第6話 三階層で消えた二人の謎
「どうしたもこうしたもじゃないわよ! なんでこの先の階層に罠が仕掛けられているってわかるのよ?」
我に返って音羽が声を荒げながら瑛士に詰め寄っていく。彼女の姿を見ると、瑛士は口角を吊り上げて話しかける。
「なんだ、そんなことか。飯島女史なら平気で仕掛けてくるだろ?」
「それはそうだけど……でも、何が起こるかわからない迷宮内を転移させるなんて、できるわけがないじゃない!」
「まあ、そう考えるのが普通だよな。よく考えてみろ、音羽。奴は目的のためなら手段を選ばない……それに、三階層で俺が出会った男女を覚えているか?」
「えーっと……初めて迷宮に来た時に倒れていた人たちだっけ?」
顎に手を当てた音羽が思い出したのは、瑛士から聞いた不審な男女の話だった。瑛士とルリが三階層に初めて来たとき、なぜか探索者でもない二人がフロアに倒れていたのだ。そして、謎の基板を残してそのまま行方不明となる……のちに発覚したが、彼らは多重債務者で近くの町工場から何かを盗んで姿を消した人物であった。正規のルートでは厳格に身分証のチェックが行われるため、迷宮内部に入ることが不可能である。ではどうやって内部に侵入ができたのか? その点が最大の謎として立ちはだかっていた。
「ずいぶん悩んでいるみたいだな?」
眉間にしわを寄せ、しかめっ面をしている音羽に声をかける瑛士。すると、少しいらだったような声で答える。
「当たり前でしょ。あの二人が消えたことも謎だし、なんで迷宮内にいたかもわからないよ。隠し通路を知っていたとしても、中途半端なところにつながるわけがないじゃない。転移装置でも使って飛ばされない限り……」
「そう、普通に考えれば絶対に不可能だ。だが、今お前自身が言っただろ? 転移装置を使えば不可能じゃないって」
「……え、まさか?」
返答を聞いた音羽が驚いて固まっていると、瑛士が確信をもったような顔で答える。
「俺の見立てでは転移装置を使って、迷宮内部に侵入したと思う。そして、用済みになった彼らは秘密裏に処分されたか……迷宮のどこかに飛ばされたんだろう」
「……飯島女史ならやりかねないわね」
妙に納得した表情になり、顎に手を当てて深くうなずく音羽。すると、何かに気が付いたように顔を上げ、瑛士に問いかける。
「でも瑛士くん、その仮説通りにいったとしても……大掛かりな装置だったらすぐバレるんじゃない?」
「まあ、普通に考えれば絶対にバレる……が、アイツが何らかの方法で読書魔法を利用し、転移先を限定すればどうだろうか?」
「その方法なら不可能ではないけど……何らかの痕跡は残るんじゃないの?」
自信たっぷりに話す瑛士に対し、音羽が疑問をぶつける。すると、彼は待っていましたと言わんばかりに笑みを浮かべて答える。
「たしかに痕跡は残るだろうな。でもそんなへまをアイツがすると思うか?」
「絶対にしないわね」
「そういうことだ。ま、あくまでも憶測でしかないし、証拠もないけどな」
ため息を吐くと、五階層の出口を眺めながら遠い目をする瑛士。その姿を見て、音羽の脳裏に一抹の不安がよぎる。
(たしかに瑛士くんがいう方法はあり得るわ……でも、そんなうまくいくのかしら? 読書魔法自体はまだ解明されてないし、飯島女史の目的も不透明……何を企んでいるのかわからない)
苦虫を嚙み潰したような顔で音羽が考え込んでいると、その様子に気が付いた瑛士が声をかける。
「どうした? ずいぶん難しそうな顔をしているぞ」
「ちょっと気がかりなことが増えただけよ。ねえ、瑛士くん。読書魔法のことだけど……」
意を決した音羽が口を開きかけた時だった。
「ギャン!」
突然フロアにモンスターの悲鳴のような鳴き声が響き渡る。
「何が起こった? 音羽、モンスターの強襲が来るかもしれないぞ!」
「エリアボスがいたことを忘れていたわ……私はいつでも大丈夫よ」
瑛士の声を聞き、音羽が柄に手を当てて構えを取った時だった。二人の目に飛び込んできたのは、屍の山となったモンスターたちだった。
「あ……れ? なあ、俺にはモンスターどもが折り重なって倒れているように見えるんだが、気のせいか?」
「奇遇ね。私もおんなじ景色が見えているわ」
音羽の返答を聞き、瑛士の額から一筋の汗が流れ落ちる。そして、恐る恐る口を開く。
「じゃあ、幻ではなかったのか……音羽、いつの間に倒していたんだ?」
「それはこっちのセリフよ。瑛士くんこそすごいじゃない、目にもとまらぬ速さで一網打尽にするなんて……」
「いや、俺は何もしていないぞ……そもそも、アイツらの存在を忘れていたし」
「そうなの? まあ、私も無駄な殺生はしたくないから、気にも留めていなかったんだけど」
「どの口が言うんだよ……さんざん俺のことは痛めつけるくせに」
返答を聞いた瑛士が大きなため息を吐くと、驚いたような顔をした音羽が話しかける。
「え? だっていじめられるのを喜んでいるんじゃないの? ほら、よく言うじゃない。我々の業界ではご褒美ですって」
「俺にそんな趣味はねーよ! 毎回瀕死の状態まで追い込まれているんだよ、こっちは!」
「そうなの? でもうれしそうな顔をしているじゃない」
「お前の目はどうなっているんだ!」
瑛士と音羽が言い争いをし始めた時、モンスターのそばで小さな影が動く。 いったい誰がモンスターを一網打尽にしたのだろうか?
最後に――【神崎からのお願い】
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