閑話㉓ー3 謎の組織による陰謀論?
更新が始まったモニターを満足げに飯島が眺めていた時だった。先ほど買ってきたジュースを飲もうと手を伸ばすが、虚しく空を切る。
「あれ? さっきここに置いたはずなんだけど……」
顔を傾げながら視線を向けると、コーラが入っていた缶が倒れて机の上を濡らしていた。
「にゃー! 何で倒れているのよ! しかも私がゆっくり読もうと思っていた雑誌まで濡れているじゃない! 誰よ、こんないたずらを仕掛けるのは!」
惨状を見た飯島が頭を抱え、ヒステリックな声を上げる。鬼の形相で室内を見渡すが、もちろん彼女以外誰もいるはずがない。先ほど思いっきり机を叩いた時、雑誌の上に置いたコーラが倒れたことが原因だった。しかし、自分が原因だったとは微塵も思わず、さらにヒートアップしていく。
「キー! ここまで私をバカにするとはいい度胸しているわね……こうなったら奥の手を使ってでも……」
飯島の顔に不敵な笑みが浮かび、不気味な言葉を呟いた時だった。モニタールームのドアをノックする音が響くと、外から声が聞こえてきた。
「失礼します。飯島博士、いらっしゃいますか?」
「いいタイミングで来たわね……中にいるわ。早く入ってきなさい」
来客の声を聞き、飯島の顔に明るさが戻る。すると、扉が開き、一人の人物が中に入ってくる。
「失礼しま……って、どうしたんですか? 不気味な笑顔を浮かべて……」
「いいところに来たわね、紀元。この部屋に侵入した者がいるの! さっさと捕まえたいからアンタも協力しなさい!」
部屋に入ってきた紀元が呆気に取られていると、真剣な顔をした飯島が声を上げる。
「はあ? モニタールームに侵入者ですか?」
「そうよ! このセキュリティー万全の部屋に侵入する不届き者がいるの。甚大な被害が出て大変なんだから!」
飯島の発言を聞いた紀元の表情が変わり、真剣な目で問いかける。
「なるほど……博士の身に被害が出ているとは、聞き捨てなりませんね。いいでしょう、すぐに部下を招集して捜索を開始します!」
紀元がスマホを取り出し、連絡を取ろうとした時だった。飯島が慌てた様子で止めに入る。
「そこまで大ごとにする必要はないでしょ! 被害と言ってもそこまで大きいわけじゃないし……」
大ごとになりそうな様子を見て、急にトーンダウンする飯島。そんな彼女の変化に対し、顔を傾げながら不思議そうに問いかける紀元。
「どうされたんですか? 被害が出ているのであれば、早急に調査しなければなりません。博士の身に何かあってはいけませんし……あ、そうか……失礼しました。男性を呼ぶよりも雫を呼んだ方が良かったですよね?」
「いやいや、そういう問題じゃないから! それに雫ちゃんも忙しい身だからね」
「まあ、たしかにそうですが……そういえば聞いていなかったですが、被害はどれほど出たのですか?」
顎に手を当てて考え込んでいた紀元だが、思い出したかのように手を叩いて問いかける。すると、バツが悪そうに視線を泳がせながら飯島が答える。
「え? あーうん、被害ね……」
「あれ? 博士……どうしたのでしょうか?」
紀元が不思議そうにしていると、机の上に倒れたコーラの空き缶とふやけてしまった雑誌が目に入る。何かを察した紀元が、怪訝な顔で話しかける。
「博士……机の上にある物についてお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ナ、ナンノコトカシラー?」
「まさかとは思いますが、被害とは飲んでいたコーラがこぼれ、雑誌が濡れてしまった……とかは言わないですよね?」
「そんなわけないでしょ! そこまで疑うのなら、モニタールームの監視カメラを見せればいいんでしょ!」
「あるなら最初から出してくださいよ……というか、それを見ればよかったんじゃ……」
怒りに任せた飯島が発した言葉を聞き、大きく項垂れる紀元。そんな彼のことなど気に留めず、慣れた手つきでマウスを操作し始める。
「これでいいんでしょ! はい、再生するわよ」
勢いよくマウスをクリックすると、モニタールームの様子が再生される。すると、飯島が何かを叫びながら勢いよく机を叩く様子が映し出される。そして、雑誌の上に乗っていたコーラが振動で転倒し、机上に勢いよく広がっていく。その様子を見ていた二人は何も言わずに顔を合わせる。
「……博士? どこに侵入者が映っているのでしょうか?」
「あれれ? おかしいな? きっとこれは……」
「これは?」
「謎の組織による陰謀に違いないわ! そう、きっとお酒の名前をコードネームに……」
「んなわけあるか!」
紀元の絶叫がモニタールームに響き渡った時、突然彼のスマホが通知音を鳴らす。
「ん? 誰だ? 今取り込み中だって言うのに……」
しぶしぶスマホを確認すると、急に紀元の顔が険しくなる。
いったい彼に届いた通知の内容とは何だったのだろうか?
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