第4話 明かされた真実
「何の話をしているのかさっぱりわからないんだが?」
音羽から声をかけられた瑛士は前を向いたまま、眉一つ動かさずとぼけた様子で言い返す。すると、目を細めた彼女が口角を吊り上げながら再度話しかける。
「へえ、白を切れると思っているんだ。四階層へ行く通路に張った結界、瑛士くんから感じる微かな魔力の残滓……どれも、忌み嫌っているはずの読書魔法よね? うまく誤魔化せたつもりかもしれないけど、私にはバレバレよ」
「……何のことを言っているのかさっぱりわからないな。だいたいお前も知っている通り、読書魔法を使うには元となる書物が必要だ」
問いかけを聞き、瑛士の顔がほんのわずかに引きつった。その変化を逃さない音羽は、畳みかけるように声を上げる。
「ええそうね。瑛士くんの言う通り、読書魔法を使おうと思ったら元となる書物が必要。でも、ここは迷宮内……魔力を帯びた不思議な書物はそこら中に転がっているわ。普通の人間には気が付かないかもしれないけど」
音羽が視線を向けた先には、一見何の変哲もない花が咲き誇っていた。それを見た瑛士が不思議そうに問いかける。
「何の変哲もない花が咲いているだけだろ? それがどうしたんだ?」
「そうね、一見普通に見えるけど……ここは光の届かない迷宮内。さらに、不自然に地面が盛り上がっているわ。ちょっと掘り返してみましょうか」
言い終えた音羽が両手で軽く掘り起こすと、地面の中から出てきたのは花が生えた一冊の本だった。拾い上げて土を払うと、題名を読み上げる。
「へえ、『花の大図鑑』ね。さらに根を張っているページにあるのはコスモスね……これって、閉じたらどうなるのかしら?」
「……」
何とか平静を保とうとする瑛士を横目で見ながら、わざとらしく音を立てて本を閉じる。すると、綺麗に咲き誇っていたコスモスは光の粒子になって消える。そして、本を手に持つと無作為にページをめくり始め、ある場所で手を止める。
「奇妙なこともあるのね。この見開きだけなぜか真っ白……しかも、ここだけ不自然に消えているのよね。本が持つ魔力も印刷も……」
「……」
「あれ? なんでかな? 瑛士くんから感じた魔力が、この本が持っているものと似ているような気がするわ。ちょっと確かめてもいいかしら?」
不思議そうに顔をかしげながら瑛士に詰め寄ろうとしたときだった。
「わかったよ、白状する。俺が読み取って使ったんだよ」
苦虫を噛み潰したような顔で瑛士が声を上げると、音羽が満足そうに答える。
「やっと白状したわね。まったく……読書魔法を使ったなら素直に認めればいいのに」
「認めたくないんだよ……ルリに聞かれたらいろいろうるさいだろ……」
顔をそむけると、消え入るような声でつぶやく瑛士。そんな彼の様子を見て、あきれたように大きなため息を吐く音羽。
「はぁ……そこまで使いたくないのであれば、なんで使ったの? まあ、まだルリちゃんは気が付いてないみたいだけど」
「仕方ないだろ……呪われた子供たちの気配が迫っていたんだからさ。ヤツらが気付く前に処理しておきたかったんだよ……」
「そういうことね。まあ気持ちはわかるけど……ちょっとリスクが高すぎるんじゃない?」
目を細めた音羽が問いかけると、瑛士が吐き捨てるように答える。
「お前の言うことも一理ある……が、のんきなことを言っていられる状況じゃないんだ。奴らは上の階層からこっちに降りてきやがったからな」
「は? どういうこと?」
言葉を聞いた音羽が驚いて声を上げると、瑛士が頭を掻きむしりながら答える。
「俺に聞かれてもよくわからない……ただ、飯島女史たちが何か罠と監視網を仕掛けているのは間違いない。それに、今の俺たちじゃ真正面から呪われた子供たちが複数いたら挑んでも勝ち目は薄いからな……ルリは違うと言ったが、奴らも読書魔法を使ってくるぞ。しかも無詠唱で」
険しい顔で話す瑛士を見て、音羽はわざとらしく息を吐くと落ち着いた声で話しかける。
「やっぱり。まあ予想はできていたけど、あの技術をついに確立したのね……」
「あの技術? 何のことを言っているんだ?」
言葉の意味が理解できず、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした瑛士が聞き返す。
「私も詳しくはわからないんだけどね。何らかの方法を使って、魔力を持った本を電子データ化するの。それを研究所のサーバーにバックアップを取って、データとして呪われた子供たちの持つデバイスに送信して使用させる……ってことらしいわ」
「そ、そんなことができるわけ……」
「普通に考えればね。データとして取り込んでも、魔力まで保存できるわけじゃないから……でも、現実に飯島サイドは実用段階までこぎつけている可能性が高いわ。瑛士くんも見たでしょ? ヤバターが消失した動画を」
「ああ……ありえない消え方をしたヤツだな……」
二人の脳裏に浮かんだのは、呪われた子供たちに突っかかって存在ごと消されてしまった迷惑系配信者の末路だった。あの時、画面に映し出された様子から、間違いなく読書魔法の類が使われたと音羽は考えていた。
「はっきりとしたことはわからないし、全員が全員使えるわけでもなさそうだしね……」
「それにしても飯島一人でそんな技術を確立するなんて、不可能じゃないか?」
話を聞いていた瑛士が、頭に浮かんだ疑問を音羽にぶつける。すると、彼女は顔をそむけながら呟く。
「ええ……そうね……でも、この研究は飯島女史が主体で行っていたわけじゃないの……」
「は? どういうことだ?」
驚いた瑛士が問いかけると、音羽が震える声で口を開く。
「驚かないでね……私も一部協力していたんだけど……この研究の発案者は、瑛士くんのお父さんなの……」
最後に――【神崎からのお願い】
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