第10話 やはり爆弾は仕込まれていた
目を見開いた音羽が叫ぶように声を上げて一歩踏み出した時、ルリの前に立ちふさがるように瑛士が割って入る。
「音羽、落ち着け。また同じことをするつもりか?」
「え、あ、ごめんなさい……」
瑛士の顔を見た音羽は一瞬で冷静さを取り戻し、申し訳なさそうに謝る。そんな彼女の姿を見て、小さく息を吐くと優しく話しかける。
「まったくお前は……と、言いたいところだが、そこまで焦るということは、何かあるんだろ? ちゃんと聞いてやるから落ち着いて話してみろ」
「うん……ルリちゃん、驚かせてごめんね」
瑛士の後ろに控えるルリに対し、声をかける音羽。すると、ルリは顔を覗かせて笑顔で答える。
「大丈夫じゃよ。さっきのように迫られるとちょっとビックリするだけじゃからのう」
「あはは、それは間違いないわ」
二人の視線が交わるとどちらともなく笑みがこぼれ、場の空気が一気に和み始まる。しかし、すぐに真剣な表情になった音羽が口を開く。
「じゃあ本題なんだけど、さっきルリちゃんが言っていたコードDは……私が研究所で開発したエラーコードの一部なの。その時は何のことかわからずに指示書に従って構築していたんだけど……」
「そうだったのか? じゃあ、何を意味しているかも分かるんだな?」
話を聞いていた瑛士が真剣な表情で問いかけると、少し顔を曇らせた音羽が口を開く。
「うーん、その時と内容が変わっていなければだけどね……私が書いていた時のコードDは『予期せぬエラーが発生したため、本体及び外部通信を遮断します。開発者IDを入力し、該当エラーの復旧及び修復を行ってください』だったと思う。一定時間経過すると、自動修復モードに入るんだけど……ちょっとね……」
「ん? 自動修復モードに入るのであればいいんじゃないのか?」
説明を聞いていた瑛士が顔を傾げながら問いかける。すると、苦笑いを浮かべた音羽が、頬を掻きながら声を上げる。
「本来の機能は管理者がすぐに駆け付けられない場合の機能なんだけど……コードを書いていた時、虫の居所が悪かったというか……ちょっといたずら心が働いたというか……」
「ん? まあ気持ちはわからんでもないが、いったい何をしたんだ?」
「あーうん、ちょっとね……」
乾いた笑いを浮かべた音羽が目を逸らし、とんでもないことを呟く。
「本来ならエラーコードが発生したらすぐに自動修復モードに入るんだけど……隠しコマンドを入れないと、ロックされて開発者以外解除できないようにしちゃった、てへっ」
「はあぁぁぁ!」
音羽の口から飛び出した爆弾発言に大声を上げて驚く瑛士。すると、話を聞いていたルリが不思議そうな顔で問いかける。
「ご主人、何をそんなに絶叫しておるのじゃ? 別に管理者が隠しコマンドを入れたら済む話じゃろ」
「普通に考えればな……この場合の管理者ってのは開発した人間、つまり音羽以外に解除不可能だということなんだぞ」
「あー、なるほどなのじゃ。それの何が問題なのじゃ?」
事の重大さが理解できていないルリが不思議そうに問いかけると、瑛士が額に手を当てて大きなため息を吐く。
「例えばお前が配信で使うパソコンでも、何かトラブルがあると自動的に修正が入るだろ?」
「うむ。バックアップを取っているのか、フリーズする前の状態まで戻してくれるのじゃ」
「それが自動修復ってやつだ。その機能が使えないということは……永遠に動かない鉄くずの出来上がりってことだ」
「な、なんじゃと!」
ようやく意味を理解したルリが、目を見開いて大声を上げる。その様子を見て、瑛士が安心したように口を開こうとした時だった。
「まあ……わらわのパソコンや機材じゃないからヨシ! 何の問題も無いのじゃ」
「どうしてそうなるんだよ! もとはと言えばお前が適当に弄ったせいだろうが!」
「何をそんなに怒っておるのじゃ? 別にわらわたちには関係ないし、逆に好都合ではないか?」
声を荒げながら話す瑛士を見て、両手を胸のあたりに上げて手のひらを空に向けると、呆れたように答える。
「ご主人、落ち着いて聞くのじゃ。わらわが拾った物が飯島の開発した機械とは限らん。まあ、その可能性は高そうじゃが。そして、不利な状況に立たされているのはヤツラのほうじゃ」
「は? どういうことだ?」
「少し考えればわかるじゃろ? コードを解除するための必要な機械はわらわの手中にあり、隠しコマンドを知っている開発者が目の前におる。ということは……」
不敵な笑みを浮かべたルリの顔を見て、意図に気が付いた瑛士が声を上げる。
「そうか……俺たちが全てコントロールできる状況にあるってことか……」
「そういうことじゃ。まあ、このまま進むにあたって障害が起きては困るからのう。音羽お姉ちゃんにエラーを解除してもらうのじゃ」
言い終えたルリがゆっくり音羽に歩み寄り、機械を手渡しながら話し掛ける。
「音羽お姉ちゃん、あとは任せたのじゃ」
「ええ、わかったわ」
ルリから機械を受け取った音羽が、慣れた手つきで操作を始める。その様子を見た瑛士が小さく息を吐き、安堵したような声を上げる。
「ふう、これで何とかなりそうだな。安心して次の階層へ向かう準備を進めるか!」
「うむ! 六階層がどんなところなのかすごく楽しみなのじゃ!」
楽しそうに声を上げる二人に対し、どんどん顔が険しくなっていく音羽。
この直後、彼女の口から信じられない言葉が飛び出すとは――予想もしていなかった……
最後に――【神崎からのお願い】
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