閑話㉓ー7 翠の大冒険③
ルリとルナが六階層で拾った謎のスイッチについて話し合っていた頃、薄暗い通路を歩く小さな影があった。
「ふぁー暇だな……ルナさんたちはなんか変な機械に夢中だし、遊んでくれそうなモンスターもいないし」
大きなあくびをしながら呟いていたのは、つまらなさそうな顔をした翠だった。ふと立ち止まると、壁に設置してある松明を見つめながら声を上げる。
「ご主人も音羽さんもずっと待っているのに来てくれないし、どうしたんだろう……」
寂しそうな表情で俯いたとき、脳内にある考えが駆け巡る。
(通路がこれだけ薄暗いから、もしかして迷子になっちゃったのかな? ルリさんたちが先に行っちゃったからきっとそうだよね!)
目を輝かせながら顔を上げると、先ほどとは打って変わって笑顔で声を上げる。
「もう仕方ないな! 迷子になっているなら早く言ってくれたらよかったのに! 大丈夫、ちゃんと迎えに行って、ルリさんのところまで案内してあげるんだから! やればできるところを見せてあげないと!」
大きく頷きながら胸を張ると、堂々とした態度で五階層に向かって足を踏み出す。しかし、廊下は薄暗く、一人で歩く翠にとってはかなりの恐怖が襲い掛かる。
「だ、大丈夫……結構暗いけど、ルリさんたちといっしょに歩いてきたから……」
全身の毛を逆立て、自らを奮い立たせるように大きな声を上げる。そして、ゆっくりと歩き始めた時だった。背後で壁の一部が地面に落下し、岩が砕けるような音が響き渡る。
「ギャー!!!」
何でもない音なのだが、恐怖と緊張で極限状態になっていた翠を驚かせるには十分だった。その場で勢いよく飛び跳ねると、地面を蹴りだして一目散に五階層を目指し走り出す。
「なんか出た、なんか出た……きっとお化けだ!」
悲鳴に似た鳴き声が通路に響き渡り、ところどころ体を壁にぶつけながら突き進んでいく。その反動でもともともろくなっていた壁がどんどん崩れ、次々と岩が落下して地面に激突する。その音がどんどん増え、さらに翠の恐怖心をあおり始める。
「ニャー! どんどん近づいてくる! さっきよりも音も大きくなってきているし! ヤダヤダ、こっちに来ないでよ!」
目に涙を浮かべながら叫ぶと、全身から黒いオーラのようなものが溢れ出す。そして徐々に走る速度も上がっていき、いつの間にか五階層のフロアへ飛び込んでいた。その勢いはとどまることを知らず、フロアの中央で固まっていた銀牙狼に激突してしまう。
「ぎゃうん!」
情けない声が聞こえると、パニックになった翠は目をつむったまま叫ぶように声を上げる。
「わー! もう嫌だ! 先回りするなんて卑怯だよ! どっか行って!」
驚いた翠が全身の毛を逆立て、叫び声をあげると地面から真っ黒な槍が出現する。そして一瞬で銀牙狼たちを貫くと、霧が晴れるようにすぐ消えてなくなった。そして、地面にはモンスターたちの死骸が散乱していた。
「あ、あれ? いつの間にか五階層についていたの? なんでモンスターが全滅しているんだろ?」
力を放出して落ち着きを取り戻した翠が恐る恐る目を開けると、目の前には力なく横たわる銀牙狼たちがいた。意味が分からず不思議そうに顔を傾げていると、聞き覚えのある声が近くから聞こえてきた。
「なんか変な鳴き声がしたと思ったら……モンスターどもが全員倒れているぞ……」
「あれ? 瑛士くん、魔法でも使ったの?」
「バカ言うな。ずっと話していたお前に気が付かれず、魔法が使えるわけがないだろ」
「それはそうね……毛嫌いしている瑛士くんが、進んで使うとは思えないし」
「なんか棘のある言い方だな……でも、こいつらを一網打尽にしようと思ったら結構な魔力を使うぞ?」
瑛士と音羽が不思議そうに話している姿を見て、笑顔がはじけたように声を上げる翠。
「ご主人と音羽さんが倒してくれたんだ! やっぱりすごい!」
感激したように目を輝かせ、大きな鳴き声を上げる。
「ニャー!」
「あれ? なんで翠がここにいるんだ?」
「翠ちゃん、ルリちゃんたちと一緒じゃなかったの?」
二人は驚いた顔をしていたが、笑顔で飛び出してきた翠を優しく抱き留めると**、**優しく体を撫で始める。そして、銀牙狼の倒れている姿を見て、怪訝な表情をした瑛士が呟く。
「……翠の仕業……なわけがないよな」
笑顔でのどを鳴らす翠を眺めると、頭を左右に振って呟く瑛士。
この出来事からしばらく後、再び同じような光景を目にすることになるとは――彼はまだ知る由もなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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