第2話 一番強いのは?
「いつもの調子でルナに噛みついた時、思わぬ失言をしてしまった瑛士。目の前に立っている音羽が聞き漏らすはずもなく、鋭い視線が突き刺さる。
「どうしたのかしら? 黙っていたらわからないわよ」
「えっと……その……」
頭から滝のように汗が流れ落ち、必死に言い訳を考える瑛士。そんな彼の心を見透かしたように圧を掛ける音羽の表情は笑顔だが、見つめる瞳は鋭さを増している。ゆっくり一歩踏み出すと、片膝を付いて視線を合わせて話しかける。
「あれれ? 私に聞かれたらまずいようなことでもあったのかしら?」
「別に聞かれてまずいわけじゃないんだが……そんなに大したことじゃないというか」
「へえ。大したことじゃないなら、話してくれてもいいと思うけど?」
「……」
どんどん墓穴を掘る悪循環にハマってしまい、何も言い返せず固まってしまう瑛士。そんな彼の様子を見て、音羽が小さく息を吐くと落ち着いた声を上げる。
「まったく……ほんと昔っから焦ると墓穴を掘るのは変わってないんだから。いい加減交渉事は苦手だって自覚したらどうなの?」
「……おっしゃるとおりでございます」
「変なところでプライドが邪魔するのか知らないけど、意地を張るのはやめた方がいいと思うわ」
先程までの圧力は消え去り、諭すように語りかける音羽。彼女の様子を見て、大きく息を吐くと諦めたような表情で瑛士が口を開く。
「ほんとにお前には敵わないな……」
「当たり前でしょ? いつからの付き合いだと思っているのよ」
「間違いないな……俺の負けだ……」
「最初からわかっていたことでしょ? そもそも勝負にすらなっていないわよ」
苦虫を噛み潰したような表情で声を絞り出す瑛士の姿を見て、額に右手を当てて大きくため息を吐く音羽。
「キュー、キュキュキュ」
二人の様子を見ていたルナが瑛士に話しかけるように鳴き声を上げる。
「……急に鳴き声を上げてどうしたんだよ……」
「キュー、キューキュキュキュ」
「は? 音羽お姉ちゃんの言うとおりだ。さっさと素直になれ、楽になるぞ? って、お前は何を言っているんだ?」
なぜか勝ち誇ったような顔で話しかけてきたルナに対し、眉間にシワを寄せながら聞き返す瑛士。
「キュ? キュキューキュ」
「どうした? 素直が一番だぞ? さあ認めろ、俺に勝てないという事実を……って、いつ俺がお前に負けたんだ?」
「キュ……キューキュキュ」
問いかけを聞き、わざとらしく大きなため息を吐いて顔を左右に振るルナ。その様子を見た瑛士のこめかみに青筋が浮かび上がる。
「ほう、やはりお前とは相容れないようだな。どちらが上の立場かきっちりわからせておかないといけないようだ……」
「キュー? キュキュ」
「何を言っているんだ? お前が勝てるわけないだろ……って、いい度胸をしているじゃね―か! やはりニ階層で息の根を止めておくべきだったな」
「キュ」
怒りのオーラが増していく瑛士に対し、鼻で笑って煽るルナ。二人の視線が交わると、激しい火花が散り始める。一触即発の空気が濃くなり始めた時、二人の脳天に激痛が走る。
「ギャ!」
「ギュ!」
頭を抑えてその場にうずくまる瑛士とルナの背後から、怒りに満ちたルリの声が響き渡る。
「こりゃ、お前たち! 喧嘩するのは止めるのじゃ!」
「ル、ルリ……お前な、もう少し手加減ってものを……」
じわじわと襲いかかる痛みに耐えながら振り返って顔を上げ、抗議の声を上げる瑛士。そんな彼のことなど気に留めること無く、淡々と話を続けるルリ。
「なんじゃ? 勝手にケンカを始めようとするご主人とルナが悪いじゃろ」
「うっ……それを言われると……」
正論をぶつけられ、言葉に詰まって何も言えなくなる瑛士。
「ルナもルナじゃ。気持ちはわからんでもないが、やるのであれば時と場所を考えるのじゃ」
「キュ、キュー」
主人から怒られて耳が垂れ下がり、項垂れて反省の声を上げるルナ。二人の落ち込む姿を見て、ルリが呆れたように話を続ける。
「まったく……こんな話をするのは何度目なのじゃ? もう少し仲良くするということはできないのじゃろうか」
「仲良くしろって言われても……」
言葉を聞いた瑛士がふてくされたように呟くと、今度は音羽が呆れたように話しかける。
「ほんと頑固なんだから……別に死ぬわけでもないんだし」
「いや、そういうことじゃないぞ、音羽! 男には負けられない戦いというものがあるんだ……」
両手の拳を握りしめ、熱く語り始める瑛士。次の瞬間、口を開いた音羽の一言で、彼のプライドは砕け散ることになる。
「はぁ……勝ったところで得るものも無さそうだけど?」
「グハッ!」
火の玉ストレートで撃ち抜かれ、胸を抑えたままその場に倒れ込む瑛士。全身を小刻みに震わせ、うめき声を上げながら突っ伏してしまう。
「あーやっぱり音羽お姉ちゃんが最強なのじゃ……いいか、ルナ。絶対に逆らってはならんぞ」
「キュ、キュ……」
二人のやり取りを見ていたルリが思わず呟くと、大きく顔を上下に動かして頷くルナ。
「ク、クーン」
完全に置いてきぼりを食らった鉄牙狼たちはどうすることもできず、遠巻きに眺めながら情けない鳴き声を上げる。
「あ、忘れていた。あんたらまだいたのね……さて、どうしましょうかね?」
鳴き声を聞いた音羽がゆっくり立ち上がると、怯えるモンスターたちに視線を向ける。
はたして、鉄牙狼たちの運命はどうなるのか?
最後に――【神崎からのお願い】
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