第11話 改変されたプログラム
二人が楽しそうに話している傍ら、機械をいじっていた音羽の顔が急に険しくなる。そんな彼女の異変に気が付いた瑛士が声をかける。
「どうしたんだ? ずいぶん険しい顔をしているけど……」
「あ、うん……」
「音羽お姉ちゃん、どうしたのじゃ? 何か困りごとがあるなら、わらわに話すのじゃ」
心配そうな顔をした二人が話しかけると、少し困ったような表情で口を開く音羽。
「ものすごく言いにくいことなんだけどね……ルリちゃんが拾ってきてくれたこの機械……壊れているみたいなの」
「そうか、壊れていたの……って、マジか!」
言葉を聞いた瑛士が驚きの声を上げると、眉間にしわを寄せた音羽が少し困ったように答える。
「正確にはプログラムエラーが出ているみたいなのよね。おそらく無理やり動かした時に正規の手順で電源を切らず、無理やり停止させたのが原因かな」
「はあ? そんなことで壊れるってあるのか?」
話を聞いた瑛士が驚きの声を上げると、黙っていたルリが話しかける。
「ご主人、十分あり得る話なのじゃぞ。現代の機械は緊急用の電源ブレーカー機能が付いておるが、精密機器は取り扱いに注意が必要じゃからのう」
「いや、それはわかるんだが……」
胸を張って答えるルリに対し、苦笑いを浮かべて答える瑛士。すると、その態度を見て両手を空に向け、顔を左右に振りながらため息を吐く。
「はぁ……これだから素人は……表面上だけ知って、わかったつもりになっておるのじゃからのう」
「いやいや、お前よりも長くこの世で生きているからな?」
「ふふふ、それがどうしたというのじゃ。わらわは普段からパソコン等の精密機器を取り扱っておるからのう。ご主人よりも情報という物に精通しておるのじゃ」
「……まあ、そういうことにしておくか」
あまりに自信たっぷりに答えるルリを見て、大きなため息を吐く瑛士。彼の姿を見て勝ち誇ったような顔で話を続ける。
「ふふふ、時代の最先端をいくわらわに勝とうなど四半世紀早まったのじゃ!」
「……」
「まあ、そういうことじゃからあきらめるのじゃな。どんなものでも雑に扱えば壊れるということじゃ」
自信たっぷりに話すルリに対し、瑛士は何も言えずに固まってしまう。すると、二人のやり取りを見ていた音羽が呆れた表情で話しかけてきた。
「いい加減話を進めても良いかな?」
「あ、音羽お姉ちゃん。是非とも話を進めてほしいのじゃ」
「わかったわ……まあ、大方ルリちゃんの説明で間違ってはいないわ。だけど、それは家電とか市販品の話よ。今回のケースには当てはまらないわ」
「な、なんということじゃ……」
音羽の話を聞いて口を大きく開けて固まってしまうルリ。すると、我に返った瑛士が恐る恐る問いかける。
「ん? 今回のケースに当てはまらないってどういうことだ?」
「そのままの意味よ。たしかに家電とかだとショートしたりして壊れることもあるわ……だけど、今回は意図的にプログラムが改変されたみたいなのよね」
「意図的に改変された? どういうことだ?」
音羽の言っている意味が全く分からず、顔を傾げながら聞き返す瑛士。
「簡単に言えば、無理やりシャットダウンしたら一部機能が制限されるって感じかしら? 本体と接続して通信をしないと中途半端にしか使えないのよね」
「なんだそういうことか。てっきりルリが適当に弄って、壊したのかと思ったぞ」
「おい、ご主人……聞き捨てならない言葉が聞こえたのじゃが?」
瑛士の言葉を聞いたルリが苛立ったように声を上げると、彼が呆れた表情で答える。
「そのままの意味だろ? 拾った直後に訳も分からず触っていたのは、間違いないんだしな」
「じゃからといって壊すようなことはしておらん! わらわがご主人のような機械オンチではないからのう」
「あ? 誰が機械オンチだって?」
瑛士とルリの視線が交わると、空中で火花が散り始める。その様子を見ていた音羽は、大きなため息を吐いて手に持った機械を見つめる。
「まったくこの二人は……でも、この機械はそんな単純な物じゃないし、どうしたらいいのかな……」
機械を見つめながら困ったような表情を浮かべていると、足元に柔らかい感触が伝わってくる。視線を向けると、心配そうな顔をしたルナが体を擦り寄せていた。
「ルナちゃんも心配してくれているのかな?」
「キュー、キュキュキュ」
「え? あの二人はいつもの事だから気にする必要は無いって?」
「キュ、キュキューキュ」
「ふふふ、そうね。まあ、ああなったら放っておくのが一番ね」
小さく息を吐くとその場にしゃがみ、足元で心配そうに見つめるルナの頭を撫でる。
「キュー、キュキュ」
「ありがとう。少し気持ちも楽になったわ」
「キュキューキュ」
「そうね、まず六階層を攻略しないと話にならないわ……まあ、飯島女史がどんな罠を仕掛けているのか知らないけど、全部潰せばいいだけの話だしね……」
ルナの頭を撫でながら、六階層に続く出口を睨みつける音羽。そして、目を細めると何かを決意したように呟く。
「やられっぱなしじゃつまらないもんね……こっちも反撃に出ないと……ルナちゃん、また頼まれてくれるかしら?」
「キュー?」
ルナにしか聞こえないような小声で呟く音羽。その言葉を聞いたルナが目を輝かせて、大きく頷く。
「さあ、飯島女史……反撃開始よ。今までのようにうまくいくとは思わないことね」
言い終えた音羽の目には確かな決意が宿り、覚悟を決めた表情になっていた。
この後、お互いが仕掛けた罠により誰も予想できない事態が待ち受けているなど――知る由もなかった。
最後に――【神崎からのお願い】
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