして……」
「は? マズい状況? 何が起こったの?」
笑みを浮かべていた飯島が話を聞き、怪訝そうな顔で聞き返す。すると紀元がスマホに届いたメッセージを読み上げる。
「部下から届いた内容ですが……どうやら公安が視察という名の家宅捜索まがいのことをすると通告してきたそうです。それもなぜか会社ではなく、迷宮のスタッフフロアと観光エリアだそうです。どうしますか? 突っぱねることもできますが……」
「ふーん」
内容を聞いた飯島は目を細め、興味なさげに返事をする。想像と違う彼女の反応を目の当たりにした紀元が、慌てた様子で聞き返す。
「え? は? 博士、どうしちゃったんですか? 家宅捜索ですよ!」
「そうね、どうせ公安の一部署というか特定の人物が暴走しているだけでしょ?」
「だいたい本当に来るなら、わざわざ連絡するのって不自然でしょ? どうせ上の許可なんて取ってないんだろうし」
「た、たしかに……」
飯島の言葉を聞いて妙に納得する紀元。
(た、たしかに博士の言う通りだ……警察の捜索を受けたという話は聞いたことがあるが、朝一とか夕方に予告なしで突然来るって聞いた。じゃあ、今回の予告はいったい……)
訳が分からなくなった紀元が頭を抱えていると、怪しげな笑みを浮かべた飯島が話しかけてきた。
「何を難しい顔をしているの? そんなに悩むことなんてないでしょ」
「なんで笑っていられるんですか? どう考えても何かの策略としか……」
「そうね。でも……逆に利用してやればよいんじゃないの?」
「は? 逆に利用する?」
言っていることが理解できず、豆鉄砲を食らった鳩のような顔で固まる紀元。すると、畳みかけるように飯島が声を上げる。
「冷静に考えればわかると思うけど、後ろめたいことをしているのは向こうなのよ? 私が公安の上層部へ話したらどうなるか……わかるわよね?」
「ええ……圧倒的に向こうの立場が悪くなりますね」
「そういうことよ。だから好きにさせればいいのよ……まあ、主導権はこっちが持っているからね。ふふふ……」
さらに怪しげな笑みを浮かべて笑う飯島に対し、紀元の背筋に冷たいものが流れ落ちる。
(この感じはすごい嫌な予感がする……まあ、でも合法的に国家権力を脅せる機会なんて二度とないかもしれない。このチャンスを生かさない手はないかもしれないな……)
麻薬のように飯島の言葉が紀元の心に沁みわたり始めると、自然と笑みがこぼれ始める。
「ふふふ、アンタも思うところがあるみたいね。それなら作戦会議を始めましょうか……私たちに逆らうとどうなるか教え込むためにも!」
モニタールームに不敵な笑い声が響き渡ると、議論が白熱し始めた。
――迷宮の家宅捜索実行まで残り一週間――
最後に――【神崎からのお願い】
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