第9話 謎のメッセージが指すもの
血走った目をしながらどんどん迫る音羽に対し、ルリが目に涙を浮かべ始めた時だった。
「音羽、少しは落ち着け……ルリがビビって何も話せなくなっているぞ」
「は? 意味が分からないんだけど?」
話を遮られた音羽が苛立った顔で振り返ると、額に手を当てて大きくため息を吐く瑛士。彼女の姿を見て、呆れたように声を上げる。
「はぁ……お前って昔から興奮すると周りが見えなくなるもんな……」
「なんか棘のある言い方ね。こんなに冷静沈着な私が、いつ取り乱したって言うの?」
「どの態度を見たら冷静沈着だって言うんだよ……ルリの顔を見てもそれを言えるのか?」
「何を言っているのか意味が分からないわ。ルリちゃんがどうしたって……」
瑛士を睨みつけて後ろを振り返ると、音羽の目に映ったのは身を縮めて生まれたての小鹿のように震えるルリの姿だった。
「あ……れ……? あの、その……ルリちゃん、なんかごめん……」
「べ、べつにいいのじゃよ……ただ、少し……怖かったのじゃ……」
「あう……」
ルリの返答を聞いて悲壮感たっぷりな顔で膝をつき、その場に崩れ落ちる音羽。何とも言えない空気がフロア全体に漂い始めた時、瑛士が大きなため息を吐いて口を開く。
「まったくお前は……もう少し加減という物を覚えろよ」
「そんなこと言われても……どうしても知りたかったんだもん」
「まあ、気持ちはわからなくはないが……ゼロ距離で詰められたら怖いに決まっているだろ」
「うう……」
追い打ちをかけられた音羽は何も言えず、その場に項垂れてしまう。すると、今度はルリに向き直って声をかける瑛士。
「ルリももう許してやってくれ。音羽も悪気があったわけじゃないからな」
「わかったのじゃ……音羽お姉ちゃん、もう大丈夫なのじゃ」
目にためた涙を右手で拭うと、顔を左右に振りながら笑顔で話しかける。そんな彼女の姿を見た音羽が今度は涙を流しながら、話しかける。
「るりぢゃん……ほんどごべんね……」
目から大粒の涙を流しながら、声を上げる音羽。
「まったく……もう少し落ち着いてから話せばいいものを……」
「だっで、だっで……」
呆れた瑛士が優しく声をかけるが、感情が爆発した音羽は言葉にならない声を上げながら泣き叫ぶ。
「あーもう、わかった。ちょっと落ち着くまで大人しくしていてくれ。ルナ、翠、頼んでいいか?」
心配そうに音羽の様子を見守っていたルナと翠に声をかける瑛士。すると、花が開いたような表情で嬉しそうに鳴き声を上げる。
「キュー!」
「ニャー!」
「よし、頼んだぞ」
言葉を聞いてすぐに音羽の元に駆け寄ると、体を擦り寄せて慰め始める。その様子を見て安心した瑛士は、ルリの元にゆっくり歩み寄ると膝をついて話しかける。
「ルリ、少しは落ち着いたか?」
「ああ、ご主人……すごく助かったのじゃ」
「それならよかった」
先ほどより顔色が明らかに良くなったルリの様子を見て、表情が柔らかくなる。そして、小さく息を吐くと、落ち着いた声で問いかける。
「なあ、さっきの話なんだが……お前が六階層で見つけた機械をもう一度よく見せてくれないか?」
「ん? この機械でよかったかのう?」
瑛士の言葉を聞いたルリは不思議そうな顔で、機械を手渡す。
「これがその機械か……どうやら何かのリモコンのようにも見えるな」
「そうなのか? たしかにボタンはいっぱいついておるのじゃが、押しても何の反応も無かったのじゃ」
ルリが差し出した物をまじまじと見つめ、瑛士が呟く。機械には複数のボタンと上部に液晶のようなものが付いていた。
「よく見たら液晶画面が液漏れしているもんな……これはお前が拾った時からこうだったのか?」
「うむ。見たらわかるのじゃが、本体にもところどころ傷がついておるのじゃ。おそらく高いところから落ちてそのまま跳ねてしまったんじゃろうな」
ルリの言うように本体に無数の擦り傷やへこみが付いており、そのままでは使える状態ではなかった。その姿を見た瑛士は小さく息を吐くと、残念そうにつぶやく。
「せめて電源だけでも入ってくれれば、ヒントがつかめそうだったんだが。それはそうと、お前が見た何かを動かしたような跡ってどんな感じだったんだ?」
「そのことじゃが……迷宮の床や壁は岩石を削ったようなものでできておるじゃろ? 入口の近くだけ、何かを引きずったような傷がついておったのじゃ。六階層の中に向かってではなく、反対側の壁に向かってなのじゃ」
「は? 反対側の壁に向かってだと?」
ルリの言っている意味が理解できず、顔を傾げながら聞き返す瑛士。さらに追い打ちをかけるように、彼女が奇妙なことを言い出した。
「そうなのじゃ。不思議なことに壁の下から奥に伸びたように見えたのじゃ」
「ますます意味が分からん……」
「わらわもわからんのじゃ。なんども壁を触ったり、叩いたりしたのじゃがびくともせんかったからのう」
顔を傾げながら不思議そうに話すルリの言葉を聞き、顎に手を当てて考えを巡らせる瑛士。
(壁に隠し通路があるのか? 俺たちが迷宮内にいるとわかっているはずなのに……)
次々と押し寄せる違和感に瑛士の顔がどんどん険しくなる。すると、ルリが突然何かを思い出し、手を叩きながら声を上げる。
「あ! そうじゃった! その機械を拾ってアレコレ触っていたら、変な音声が聞こえたのじゃ。たしか『コードD システムチェックを行ってください』じゃったかのう?」
「ルリちゃん、その音声は本当なの?」
瑛士とルリが顔を傾げていると、先ほどまで落ち込んでいたはずの音羽が驚いた顔をして問いかける。
彼女が聞いた音声といったい何の関係があるのだろうか?
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